国語教育の危機――大学入学共通テストと新学習指導要領 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480071712

作品紹介・あらすじ

2021年より導入される大学入学共通テスト。高校国語教科書の編集に携わってきた著者が、その試行テストの内容を分析し、看過できない内容にメスを入れる。

感想・レビュー・書評

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  • 国語の教科書編纂に携わった経験のある著者。
    その経験があってこそわかる文章の取り扱いや策問の難しさについてわかりやすく書かれている。
    これから正に行われようとしている共通テストや来年度からの国語教育について不安を覚えると同時に、現場の先生方の苦労も思いやられる。
    一体将来どんな子どもたちが育っていくのだろうか。しっかりと検証し、修正が必要な場合にはそれを求めていくのが大人の役割だろう。

  • 「思考力・判断力・表現力」を測るあまり大学入学共通テスト・学習指導要領の内容が大きく変わりすぎているという筆者の主張はその通りである。

    また、筆者が在籍している麻布高校の例を通じて「思考力・判断力・表現力」を身につけることがどれだけ労力を要するかが述べられている。

    これを踏まえ大学入学者選抜試験で国語教育を変えるのではなく、初等・中等教育の内容から変更すべきであると論じている。

    英語でもそうだが、プログラミング教育等の導入もある中で学校教育をこれ以上改善することは困難ではないだろうか。そうであれば入試制度を変革する『上からの改革』が真っ当なものと思われるが、今回の一連の騒動でこれも難しくなってしまった。

    教育改革に惑わされず、今後どういった能力をどのような手段で身に着ければよいのか、ヒントを与えてくれる点ではよい本だと思う。

  • センター試験に変わって導入される「大学入学共通テスト」。その試行テスト内容を初めて読んだ。「国語」教育の目的が、あのような雑多な資料を統合して読み込む力の獲得にあるのだとは、到底思えない。

    さらに、著者が指摘するような問題文がもつヒドゥン・カリキュラム性ー「自由意志」と「自己負担」という、今登場人物たちが直面している大きな問題を、「補助金」支給問題で切り抜けようという方向に導くように問いと答えが用意されている」44ペーも問題だ。

    普段、業者テストはそれとして利用し、授業では多様な考えとその根拠を重視した授業を意識している。子どもたちの「国語力」をどうテストで評価するのか、そもそもテストによる評価というスタイルがよいのか、いろいろと思うところはあるが、それを考える機会になった。

    著者の「国語論」をもっと読みたかった。最初の章および最後の章だけ読んだ。我孫子市民図書館から借りた。

    ー大事なことは、一つのテクスト、一人の人間の中にも複数の要素があり、さまざまな価値の衝突があることをじっくりと見ることです。夥しい情報の渦に目を背けて、自分だけの世界に閉じこもりながら、それだけが世界だと錯覚し、身を固くしている者たちに対して、相反する様々な刺げき?に反応し、揺れ動く自分がいることを知り、価値の多様性のなかに見を開いていくこと。それこそが重要です。「国語」という教科は評論文とともに、小説や詩歌などの文学テクストを取り入れてきたのは、そのためです。279ペ

  • 我々が言葉を用いる基礎となる、中等教育(高校教育)における国語の現状と展望を手軽に新書で読もうとして手に取った。

    国語教員が国語教育について述べた本にもかかわらず、言葉の使い方がいい加減な点は残念。

    p.91に「現行では、共通必履修科目として設定されているのが「国語総合」四単位です。」とあるが、p.92では、(新学習指導要領に関して)「必修」という言葉を用いている。筆者には、「必履修」と「必修」の意味の違いがわからないのか。仮に理解ができないしても、それならばなぜ同じ言葉を使わないのか。

    p.212「『捨てる』という作品集」とあるが、本の題名は「アンソロジー 捨てる」が正しい。アンソロジーであるからには、編者がいるわけで、「アミの会(仮)」が編者の名前だが、この情報は書かれていない。書籍に対する敬意が足りない。

    ●●●

    「したがって、「国語」においてこれまでに重要視されてきたのは、書かれていることがらの真偽ではなく、どのように表現されているかでた。」(p.47)とあるが、本当にそうか。例えば、入試国語でよく出題される内田樹は、神格化されていないか。

    p.48にいうように、「まず書き手が中心となることがらをどのように捉え、どのように表現しているかを学んで、そのあとで書き手のフィルターでは見えないところ、抜け落ちているところは何かを考えるという教育を進めてきたのです。」のであれば、なぜ、詐欺師の間違った文章を教科書の教材として用いないのか。教科書が名文集、倫理的・道徳的に正しい文章で構成されているがゆえに、「書き手のフィルターでは見えないところ、抜け落ちているところは何かを考えるという教育」が、実質的には為されておらず、そのことが社会的に問題視されているのではないか。

    「書き手の主観的な限界こそが重要」(p.49)というが、書き手を客観視するだけの、広範な、歴史、政治、経済、社会、思想に関する知識を、(制度としての)国語教師は持っているのか。

    p.186「それが優れたテクストであるかぎりにおいて反対はしません。」とあるが、このような教材の神聖化が行われているからこそ、不適切な文章に対する十分な批判の力が身に付いていないのではないか。

    p.133に「問題文が増えれば増えるほど、「情報」処理は機械的にならざるを得ないのが通例です。」とあるが、国語的な意味において、機械的な情報処理能力の不足こそが批判されているという自覚に欠けるのではないか。

    p.265に新井紀子「AI VS 教科書が読めない子どもたち」、p.266に野矢茂樹「大人のための国語ゼミ」を取り上げるが、著者の評価は明らかではない。方向性に賛成か、生徒の評価に賛成か、現行教育に問題はないのか。奥歯に物が挟まったような書きぶりになっており、分かりにくい。

    まず、著者なりの理想の国語教育の目標と実践方法(授業)、評価方法(テスト)を示し、次に「国語教科書の編集も30年近くなりました。」(p.285)である著者には困難かもしれないが、現行国語教育を批判し、更に、新井や野矢の指摘に対する賛否も明らかにした上で、新テストを紹介し、批判するという流れであれば、より、読みやすい本となったと思う。

    また、著者は、言語教育や言語テストに対する知識に欠けているのではないか。複数の資料を読み解く問題は、例えば英語テストであるTOEIC Listening & Reading Testにおいて、現に出題されており、内容は確かに易しいが、75分で100問に解答するという時間的制約下においては、十分に意味のある出題となっている。本書には、時間的制約に関する言及はほとんどない。

    更には、著者には、教育における入り口における選別(出来る者を選ぶ)と、教育課程における平等主義の二重性に対する自覚に欠けるのではないか。

  • 共通テストに対しての批判をしつつ、国語教育はどうあるべきかを示している。
    国語を教える人には必読の書。

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00260238

  • 共通テストでの入試「改革」での国語の扱いを知り、愕然とする。試されようとしているのは「資料」なるもののスキミング。「読解力」や「思考力」とはほど遠い。

  • 去年の今頃、プレテストの分析やったの思い出した。
    言い方は悪いが、最低な問題だと思った。
    今の時点で何かできるかという問いに
    「何もできない」という意見で一致したのが印象的。

    改めてこの本を読んでぞっとした。
    もう教員を続けていけるか不安。
    でも、どうせ5年もすれば元に戻るんだろうとも
    思っているのだけれど。

    変わらなくちゃいけないのは重々承知。
    でも、このやり方ではないと思う。

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著者プロフィール

1956年東京都生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程中退。日本大学文理学部特任教授。専攻は日本近代文学。著書に『書物の近代』(ちくま学芸文庫、1999)、『投機としての文学』(新曜社、2003)、『検閲と文学』(河出ブックス、2009)、『物語岩波書店百年史1 「教養」の誕生』(岩波書店、2013)、『国語教育の危機 大学入学共通テストと新学習指導要領』(ちくま新書、2018)、『国語教育 混迷する改革』(ちくま新書、2020)など。

「2022年 『職業としての大学人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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