農業問題: TPP後、農政はこう変わる (ちくま新書)

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  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067616

感想・レビュー・書評

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  • 関税なくなり安い農作物が流入しても、オーストリアやアメリカで生産して日本に回される絶対量を考えると影響は少ない、という現状の量を前提とした議論でよいのかは疑問。

  • 日本の農業の現状と、世界で最近話題の貿易に関することについてよく知りたくこの本を読み始めた。難しい専門用語やかなり詳細なデータなど、知識不足の状態で読むとなかなか読み進められないような要素が多くあったが、普段自分たちがメディアから抱くような日本の農業の現状とは全く違う状態に今日本の農家があることをを知ることができた。例えば食料自給率。自分たちは食料自給率は重要で、日本ではだんだん低下してきているので、どうにかして回復しなければいけない。とメディア等からは印象を抱くが、実際はその計算方法にカラクリがあったり食料自給率を上げることが食料安全保障に直接つながるわけではなく、諸外国との関係性を築き食料のソースを確保することこそが真の目的であることなどがわかった。他にも、日本の農業は世界一、国産は安全のような印象を抱いていたが、農地の集積の問題であったり、旧態依然とした、補助金によって国内の農業を守るような制度が根強く残っており、最先端を走る先進国と比べて農業で劣ってきていることもわかった。

  • 国の政策の委員さんを長年務めているだけはある。網羅している気もするし、上から目線の気もする。

  • 本間正義『農業問題』

    前半部の日本農業の問題点への指摘は納得のいくものばかり。
    今でも公共事業や病院の駐車場などでキャピタルゲインがある農地。
    これを期待している以上、ただ同然の税金しかかからない農地を手放す農家はおらず、その結果新規就農者が農地を取得できない&規模拡大したい農業法人が一箇所にまとまった農地を取得できない、といった問題点が未だにある。
    早くて農地への税金をあげて、農地の流動化を促すべき。
    この辺りを正確に書かれている良書なのだが、後半部のTPP対策は評価しがたい。そもそも、稲作農家への批判が多いので、野菜農家の僕には実感がわかないところがある。
    今の農業問題を的確に指摘している良書。

  • 「TPP後、農政はこう変わる」という副題だが、「TPP後、農業はこう変わるべき」という内容。農政については、「日本農業の真実」ほど、くどく書かれていないので分かりやすい。また規制改革論者で、主張は小気味よい。

    統計値について改めて本書から抜き出しておくと、
    ・農家は253万戸、うち販売農家163万戸、自給的農家90万戸(2010年)
    ・農業就業者は201万人(2011年)
    ・農業経営体は168万体(2010年、以下同じ)
    ・1,000万円以上の販売額のある経営体は13万体で約8%
    ・1億円以上の販売額のある経営体は5,577体、うち5億円以上は714体
    ・農業経営体の総所得は全国平均で約466万円、うち農業所得は122万円
    ・野菜・果実の輸出額は全体で133億円、うちリンゴ33億円、長芋等18億円、ナシ5億円、温州ミカン4億円、いちご2億円(2012年、次も同じ)
    ・花卉の輸出額86億円、緑茶51億円

    著者の次の主張には同意します。
    ・農地転用の確率の大小にかかわらず転用期待で農地を持ち続けることが可能なのは、農地の保有コストが低いから
    ・圃場整備は農家の水田という個人の資産価値を高める
    ・農地の所有制限は農業への参入障壁としていまだに立ちはだかっている。参入障壁のある産業が発展したためしはない。
    ・JA農協は効率的経営をめざす大規模農業経営ではなく、数で勝り農協経営そのものには寛容は小規模兼業農家を守るための存在
    ・食料自給率を上げたからといって食生活が改善するわけではない

    以下は情報ソースとして。
    ・朝日緑源 中国で野菜・果実・牛乳生産
    ・ジャパン・ファームプロダクツ カンボジア・上海
    ・ネットワーク大津 集落営農
    ・JA遠州中央、磐田市 農地保有合理化法人
    ・フクハラファーム 富士通のIT導入
    ・アグリ川田 鳥取大学のIT導入
    ・農事組合法人和郷園
    ・株式会社野菜くらぶ、グリーンリーフ株式会社
    ・ファーム・アライアンス・マネジメント IT活用FC
    ・ワーキングホリデー飯田
    ・風のがっこう

  • "国産の食材を使って自炊しよう"と再認識 TPPに直面している現在で日本の農業が取るべき戦略とこれまでの日本の農業の構造が記述されている

  • 日本の農業は、いくつもの問題を抱えている。
    本書はまさにタイトルのとおり、日本の「農業問題」について扱ったものである。

    「農業問題」といっても、今起きている事象だけを論じても解決策は見えてこない。
    歴史的な流れから、問題を捉える必要がある。
    本書では、戦後の農政から振り返り、近年の農業政策、そして現在の「人・農地プラン」といった政策面や、JA農協など体制・制度的な面における問題を焙り出している。

    日本農業の弱点のひとつとして取り上げられているように、農作業の効率化のためには農地集積が必要となるが、「転用期待」により休耕地であっても手放さずに、圃場整備が進まないということがある。
    しかし、現在は本書で取り上げられている多くの実例のように、農地集積が進んできている場所もある。
    農地集積のための政策的な後押しは必要だが、それを待っていては、TPPの開始までに「攻めの農業」を実現していくことは難しい。
    各農家が、農業法人化や共同化を進めていくことによって、ボトムアップで農地集積を進めていく必要があるだろう。

    「第6章」で示されているように、コメ生産コストを削減し、輸入米の販売価格に対抗することは不可能ではない。
    日本農業を平均的に捉えずに、各農家がそれぞれの方法で効率的農家(フロンティア)となる必要がある。

    本書では、TPPで日本政府が重要品目と位置づけているコメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物のそれぞれにおいて、生き残り戦略を提示している。
    各品目においても、一律的な戦略では生き残れないのはもちろんだが、戦略策定のための大きなヒントとなることは確かだろう。

    サブタイトルにあるTPPについて、関税引き下げによる安い輸入作物の増加が問題視されているが、それは逆に言うと日本から海外への輸出増大のチャンスでもある。
    日本が聖域としている5品目も、関税引き下げを免れることは難しいだろうが、時間的な猶予はあるため、その間に生産コストを削減していけば、日本から海外へ「攻めの農業」を展開することは不可能ではないだろう。

    コメにおいては、農地集積のほかに、農業技術革新が必要となる。
    伝統的水田方法ではない、乾田直播という方法は面白い。
    また、機械設備投資や労働力に係るコストも、共同購入や生産工程管理など、製造業やIT業界などの分野では普通に行われてきたが、今までの農業分野ではあまり行ってこなかった技法を他分野から取り入れていくことで、強い体質を作っていくことができるだろう。

    今、農業に注目が集まっている。
    ビジネス漫画で有名な『島耕作』も、2013年から始まった会長編では、農業問題に尽力している。

    今、確かに日本の農業は危機を迎えているが、本書のように本気で問題を考えて対策を講じることができれば、危機を乗り切ることは不可能ではないだろう。

    日本の農業問題について知り、解決したいと思っている人たちに読んでもらいたい一冊。

  • 筆者は農業を巡る問題を分析した上で以下の様に提言する。TPPを批准する前提で、調整期間内(10年ほど)に構造改革を実施することで日本農業は十分に国際競争に耐えうる力を有することができる。

    現行の制度下でも十分な業績を挙げている自治体も存在する(例:熊本県)
    今後日本の農業は3つの方向へ分化するだろう。
    1日本の食料生産を担う大規模経営
    2野菜・果樹といった園芸作物→すでに国際競争力を有しつつある
    3中山間地等での農業
    →一定の補助金等も必要であろう。

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著者プロフィール

東京大学大学院農学生命科学研究科教授
1974年帯広畜産大学畜産学部卒業、76年東京大学大学院農学系研究科修士課程修了、82年アイオワ州立大学大学院経済学研究科博士課程修了(Ph.D.)。東京都立大学経済学部助手、小樽商科大学商学部教授、成蹊大学経済学部教授などを経て2003 年より現職。この間、1989-91年国際食料政策研究所(ワシントンD.C.)客員研究員、1995年国連食糧農業機関(ローマ)専門研究員、 2000-01年オーストラリア国立大学(キャンベラ)客員研究員を兼務。
著書に『農業問題の政治経済学』(日本経済新聞社、1994年、第11 回NIRA政策研究・東畑記念賞受賞)、『農業問題の経済分析』(共編著、日本経済新聞社、1998年)など。日本経済調査協議会「農政改革を実現する ——世界を舞台にした攻めの農業・農政の展開をめざして——」農政改革髙木委員会最終報告(提言)の主査、日本国際フォーラム政策委員会「第31政策提言:グローバル化の中での日本農業の総合戦略」の主査を務めた。2010年より農業経済学会会長。

「0年 『現代日本農業の政策過程』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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