エコロジカルな経済学 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480061478

作品紹介・あらすじ

地球温暖化や酸性雨、大気汚染などは、さまざまな要因が絡み合って生じるため、どれだけの被害を引き起こすのか、予測が難しい。しかも、いったん問題が生じると、人間の生活基盤を破壊する恐れすらある。こうした問題に対し、これまでの経済学はほとんど無力であった。生産と消費において、ごみが出ることを想定していなかったからだ。本書は、主流派経済学のこうした限界を明らかにし、市場経済の活動を妨げることなく環境問題を解決するための、実効性のある処方箋を提示してゆく。経済と環境を両立させるための基礎理論から政策論までを展開した、エコロジカルな経済学の入門書だ。

感想・レビュー・書評

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  • 新古典派経済学の前提がいかにおかしいか。それを組換えた際の理論がどんなもので、どんな政策を考えうるか。

  • 2003年刊。著者は千葉大学法経学部助教授(なお元環境庁所属官僚)。◆従来の経済学の枠組みでは、外部性に相当し考慮外とされてきたゴミ・CO₂排出、発電における排熱等。が、これを「費用概念」に取り込み経済学的な分析ができないか。こういう問題意識から生まれた本書。◇収穫逓減の仮定、利潤最大化の仮定など、既存の経済学の枠組みを越えないで、ゴミ・排出物・不要物の存在を取り込もうとしているのが、理論的な受け入れをより優先した論法と言えよう。また、環境庁出身らしく、同省発刊の環境白書からの多い引用は他書に見ないか。
    ◆この試みが成功しているかにつき、判断しうる力は個人的にはないが(そもそも、経済学が措定し、本書も前提とする収穫逓減の仮定、合理的人間の仮定、利潤最大化の仮定などに根本的疑義を持っていることもあるが)、少なくとも、環境問題を取り込み、排出物はあることを前提にして論じていく経済学でなければ、見るに値しないことは確かか(勿論、経済学の思考枠組みや用語、グラフの見方やそれの意味を学習する目的なら別だが)。

  • 宇宙船地球号の話から始まり、ボールディングの提唱した「カウボーイ経済」から「宇宙飛行士型経済」への移行を主題に論じている。
    この本が他の環境経済学の本と差別化出来る点は、解決策として外部生の内部化に議論を集約しない点だと言える。
    筆者は従来の経済を「ごみの発生を考えない経済学」と定義し、ごみを考える生産理論などを述べるとともに「ゴミの発生を考慮に入れた経済学」を提唱している。

    また、基礎部分のミクロ経済学のを解説するなど、理解がしやすいよう平易に書かれている。

  • Men are anxious to improve their circumstances,
    but are unwilling to improve themselves;
    they therefore remain bound.
                 James Allen
     
    本書は、エコロジカルな経済学(以下、生態経済学)に基づく経済モデルを説明し、普及させることによって、大量生産大量消費型経済から循環型経済へのシフトを啓発するものである。そのために著者は、まず、①生態経済学が現れた背景を説明し、次に②著者の生態経済学のついてのアプローチを示している。
     ①著者の説く生態経済学の現れた背景は以下の通りである。すなわち、元来の新古典派経済学は、人間の経済のみで完結する理論を作り上げてきた。しかし、環境問題は人間の経済と環境との接点で生じる問題である。このような問題は、自己完結する経済理論では十分に取り扱えない。そこで、生態経済学は、人間の経済を環境に開かれたものとして、人間の経済を環境に開かれたものとして、相互依存性を把握するために現れた。
     ②著者は、生態経済学についてのアプローチとして、まず古典派経済の枠組を環境に開かれた枠組へと再構成することを提案する。次に、再構成した経済学の枠組で時間・空間・社会という軸によって環境問題を具体的なものとして捉える。その上で、著者はいかなる政策を採るのがよいかを提言している。種々の方法がありうるが、情報的手法によるのが最優先であると主張し、まずは事業者における環境負荷量の公表がその第一歩だとする。

    全体としては同意。
    本書は、生態経済学が新古典派経済学を変える力を有することを知らしめるものである。この生態経済学という問題提起は鋭く、実現すれば新古典派経済学からのパラダイム転換。すなわち、生態経済学にしたがって、著者はゴミが出ないという仮定を置く抽象的な非現実的な経済モデルをゴミが出る具体的現実的な経済モデルへとモデルチェンジを図る。このモデルによって、環境と経済が両立するということが論理的に示されている。のみならず、モデルの存在は、現在及び将来世代の考慮(世代間の衡平)、環境問題の具体的把握というその後の政策論の展開を説得的なものにしている。

    個別には問題あり。
    もっとも大きな問題は、生態経済学のモデルから環境問題の再構成が論理的につながっていないことである。モデルの骨子は、環境と経済が両立することである一方、環境問題の再構成の骨子は、時間・空間・社会という軸を用いて、環境問題を具体的に把握しようという点にある。確かに、環境問題は外部性の原因・結果の間のプロセスの問題としているが、外部性という単語でしか両者はつながっておらず、しかもそのプロセスをいかに経済モデルに組み込むかという点は何ら示されない。両者、独立した論理の展開といえる。

  • 現在の環境問題に対しての世界の状況を生活習慣病に喩えて説明している部分が非常に興味をひいた。生活習慣病とは長い人類の歴史が形成した人間の身体のメカニズムと現代社会の生活スタイルとのギャップから生まれるメカニズム側への過剰負担によって生まれる。まさに、地球の生活習慣病が環境問題であると言える。

    生活習慣病が薬による治療だけでなく、生活スタイルの見直しを迫られるように我々も、生活スタイルを見直す必要がある、しかしそう簡単にビールが止められないように今の生活スタイルはいきなりは変えられない。

    この本はスタイルを変える政策を経済学的に考えると、どのようになるか?という答えを小さな形で与えてくれる。

  • 難しい、非常に難しい。

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著者プロフィール

倉阪 秀史(クラサカ ヒデフミ)
千葉大学大学院社会科学研究院教授
千葉大学大学院社会科学研究院教授。
1964年、三重県伊賀市生まれ。専門は、環境政策論、持続可能性の経済学、政策・合意形成論。
87年、東京大学経済学部経済学科卒業。同年環境庁(現環境省)入庁。環境基本法、環境影響評価法などの立案に関わる。94~95年まで米国メリーランド大学客員研究員。98年千葉大学法経学部助教授、2007年同准教授、08年同教授を経て、17年より現職。
著書に『政策・合意形成入門』(勁草書房)、『環境政策論 第3版』(信山社)などがある。

「2021年 『持続可能性の経済理論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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