生きることの意味 (ちくま文庫 こ 1-1)

著者 :
  • 筑摩書房
3.63
  • (24)
  • (23)
  • (36)
  • (5)
  • (4)
本棚登録 : 499
感想 : 50
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480020345

作品紹介・あらすじ

父と兄に見守られて育った幼い日々は、学校に通うようになって、がらりと変った。小さな肩に背負いきれないほどのつらい出来事が彼を襲う。さまざまな衝突をくり返し、死を考える彼をささえたのは、人間のやさしさだった。戦時下の日本に生まれ、敗戦を迎えるまでの一在日朝鮮人少年のおいたちをたどりながら、人間が生きることの意味を考える。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 朝鮮人としてブレない生き方をしてきたお父さん。
    日本の歴史を学びなおす必要があると感じた。
    教育とは。

  • 自分を第三者として見つめてみる必要性を感じさせてくれました。

  • 在日朝鮮人二世として戦中の時代に日本で育った著者の自伝。

     母は著者が生まれてまもなく亡くなっており、石炭置場や土方で働く寡黙な父と真面目な兄との男だけの長屋生活。
     幼いうちは家庭や町内がほとんど全世界であって、それは貧しいながらも保護され、守られた世界であった。
     ところが小学校に上がり、だんだんと世界が広がってゆくなかで、母がいないこと、貧しさの辛さを痛感する経験を持ったり、”朝鮮人”という生い立ちが~その経緯や意味するところの正確な認はないままに~心に影を落とすこととなる。
     成長の中でぶち当たる困難に、これらが色濃く投影される現実の中、少年の心に複雑な形ではびこるさびしさ、被差別感情は読むものを緊迫した感情に弾き込む。

     時は日中戦争から太平洋戦争へと軍国日本が破滅に向かって突き進んでいた時代。子供の中にも”朝鮮人”であること、その一方で日本で生まれ育って生活している現実~こうした分裂した存在を生きるということは、子供ながらにも深刻なアイデンティティの乖離をもたらしたものと思う。
     そういう中でも、不器用で厳しい父親と真面目で弟思いの兄との衝突を交えながらも、最後の処ではお互いを思いやる優しい心で結びついた家族。阪井先生のような子供に信頼の心を育てることのできる素晴らしい大人との出会いなどを通じて、ぎりぎりのところで死ぬことから踏みとどまってきた大変な生活史である。

     戦争が終わったあと、一部の朝鮮人が敗戦国民日本人に対して手のひらを返したように威張り散らしていたようなことを耳にした、この無学で、著者の兄の上等小学校進学にも反対した頑固な父親が言った言葉。

    「日本人は、朝鮮が困っているとき、助けてくれようとはしなかった。じゃが、いまは、日本が困難にみまわれているときじゃろ。朝鮮人は、この困っている日本人を踏みつけにして、うらみをかうようなことをしていいんじゃろうか。これまでの日本人と同じことをしては、なんにもなるまい。他人のうらみを買うことをしたら、あとできっとそれは我が身に返ってくることになるんじゃ。困っているときは、だれとでも助け合うのが、人のとる道じゃろ。この人の道を踏みはずしたら、朝鮮の解放もありゃせん。解放されたというからには、困っている人を助けてこそ、ほんとうの解放というもんになるのじゃないのか。いま困っている日本人を、困っているからといって踏みつけにするようなやつは、また朝鮮を滅ぼすようなことをするにちがいないんだ」

     学問のあるなし、どんな職業についているか、金持ちか貧乏人か、どんな生い立ちかに関係なく、一人一人の人間にその人を気遣う心をもって接することができる”優しさ”。それが人間存在をぎりぎりのところで支えている人間の尊厳の根本である。

  • 個人的に、自分自身が今の職業を目指すきっかけになった本です。あらすじの紹介はすでにいろんなところで書かれているであろうくらい有名な作品なので、あえて紹介はいたしませんが、今の時代だからこそこういう人たちの人生には日本の人は触れておいたほうがいいと思いますし、著者に対して「お前は、自分の名前を忘れたことがいいことだと思っているのか!」と恫喝した先生の想いには目頭を熱くさせられました。持っておいて、ほんと損のない一冊だといえます。『ぼくは12歳』という作品も併せておすすめしたいです。

  • 動乱の時代にあって繰り広げられた成長の記憶が淡々と語られる。小学校 5 年で出会った阪井教諭の人柄にとても惹かれる。

  • 夫に勧められ、自然と一気に読んだ。
    幼少期の貧困生活は凄まじく過酷で、よく生き抜いてこられたなぁと思った。当時の朝鮮人差別はこんなにもひどかったんだと日本人として恥ずかしくなった。
    また小学校の先生の資質にも色々あって、
    素晴らしい先生に出会ったことは救いだった。

  • 血と骨の影響で在日朝鮮人が著者の本を何冊か読んでいたときの一冊。内容は忘れてしまったが、いい印象が残っている。また読みたい。

  • 人の悪口も、傷付けたり陥れたりしようとすることも、拒絶することも大好きだった。
    そんな風になる前は、嘘が嫌いで、ズルが嫌いで、人に恥じない姿でいるのが信条だったのに。
    そうなってしまった理由は、自分のせいで大好きな人が傷付く姿を見てしまったからで、人はそれまで頑として支えにしてたものを失うと一瞬で駄目になるのだと思った。

    そんな訳で、とにかく人への優しさと無縁になってしまった私をまた元の自分に戻してくれたのも、やっぱり愛する人との出会いで、労わることも思いやることも、誰かを大切にすることの幸福、その全てを思い出させてくれたのでした。

    私は一生、この人を大切に大切に、ずっと喜ばせ続けたいと思ったのです。

    私にとってはそれが生きることの意味だと、読んでて思いました。

  • 朝鮮で生まれ、日本で育った著者の話。日清戦争、日露戦争、日韓併合(1910年)と様々な歴史があり、朝鮮人に対する差別が強かった時代。幼少期を、ハーモニカ長屋で暮らす著者のことを想像すると、貧しくてとても大変な時代だったと思う。
    最近、戦争に絡めた話を読むのが好き。今がより豊かな時代なんだな、当たり前は当たり前じゃないんだなと思わせてくれるから。人間、不満になると常にないものばかり意識するようになるから。

  • 人を動かすやさしさを知った。 人との出会いを一つ一つ感謝して、それが自分の糧になるようせいいっぱい生きていきたい。

全50件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

社会心理学者。主たる研究テーマは偏見・ステレオタイプ・差別。特に在日韓国・朝鮮人に対するもの。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(心理学)。現在、神奈川大学非常勤講師。著書に『レイシズムを解剖する』(勁草書房)、共著に『偏見や差別はなぜ起こる?』(ちとせプレス)など。

「2020年 『無意識のバイアス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高史明の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×