公共哲学 政治における道徳を考える (ちくま学芸文庫 サ 28-1)
- 筑摩書房 (2011年6月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480093875
作品紹介・あらすじ
経済格差、幇助自殺、アファーマティブ・アクション、妊娠中絶など。容易に答えの出せないこれらの問題を考えるために、私たちの社会はどのような思想的基盤を必要とするのか?個人の権利と選択の自由のみを絶対視して、政治は道徳に対して中立であるべきなのか?ハーバード大学の人気講義で話題のM・サンデル教授は、本書で多様な問題を論じつつその思想的背景を分析し、今日の多元的な世界における公共の正義は、コミュニティがもつ「善」と道徳によっても支えられるべきであると説く。
感想・レビュー・書評
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新聞・雑誌に掲載されたサンデル教授の論考をまとめたもの。20年も前から社会の問題をコミュニタリアニズムの視点から論じている。
コミュニタリアニズム(共同体主義)の正しさは、よく勘違いされるがコミュニティに広く支持された価値感に従うこと、ではないよ、と。正しさはそれが促進する目的・目標の道徳的重要性に応じて正当化される。(目的論的でアリストテレスの政治論)
そういった意味でリベラル-コミュニタリアン論争は、正=権利は善に優先するか否か、を争った議論だった。(らしい)
リベラリズムが求める正しさとは、個人が目的や目標を選ぶ能力を尊重し権利を擁護すること。つまり正しさ=権利は善に優先するという。コミュ二タリアニズムは優先しない、つまり正しさは善と相関しておりそれと独立した存在ではない。
、ってなことを具体的な社会問題を題材にサンデル教授は論じていく。
なるほど、と頷くこともあるし妊娠中絶、同性愛、幇助自殺、経済格差など簡単に答えが出せない様々な問題を考えるためにはコミュ二タリアニズムは有効だと思う。
でも実際の政治の場において、コミュ二タリアニズムは有効だろうか?と問うことも意味がある。
いまのところ国民国家が主要な政治のコミュニュティであるかぎり、道徳や美徳を育む構成的コミュニティについて語ることは暗い政治を連想させる。
コミュニティ内の道徳的多数派の多いなかで、正を優先させるリベラリズムの考えが、どんなに哲学的欠陥を抱えていてもまだマシに思えるんだが・・。
これはサンデル教授も認めるところだが、うーん、難しいね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
一般人には難易度が高い公共哲学の小論集
この本は過去にサンデルが雑誌などに寄稿したりした小論をまとめたものになっている。
白熱教室で興味を持ち,片っ端からサンデルに関する本を読んでいる中で読んだ一冊。『これからの「正義」の話をしよう』,「それをお金で買いますか」,「サンデルの政治哲学」を既に読んだが,これらの本と同じようなものをこの本に期待すると失敗する。
この本は小論だけあって,内容の難易度は高い。さらに,この本はただ翻訳しただけで,訳者の解説などは一切ないので,公共哲学に関する予備知識がないと理解するのが難しい場面が多々ある。
前述の書籍では,一般読者を想定しておりサンデルや小林正弥による詳しい解説や比較的わかりやすくて易しい議論がなされており,公共哲学に関する知識が少なくても比較的読んで理解できる。しかし,この本ではそうした一般読者を想定した解説が少なく,深い内容を議論している箇所も一部あり読むのが難しかった。特に最初の100ページくらいである第一部では,過去100年くらいのアメリカ政治における政治哲学の流れについてひたすら展開されており,読んでいてつまらなかった。
書かれている内容が小論なのもあり,各テーマでの議論は浅いままで終わっている印象をもった。個人的にはこの本はおすすめしない。
サンデルの考えやコミュニタリアンの正義論について知りたければ,「サンデルの政治哲学」がおそらくサンデル関係の書籍ではベストだし,過去のサンデルの書籍全てに言及しているだけあって,この書籍で書かれていた小論のテーマもほぼ触れられていたと思う。
自由原理主義・市場主義の批判に対しては,「それをお金で買いますか」でわかりやすくてより深い議論がなされている。
それ以外の議論については,「これからの正義」で概ね扱われている。
一部,他の本でほぼ触れられていない内容)刑事裁判で被害者の陳述を許可するかどうかの議論)もあるにはあるが,別にそこまで深く取り扱われていないし,そのためだけに読むのはもったいない。
公共哲学について勉強してる人か,サンデルのことがよほど好きな人でない限り,この本を読む必要はないだろうと思った。素直に,一般向けに書かれた他のサンデルの本にあたることを強く勧める。 -
難しいかもしれないけど『これからの正義の話しをしよう』の10倍おもしろい。「道徳の話をカッコでくくって」議論する風潮への批判は、今の(特に大震災後の)日本にも十分当てはまるかも。
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第2部「道徳と政治の議論」は軽めのエッセイ集で、楽しめるし、アメリカとの比較で日本のことを考えるヒントにもなる。
第3部はなかなか難解、なかでも28章「政治的リベラリズム」は著者の見解の中核と思われる部分であり、読むのに非常に骨が折れた。 -
答えを出すには難しい
様々な課題について、
いかに読み解くかを指し示す本。
第一部 アメリカの市民生活
第二部 道徳と政治の議論
第三部 リベラリズム、多元主義、コミュニティ -
20 世紀後半のアメリカにおける政治哲学や倫理思想を、多角的に分析し論じている感じ。小難しい論議であるものの、例も多く比較的解かりやすく書かれているのではないか。
「市民は途方に暮れているように見える」のは日本も同じか? -
かなり内容が重めの本。まともに読むと相当時間がかかりそうなので流し読み。
小論のまとめであるため、全体的なまとまりに欠ける。
前半はアメリカの政治に関する言及が多く読み進めづらかったが、中盤以降は生死、正義など実生活でも実感しやすい話題が多く、若干読みやすくなった。
これでもか、というくらいカントと、ロールズが出てくるので、多大なる影響を受けていることを理解した。 -
一般紙に掲載された短いエッセイの部分は読みやすい。
後半1/3は抽象的議論が続く政治哲学の論文の翻訳とあって、内容も日本語訳もやはり難解。読むのに前半2/3の3倍以上の時間がかかる。しかしその丁寧な議論と例示される具体例や参考文献の助けもあり内容は濃く、読むのに値する。 -
訳:鬼澤忍、原書名:PUBLIC PHILOSOPHY:Essays on Morality in Politics(Sandel,Michael J.)