ウクライナ動乱 ――ソ連解体から露ウ戦争まで (ちくま新書 1739)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480075703

作品紹介・あらすじ

ウクライナの現地調査に基づき、ロシアのクリミア併合、ドンバスの分離政権と戦争、ロシアの対ウクライナ開戦準備など、その知られざる実態を内側から徹底解明。

感想・レビュー・書評

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  • 既に1年半も戦禍が続く「ウクライナ」が、昨今の大きな話題であると思うのだが、本書は「ウクライナ」の情勢経過に関する本としては「非常に佳いモノの一つ」として挙げて間違いないと思う。
    2022年2月からのロシアによる本格的侵攻を受け、「ウクライナ」に関しての知識が色々と求められ続けていると思う。そして関係する事項への観方も様々であろう。故に過去に登場している本が注目される場合も在ったと思う。そして2022年春頃からだと思うが、様々な本が登場し続けていると見受けられる。本書も、「あとがき」によれば2022年春頃から約1年で準備されたという。
    現今の「ウクライナ」に関しては、1991年に現行の国の体制がスタートした「ポストソ連」の色々なことが何やら「雑?」で、国内での様々な争いが時間を負って煩瑣になって、クリミアやドンバスという地域の問題が先鋭化して「侵攻(開戦)」に至ったという程度には観ていた。本書はそういうような経過に関して、詳しく、幅広く、著者が続けている研究の成果や少し前の研究調査のためのウクライナ訪問での御経験を色々と織り込んで綴られている。「あとがき」の部分迄含めて502ページと、こういう「新書」としては許容されそうな範囲で最も厚いような一冊となっていると思う。
    ソ連時代の後の“国”が形成されて行く様子や以降の事、「ユーロマイダン革命」を巡る事、クリミアの事、ドンバスで戦いが始まった事、「ドネツク人民共和国」の推移や諸問題というような事、それらを踏まえて目下の戦争の経過、そして「ウクライナは如何する?如何なる?」という纏めになる。章毎に読み進めれば、厚い本であることは全く気にならず、内容に引き込まれてしまう。
    結局は、2013年から2014年の「ユーロマイダン革命」という辺りから2022年頃迄の経過に、「ウクライナ」が登場して来た1990年代頃の事柄を加えたというような内容が本書には盛り込まれていると思う。加えて本書の内容は、「国が興る?」、「興った国が存続する?」というより大きな問題に思いを巡らせる入口ともなり得るかもしれない。
    事態や事情が伝えられる中で登場する、少し聞き覚えも在る事項について、本書ではその経過や幾つかの観方を詳しく説明している。そういうのが凄く有益だと思う。
    「ウクライナ」は、色々な背景の人達が「偶々在る」という範囲が、偶々現在の国境になったというような一面が在ると見受けられる。譬えて言うなら、黒に白を加えると出来る濃淡が様々な灰色の部分が寄せ集まったモザイクのような感じだ。そういう状態の中で「黒か?!白か?!」と詰め寄るようなことをしても、色々な意味合いでギクシャクしてしまう。2000年代位、更に2010年代位のウクライナでは、そういう「ギクシャク」が発生していたという一面は在るかもしれない。
    2022年2月からのロシアによる本格的侵攻という中、その少し後の時期には、何か「先着争い?」のように方々で「ロシア非難!」だったと記憶する。勿論、「侵攻」そのものは「止めなさい!!」としか言えない事であるとは思う。が、事態に至ってしまった経過を直ぐに誰でも理解していたのでもないであろう。そして幅広い人達にとって、理解の一助になるような材料が潤沢に在ったという程でもないと思う。本書はその「理解してみたい経緯」に非常に詳しい。「ウクライナの中での問題」も実は色々と在った。そしてそれらの解決は如何なるのかということも在るであろう。今からでも遅くはない。本書に触れて学ぶべきだと思う。
    「ウクライナ」の情勢経過に関する本としては「非常に佳いモノの一つ」である、なかなかの労作である本書が登場したことを感謝したい。そして広く御薦めしたい。

  • ふむ

  • 2024.4.14

  • 毎日新聞の書評欄「今週の本棚」で、加藤陽子が、読後ロシアの対ウクライナ戦争の印象がガラリと変わると評して絶賛した書である。
    第六章のまとめで以下のように述べている。
    『そもそも分離紛争は、「国の領土は大きければ大きいほど良い」、「領土を失うことは、人間が手足をもがれるのと同じ」などという国家表象を人々が捨て、国連信託統治のような非・主権国家的な解決法が大規模に採用されるようにならない限り、解決が難しい問題なのである。 最も現実的な紛争解決策は一時凌ぎの停戦協定を綻びを繕いながら、何十年でももたせて、人々の国家表象や国際法の通説的解釈が変わるのを待つことである。分離紛争を解決して恒久的な平和を目指そうなどとするとかえって戦争を誘発する。 』

  • 2022年のロシアのウクライナ侵攻以後のニュースでの多少の知識を持っただけの素人の私が、軽い勉強気分で購入した本書だが、ベースとなる知識がかなりないと読みこなすのはとても大変と思う。

    ウクライナの独立からマイダン革命までは前著「ポスト社会主義の政治」(未読です)に譲り、マイダン革命以後のウクライナについて書かれていることに注意必要です(気づいていなかった)。

    マイダン革命を中心とするウクライナと、ウクライナからの自治権獲得あるいは分離独立闘争、ロシアへの編入を望むクリミアおよびドンバスについて、2023年5月17日(あとがきの日)までの、政治学見地の内容。

    ロシア語ネイティブ住民の抵抗、マイダン革命にまつわる残虐行為(これまで知らなかった事実)など、かなり厳しいウクライナ批判が展開される。

    著者はロシア内の南アブハジアやチェチェン紛争、カラバフ紛争との比較考察や(私は知識なく正しく理解していない)、クリミアやドンバスについて反マイダン派の取材など、充実した考察がされていると思うが、一般市民の対ロシア感情など、もともと政治に距離のあるような市民的見地からの考察は弱いかもしれない。

    一方、プーチンの野望やロシアの行動に対する批判もかなり緩いかもしれない。
    報道に現れない情報隠蔽や住民投票のありそうな不正などはもっと疑っていいのではないか。

    結局、著者はクリミアやドンバスのメインウクライナへの平和的統合は非常に困難と考えていて、本書の豊富な内容を知ったうえで考えると、その通りだろうと思う。
    ウクライナ支援したい側の私からすると、正直、複雑な気持ち。

    読書については、まず人名がとても多くて混乱。しかも似た人名が多い。
    巻末には詳細な人名のみの索引があるので、既読ページをたどることが可能ではある。
    とはいえ、イベントや固有名詞や専門用語などのキーワードも次々出てくるので、いったん最初のページに戻って、スマホで検索できるようなメモを作りながら、読み進む。
    メモは終には何100項目にも膨れ上がった。
    地名も当然ながら多く登場するが、説明がない場合がほとんどなので、ウクライナ以外のロシアの地名に詳しくない読者も苦労するはず。

    章が地域別のため、ある地域の出来事が別の地域の章では特に言及がないことがある。
    出来事の相互関係をうまく照合しながら読む必要が生じて、これもしんどかった。
    なので、上記のキーワードのリストとは別に、地域別に時系列のイベントリストをスマホで作成して読み進んだ。

  • 副題に「ソ連崩壊から露ウ戦争まで」とあります。いよいよ3年目に突入する今度の戦争の原点を2014年のクリミア併合に置く報道には接したことがありますが、そもそもをソ連が解体する際の手続きに求めるという指摘に驚きを覚えました。ソ連、連邦構成共和国、自治単位という三層構造のなかで行政区分である親国家優先主義が今回の戦争の原因としています。それがゴロバチョフとエリツィンの抗争から生まれていることも、なるほど…です。自治単位の中でも多数を占める民族とそうでない民族、あるいはもともといた民族の問題もわかっていませんでした。露ウ戦争は2022年2月24日から始まりますが、親国家であるウクライナの内戦はずっと続いていたのですね。さらに遡ると第二次世界大戦の独ソ戦にまで繋がりプーチンがウクライナをネオナチ呼ばわりするのは比喩ではなく本気でそう思っていることも理解できました。なるほど、そういうことだったのか!とか、えっ、やばいじゃん!の連続で、しかもそれを現地でキーマンや市井の人々との交流から描き出しているのも驚きです。こんなに主要登場人物と著者のツーショット写真が掲載されている新書見たことありません。ただ登場人物の名前がユシチェンコ、ヤヌコヴィッチ、ティモシェンコ…名前がややこしくて行ったり来たり、ちょっと苦労しました。でも登場人物たちの心の動きが詳細で大きな物語が小さな心情で動いていることもこの本を生き生きさせています。まるでウクライナ版「仁義なき戦い」みたい。そして、この戦争の結末もタイムスパンの長いものとしていることにもため息が出ます。追記:P94で図が掲載されている「錯綜した亀裂」「オーバーラップした亀裂」の対比は矛盾だらけの世界を乗り越えるためのフレームワークとして目鱗でした。選挙の争点として、わかりやすい、は、やばい?

  • 12月16日 毎日新聞 書評
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50331331

  • ソ連の自壊の結果、たなぼた式で生まれたウクライナは、先祖伝来ウクライナ語でない言語で話し、書き、考えてきた住民、ウクライナ民族史観で英雄とされる人物たちに迫害された住民も抱え込んでしまった。そうした場合には、中立五原則に基づいて、民族国家ではなく市民的な国家を作ることが妥当な戦略であっただろう。残念ながら、独立後30年間のウクライナは、この反対の方向に向かって進んできた。特に、いわゆる親欧米政権においては、『経済実績が悪いので、選挙が近づくと民族主義=国民分断に頼る。その結果、ますます経済が悪くなる。』という悪循環も見られるようになった。

    上記は本書からの一部抜粋であるが、個人的には、クリミアと東部4州は現状のままロシアに併合された方が社会的には今後安定していくだろうと感じた。(住民投票の結果もそれを反映しているのだろう。)

  • 細かい事実や人物名を追うのが大変で読むには骨が折れるが、少なくとも西側目線、日本目線でロシア・ウクライナ戦争を捉えるのは大きな間違いであるということはよく分かった。ソ連という全く違う原理・歴史の国・地域を理解する上で実に有益な本だと思う。

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著者プロフィール

1960年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科教授。法学博士。専門はロシア帝国史、ウクライナなど旧ソ連圏の現代政治。著書『ポスト社会主義の政治――ポーランド、リトアニア、アルメニア、ウクライナ、モルドヴァの準大統領制』(ちくま新書)、『東大塾 社会人のための現代ロシア講義』(共著、東京大学出版会)、『講座スラブ・ユーラシア学 第3巻 ユーラシア――帝国の大陸』(共編、講談社)など。

「2023年 『ウクライナ動乱』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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