「海洋国家」日本の戦後史 (ちくま新書 727)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480064325

作品紹介・あらすじ

戦後世界でアジアほど、巨大な変貌を遂げた地域は他にない。独立と革命、冷戦と内戦で覆われたかつてのアジアは、世界で最も経済的活力に溢れる地域へと姿を変えた。一体何がこのアジアの変貌をもたらしたのか。その鍵を握る海域アジアの戦後史は、海洋国家・日本の歩みと軌を一にするものであった。アメリカの冷戦戦略やアジアにおける大英帝国の解体、そして「中国問題」の台頭というアジアの現在を形作った劇的な時代における日本の秘かな航跡を描き出し、再び政治の時代を迎えつつあるアジアの中での新たな役割を提示する。

感想・レビュー・書評

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  • 1965年前後のインドネシアと日本を舞台にした商社系小説を読みたくなりました。山崎豊子さんの『不毛地帯』のような。。

  •  1950~60年代のインドネシアを中心としたアジア、そして日本との関わりを描いている。本書全般を貫く柱を自分なりに解釈すれば、「冷戦(米vsソ)」「脱植民地化(=独立と国造り)」「革命(中vs米ソ)」のせめぎ合いということだろう。バンドン会議は単なる新興国の連帯だったわけではなく、内実は冷戦を背景とした対立があったとのこと。スカルノは独立の立役者として国の指導者になったが、後に中国及び共産党寄りとなってしまう。英は旧植民地の独立後も自らの影響力を残すのが優先課題であり、反共優先の米とは必ずしも一致しない。
     そんな中、日本はもちろん米の同盟国で自由主義陣営であったが、少なくとも冷戦の文脈では米一辺倒ではなく、「架橋」を自らの使命だと考えていたとのこと。このことを筆者は、経済志向と「非政治化」、しかし狭義の外交や権力政治とは別の、しかし隣接する領域における「政治」に他ならなかったとも述べている。

  • 東南〜東北アジアの戦後史。脱植民地、冷戦と言った文脈上でしか近現代アジアの国際政治を語れないあたりに、大航海時代〜植民地主義時代の西欧の影響力の強さを感じる。中東やアフリカも同じなのだろうか…。
    多分、日本も大きく影響を受けている。幸か不幸か、「影響」の意味合いが全く違うが。

  • インドネシアと日本という着目点はいいかも。
    日本外交の描き方がおもしろい。

  • アジアの冷戦期の外交史を日本との関係でまとめている。「独立」「革命」の時代から「開発」の時代への移り変わりについて、そこでの日本の役回りについて、そして、その流れが東南アジアから中国へ波及した点について指摘されている。この見方は新鮮だった。

  • 現・政策研究大学院大学教授の宮城大蔵によるインドネシアに焦点をあてた戦後東南アジア国際政治史。

    【構成】
     プロローグ
     第1章 「アジア」の誕生-バンドン会議と日本のジレンマ
     第2章 日本の「南進」とその波紋-独立と冷戦の間で
     第3章 脱植民地化をめぐる攻防-日英の確執、中国との綱引き
     第4章 戦後アジアの転換点-1965年
     第5章 アジア冷戦の溶解-米中接近と「中国問題」の浮上
    エピローグ

     正直に言って、10年ほど前までNHKの記者を務めていたという経歴、かの高坂正堯の著作のタイトルを意識した大げさな表題からして、本文を読むまでそこまで期待していたわけではなかったが、タイトルに釣られて購入してしまったというのが正直なところである。
     初めに断っておかねばならないと思うが、本書はタイトルから想像されるような、つまり高坂正堯の著作のような評論とは全く異なる内容である。つまり、海洋国家としての日本というよりは、白石隆が『海の帝国』で述べた「海のアジア」たる東南アジア、そして東南アジアきっての大国であるインドネシアをとりまく戦後国際政治がその主たるテーマであり、通読してみても日本がメインであるとはとても思えないし、まして「海洋国家=日本」が語られるページがどこにあったのか探さねばわからないぐらいである。

     タイトルはともかくも、内容は秀逸である。冒頭は、輝ける非同盟諸国、アジア・アフリカの結集として知られる1955年のバンドン会議である。よく知られるように、その前年にインドのネルーと中国の周恩来が共同して平和5原則や、同会議での平和10原則は、超大国の権力政治とは一戦を画する非同盟諸国の連帯、平和主義を標榜するとされている。しかし、本書で述べられているように、蓋を開けてみればそこには巨大な軍事力を持って周辺諸国に常に脅威を与える中国の存在や、共産圏に鋭く批判を投げかける反共自由主義国家と社会主義国家との対立など、諸国の結集や団結とはほど遠い状態であった。つまり、主権・領土の相互不可侵を訳する平和原則は、その実共産中国が建国以来継続してきたアジア各地への革命支援政策を放棄するという極めて現実的で切実なアジア諸国の総意と中国の譲歩が示されていたと本書は指摘している。

     独立戦争を経てオランダから独立を果たし急進的に脱植民地化を進めるスカルノのインドネシアは、1950年代後半の内戦の時期に危機に瀕した経済の救済を日本に求めた。特にオランダが担っていた海運が一挙に引き揚げたことで生じた空白を、日本の賠償で埋めようとしたのである。このインドネシアとの賠償は、フィリピンとの関係から交渉がもつれたが、最終的には賠償を梃子にして、戦後「非政治化」された日本が経済主義的な意図で再び「南進」するきっかけとなった。この日本の「南進」は、露骨な介入を避けるアメリカと戦後のマレー連邦を構想するイギリス両政府にとって、望ましいものではなかったが、しかし許容せざるを得ない状況であった。
     1957~58年の内戦を乗り切ったスカルノは、インドネシア共産党と軍部という相反する勢力を支配下におき巧みにコントロールすることで、強力な政治基盤を築いた。しかしその容共の史背は、そのまま中国共産党との結びつき「北京=ジャカルタ」の枢軸を形成するかのように、アメリカ政府の目には映ったであろう。

     そこにはもちろん日米英などの国々の思惑も交錯てしていたが、日本政府はこと対インドネシア外交になると、現実的な計算を行っていた。中国へ急接近をしたスカルノ体制に距離を置きながら、インドネシアを中国側から日本側へ引きつける努力をしていたのである。スカルノ体制が終焉を迎えた「9.30事件」に際しては黙殺に近い態度をとっていた日本政府であったが、スハルト体制が新たにスタートする頃、インドネシア経済の立て直しのために先進国に対して支払猶予と追加融資を引き出すために奔走し、スハルト体制のインドネシアを自由主義陣営にとどめ置いて日本の投資先として長期的な成長国となることを望んだのである。


     全体を通して、戦後の日本外交をインドネシアというフィルターを通して眺めるというのは非常に面白い試みであると思う。そして、本書はそれに成功している。ただ、惜しむらくはまさにインドネシアの体制が激変する際に政治的、軍事的に真っ向から衝突していたインドシナや印パとの相互的連関が述べられず、インドネシアのみにスポットがあてられていることがテーマそのもののスケールをやや小さくしているように感じられた。また、対インドネシア関係についても、日本政府による賠償やODAだけではなく民間企業の動向も含めてどのような関係が構築されていたのかが「非政治化」された関係はでなおさら重要になってくるのはないかとも感じられた。

  • [ 内容 ]
    戦後世界でアジアほど、巨大な変貌を遂げた地域は他にない。
    独立と革命、冷戦と内戦で覆われたかつてのアジアは、世界で最も経済的活力に溢れる地域へと姿を変えた。
    一体何がこのアジアの変貌をもたらしたのか。
    その鍵を握る海域アジアの戦後史は、海洋国家・日本の歩みと軌を一にするものであった。
    アメリカの冷戦戦略やアジアにおける大英帝国の解体、そして「中国問題」の台頭というアジアの現在を形作った劇的な時代における日本の秘かな航跡を描き出し、再び政治の時代を迎えつつあるアジアの中での新たな役割を提示する。

    [ 目次 ]
    第1章 「アジア」の誕生―バンドン会議と日本のジレンマ(「アジア」の誕生 バンドン会議への招請状 ほか)
    第2章 日本の「南進」とその波紋―独立と冷戦の間で(立ちはだかる戦争の傷跡 賠償交渉という関門 ほか)
    第3章 脱植民地化をめぐる攻防―日英の確執、中国との綱引き(「南進」の深化と行方 イギリス帝国再編の試み ほか)
    第4章 戦後アジアの転換点―一九六五年(九・三〇事件―謎のクーデター スハルト少将の裏切り、事件の謎 ほか)
    第5章 アジア冷戦の溶解―米中接近と「中国問題」の浮上(米中の「手打ち」、冷戦と革命の放棄 中国に急接近する日本 ほか)

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著者プロフィール

1968年東京都生まれ。92年、立教大学法学部を卒業後、96年までNHK記者。2001年、一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。現在は上智大学教授。著書に『バンドン会議と日本のアジア復帰』(草思社、2001年)、『戦後アジア秩序の模索と日本』(創文社、2004年、サントリー学芸賞・中曽根康弘賞受賞)、『現代日本外交史』(中公新書、2016年)、共編著として『戦後日本のアジア外交』(ミネルヴァ書房、2015年、国際開発研究大来賞受賞)、『普天間・辺野古 歪められた二〇年』(集英社新書、2016年)などがある。

「2017年 『増補 海洋国家日本の戦後史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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