星の林に月の舟: 怪獣に夢見た男たち (ちくま文庫 し 5-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480025289

作品紹介・あらすじ

1960年代半ば、「ウルトラQ」放送開始に沸く円谷プロに、一人の若者が迷い込んだ。特撮の神様円谷英二を始め、怪獣番組に情熱を燃やす人たちのなかで、若者もスタッフとの恋や友情、離別を味わいながら、監督として怪獣作りの奇妙な魅力の虜となっていく。テレビが生んだ最強のヒーロー、ウルトラマンを作った男たちの青春をいきいきと描いた傑作小説。

感想・レビュー・書評

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  • 『シン・ウルトラマン』を観たのでなんとなく読み返してみる。
    うちにあるのは単行本を読んだが(本文二段組)登録がないので文庫に感想を。
    小説としてはうまくないけれど、円谷プロの黎明期を関係者が書く、という内容によって救われている……などとお堅いことは言わず、当時の特撮関係者の熱気と殺伐とした裏事情は1ウルトラファンとして楽しい。
    各タイトルや怪獣の名前、関係者の名前などは適当に変えてあるがすぐわかるので、「これはあれだな」と考えるのも楽しい。
    たしかに特撮ものは「玩具屋」主導になっているにおいが現代でもプンプンするが、マーチャンダイジングの儲けを制作費に回せるなら致し方のないことなんだろうなぁ……。ただ、いかにも「玩具売るため」という意図がわかる小物が多すぎるのも、夢がないよなぁ。

  • 実相寺昭雄氏は今年で生誕80年、没後11年を迎へます。享年69は如何にも早かつたですなあ。
    もつともこの人の場合、長寿を全う出来ても自分のやりたい事が出来たかどうか。否、出来たとしても世間に認められたかどうか、わたくしは大いに難しかつたのではないかと想像してゐます。

    『星の林に月の舟』は、実相寺氏がその名声を確立した「円谷プロダクション」に於ける実録小説であります。即ちフィクションなのですが、氏の実体験を基にしてをり、結構な部分が事実と重なるのでは。登場人物で実名で出るのは「円谷英二」「円谷一」「金城哲夫」くらゐですが、他の人物も実名から想像できる名前になつてゐるので、ウルトラ好き、特撮好きなら容易に分かる仕掛となつてゐます。

    実相寺氏自身は「吉良平治」として登場します。彼はKXTVの演出家として活躍してゐましたが、何せ癖の強い人なので万人向けの映像を作りません。美空ひばりの接写をして毛穴やのどちんこまでお茶の間に流してしまふ。それが原因で干されてしまひ、円谷プロへの出向といふ名目で閑職に追はれます。

    当時の円谷プロは、丁度「ウルトラQ」の撮影中で、吉良平治も途中から脚本参加しますが、カネがかかり過ぎるといふ理由でボツになります。続く「ウルトラマン」「ウルトラセブン」では主に演出を担当。現在も語り草になつてゐる異色作を連発します。
    ただ彼の嗜好は、円谷英二の理想から随分離れたところにありました。円谷英二は、子供に夢を与へる、美しいものを作りたいと日々考へてゐました。現実を写すリアリズムは、他の人が勝手にやるから、態々円谷がやる必要はない。だから怪獣も恐ろし気ながらどこか愛嬌の感じられる造形になります。流血などは以ての外。

    ところが実相寺氏の嗜好は「生理的な嫌悪感を催す、気持ち悪いもの」「お茶の間が凍り付くやうな、鳥肌の立つやうなもの」であります。発注した怪獣「ガマクジラ」や「シーボーズ」などが、実際の造形が自分の意図したものとは程遠いものとなつたと文句を言つてゐますが、これは当然の事です。円谷英二の意図を完全に把握してゐる高山良策だから、あのぬいぐるみになりました。
    従つて実相寺昭雄の代表作を「ウルトラマン」としたり、「ウルトラマン」を象徴する存在として実相寺氏を取り上げるのは、全くの的外れと申せませう。

    何だかネガチブな事ばかり述べましたが、本書は当時のテレビ界、芸能界の空気を良く伝へてゐて興味深い一冊であります。「怪獣に夢みた男たち」の本音のぶつけ合ひも熱い。現在、撮影現場でかかる事をしてゐたら到底商売にならないだらうな、と想像させます。
    ところで、「可能幸子」のモデルはゐるのでせうか。また、スクリプター「戸倉則子」のモデルは宍倉徳子さんですか?

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-719.html

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