- Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480056344
作品紹介・あらすじ
地中海に広がる古代遺跡から北ヨーロッパ、そしてアメリカ大陸に至る森林調査の旅の記録をもとに、花粉分析と先端考古学の成果を駆使して森と文明との関わりを考察した、もう一つの世界史。
感想・レビュー・書評
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花粉調査からその時代・地域の植生を推測し、その植生に基づいてそれぞれの文明がどのような状況であったか解説する自然愛護主義者の著作。
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森林を刈り尽くした文明は亡びる、というシンプルな事実を教えてくれたのは、ジャレド・ダイヤモンドの『文明崩壊』だった。本書でも、その事実をわかりやすく説明してくれている。新書なので読みやすいのもありがたい。
レバノンスギの争奪戦で亡びたメソポタミア文明や、オリープの木に隠されたギリシア文明の興亡と痩せた地中海、18世紀に森林を刈り尽くしてしまったイギリスやドイツ、モアイ島の戦争など、人類の興隆とともに繰り返されてきた同じ過ちを読むたびに、いたたまれない気分になる(オリーブは地中海の豊かさの象徴だと思っていたが、マツと同じように荒廃した土壌でも育つ”貧困”の樹木の代表とは知らなかった)。
西洋の古代文明が大理石のイメージとして想起されるのは、単に建築材料としての木材がなかったからという説も目からウロコだった。もともと神殿のエンタシスは美的感覚から生まれたものではなく、木そのものを表していたのだ、というのが著者の持論でなかなか興味深い。
侵略者の欲望のおもむくまま次々と消滅していった西洋の森林と比較すると、同じ頃に危機的状況を回避した日本の江戸幕府と各藩の森林政策はやはり優れていたことを実感した。日本の森林は、戦中戦後の大規模伐採・大植林を経て、今では育ちすぎた木をいかに伐採して健全な森林を維持していくかが課題になっている。こういった事実を、小学校などでも教えた方がいいと思う。 -
メソポタミアにはじまる都市文明は森林資源の過度な利用による人為的な環境破壊により発展そして衰退した。森と人・文明との関わりを花粉分析や考古学の成果をもとに解説。
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メソポタミアに始まるいくつもの文明が、森林を収奪することによって成り立ち、森林資源が失われる度に衰退を繰り返してきたことを、花粉分析の結果から明らかにしている。
都市の形成による支配階級の誕生、金属の精錬や砂糖の生産のための薪の需要、一神教の普及による人間の自然支配の概念などが森林破壊と森林資源をめぐる争いを招き、資源の枯渇や、土壌流出と湿地拡大による疫病の蔓延などによって衰退していった。
一方で、温暖湿潤な気候に恵まれた日本では、森の恵みを享受し、自然と共存した生活を続けることができていた。西洋的な文明だけが発展ではないにも関わらず、世界全体が西洋化しつつある現代に疑問を投げかける。
今日直面している地球環境問題も、自然保護といった断片的な問題なのではなく、文明のあり方そのものが問われていることが理解でき、とても示唆に富んだ内容の書である。