独裁体制から民主主義へ―権力に対抗するための教科書 (ちくま学芸文庫)
- 筑摩書房 (2012年8月8日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480094766
作品紹介・あらすじ
アメリカの非暴力闘争研究家による独裁政権打倒のロードマップ。本書は、東欧諸国の「オトポール!」、「アラブの春」やウォールストリート占拠など、すべての抵抗運動の渦中で人々に教科書として読まれた。史上数々の独裁体制を緻密に分析・研究した成果を踏まえ、非暴力の反体制運動の全体像を示し、誰もが展開できる具体的な小さな戦略を粘り強く続ける実践的な方法論を解き明かす。世界で数々の賞を受けたドキュメンタリー映画「非暴力革命のすすめ-ジーン・シャープの提言」がNHK・BSで放映されるや、大きな注目を得た。世界29言語で読まれるシャープの主著の本邦初訳。「非暴力行動の198の方法」を付す。
感想・レビュー・書評
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本書には、独裁体制を崩壊させるために計画を立て、戦略を立案し、行動することが大切であると書かれている。また、非暴力による闘争(無抵抗ではない)が必要だとも説かれている。
しかし、独裁体制を崩壊させ、永続的な民主主義を自立することは本当にできるのか。そしてそれは良いことなのか。現在、世界人口の半数以上が独裁国家に類する国で生活している。チュニジアから始まったアラブの春もほぼ失敗した。アフガニスタンやミャンマーではクーデターも起き、民主主義国家が増えるどころか、ロシアや中国のような独裁国家が武力をもって攻めてくるといった事態にもなっている。民主主義も限界なのではないか?
ポスト民主主義について考えなければならないと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
私がこの本を知ったのは、昨年12月11日の東京新聞、斎藤美奈子の「本音のコラム」によってである。そこで彼女は一年前にこの本を読んだ時には「日本では、こんなことはムリ」と思ったそうだ。しかし、今はなんと胸にストンと落ちる。言うまでもなく、安倍の強権政治が目の前に展開されたからである。なるほど!私もさっそく取り寄せて読んでみた。
1980年以来、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、東ドイツ、チェコスロバキア、スロベニア、マダガスカル、マリ、ボリビア、そしてフィリピンといった国々で、民衆による非暴力を中心とした抵抗によって独裁体制が崩壊してきた。非暴力的な抵抗はまた、ネパール、ザンビア、韓国、チリ、アルゼンチン、ハイチ、ブラジル、ウルグアイ、マラウイ、タイ、ブルガリア、ハンガリー、ナイジェリア、そして旧ソビエト連邦のさまざまな地域(1991年8月に起こった守旧派によるクーデターの敗北では、顕著な役割を果たした)での民主化運動を推し進めてきた。
さらに近年になって、大衆による政治的抵抗は中国、ビルマ、チベットでも起こっている。こうした闘争は現在の独裁体制や占領を終焉させるにはいたっていないものの、抑圧的な政権の非人道性を世界コミュニティーに向かって示し、このかたちをとって闘争するという貴重な体験を国民に与えたのである。(16p)
この本はこれらの国の具体的な「非暴力行動」を論述した本ではない。しかし、それらの貴重な体験を踏まえて書かれていることが明らかだからこそ、一定の説得力を持つだろう。
ここでは殆ど触れられてはいないが、著者がガンジーやキング牧師の運動に影響を受けているのは、明らかだと思う。解説によると、最初ガンジー研究者から出発した著者は、朝鮮戦争兵役不服従で拘束を受け、やがてビルマの運動に潜入、本書を発行したという。最近観た「大統領の執事の涙」では、戦後の黒人公民権運動の歴史を慨観し、最初は非暴力行動で始まり、次第とエスカレートして行く様が描かれていた。アメリカで著者みたいな研究者が生まれたのは、偶然ではない。
独裁政権に対して、軍事的反乱かゲリラ戦が必要だ、という意見に対して著者は明確に反論する。
あらゆる軍事的抵抗は、いっとき成功しても、必ずそこに大きな疵と将来への禍根を残す。では、どうするのか。最も効果的に、しかも最小の代償で倒すことを望むならば、以下の四点が必要だという。
・抑圧された民衆自身の意思や自信、抵抗技能を強化すること。
・抑圧された民衆が関わる独立した社会グループや機関を強化すること。
・国内で強力な抵抗組織を築くこと。
・解放のための全体戦略計画を練り、それをうまく実行すること。
(25p)
独裁体制の「政治的な力の源」は何なのか。著者は実にシンプルだという。「独裁者は、統治する民衆の支えを必要とする」(43p)ならば、この源を断つことが必要だ。反対に言えば、この源さえ断つことができれば、暴力手段に訴えることなく、簡単に独裁体制は倒すことができるのである。非暴力行動は、そのための人類が生んだ「知恵」なのだ。
「過去におけるその場しのぎの政治的闘争に共通する間違いは、ストライキや大衆デモなど、一、二の手段しか訴えなかったことである」(61p)つまり巻末に掲げられた「非暴力行動198の行動」はそのことを助ける有力な武器になるのである。
以上、原理は非常に簡単なものだ。しかし、それからメンバーを集め、戦略計画を練り、実行するとなると、アフリカのジャスミン革命の後退でも明らかなように、あらゆる「実状」が関わるだろう。著者も戦略計画については、多くの頁を費やす。
私がこの本を読んだ動機は、果たしてそうでもなお、またここで想定している現状と日本が大きく違っているにもかかわらず、現代日本の我々にはここから学ぶべきものがある、ということである。もちろんまだ自民党政権は「独裁体制」ではない。けれども、「そうならないために」何かをやるべき現状だし、やるべきことはあるのだ、と思うのである。
2014年2月26日読了 -
「権力に対抗するための教科書」という副題から、ぼんやりと戦略的思考について得られるものがあれば、と思い手に取った本
本当に、独裁体制からの非暴力的革命」の方法論に絞って論じられているので、期待した内容ではなく、またシチュエーションが身近でもないので読み進めるのに時間がかかってしまったが、読み終えた達成感はあるし、得られるものはあったと思う
政権が一定の国民にそれなりに支持されている現代日本ではそのまま適用できる方法論はほとんどないが、権力者との安易な交渉・調停・妥協でも得られるものが少ない可能性が高いことはよくわかった
ビルマから亡命した外交官の要請で本書が書かれ、ビルマからの亡命者やタイのバンコクで広く読まれたとのことであるが、その約10年後にミャンマーでクーデターが起こってしまったのは悲しい -
理念はわかるのだが具体例が少ないので、読みづらい。訳者のあとがきを見れば要点が大体わかるので、それで充分かもしれない。
独裁体制には、暴力で対抗してもほぼうまくいかない。暴力は独裁政権の最大の強みだからだ。
巻末にある非暴力行動198の方法が面白かった。
31.役人につきまとう
51.退室する
53.沈黙する
65.自宅待機する
70.抵抗への逃避行(ヒジュラ)をする
112.仮病を使って休む
など、かなり消極的な行動もあった。
独裁者は統治する民衆の支援を必要とするので、協力や従順、服従を力の源としている。逆に言えば非協力的な態度をとり、服従しなければ独裁者の力は衰える。サボタージュ等で政権運営がうまくいかなくなるだけで力は衰える。
交渉はストライキ等で成果を上げることができるが独裁体制の転換には不向きである。
民主主義を獲得するためには全体の計画をしっかりと立て、戦略や戦術を駆使して行動することが大切である。全体の計画はオープンであることが大事だ。大衆が参加しやすくなり、政権側にも賛同者が現れるかもしれない。内密主義は秘密が漏れたときの打撃が大きいのと、密告者に対しての疑心暗鬼が生まれるので、良くない。
民衆が無力感と恐怖心を持っている状況ならば、最初の取り組みにはリスクが低く、自信をつけさせるようなものを選ぶのが良い。例えばいつもと違った風に服を着ることや、政治的な行動のテーマに安全な水の確保などを上げるのも良い。行動に参加する人数が少ない場合、象徴的な意味をもつ場所に花を飾るとかするのも良い。人数が多い場合は、あらゆる活動の5分間停止や数分間の沈黙などが用いられる。
独裁政権を倒す最初のステップは、人々が恐怖心を払拭することである。相手側にも弱点はある。それを見極め、頑固に、鍛錬された方法で、粘り強く行うことが非暴力闘争の実践で大切なことである。 -
「つまり民衆には、将来の独裁者に対して政治的抵抗と非協力を行使し、民主主義的な構造、権利、手続きを守る永遠の役割があるのだ」
本書が地下出版的に流通した地域は少なくないそうである。世界29か国語に翻訳され、実際に世界各地、各時代の抵抗運動の渦中で読まれているのだという。 -
MediaMarkerの「近代の呪い」からのamazonでの「自発的隷従」からの関連本。
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簡単なものではないとは思っていたけど、戦略を持って行動しないと不可能なんですね。
最近の国際情勢をみていて、大きな変化が起こるような気がしていましたが、どうなんでしょうか -
私たちはどうすれば権力に対抗できるのか。独裁体制に対抗するための非暴力行動198の方法は頭に入れておいて損はないと思う。