近代日本思想選 九鬼周造 (ちくま学芸文庫)

制作 : 田中 久文 
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480099822

作品紹介・あらすじ

日本哲学史において特異な位置を占める九鬼周造。時間論、「いき」の美学、偶然性の哲学など、その思考の多面性が厳選された論考から浮かび上がる。

感想・レビュー・書評

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  •  九鬼周造についてはこれまで『「いき」の構造』『偶然性の問題』を読んだが、なんだか思想の全体像が掴めずにいたので、このちくま学芸文庫のアンソロジーを読んでみた。
     前記の2書は抜粋が入っている。
    『「いき」の構造』(1930〈昭和5〉年)は名著として読み継がれているものだが、私にはやはり、「何故こういうテーマを書いたのか」という疑問が残る。記述はなかなか厳格な哲学なのだが、西洋文化に対する日本文化の特色としての「いき」を浮き彫りにしようというテーマは哲学と言うより文化論である。その概念を深く追究するプロセスはじゅうぶんに哲学ではあるが、テーマは哲学的でない。
     一方、『偶然性の問題』(1935〈昭和10〉年)はもっと深い哲学的主題を哲学的に論じる完全な哲学書である。『いき』との関連性は全く無い。だから私は九鬼の哲学の全体イメージが持てなかったのだった。
     実は岩波文庫の九鬼周造としてはもう一つ『人間と実存』(1933〈昭和8〉年)というのがあって私は未読なのだが、現在絶版で入手しがたい。その片鱗を覗かせる抜粋が本アンソロジーには含まれている。
     九鬼周造は英語・ドイツ語・フランス語に習熟しており留学してベルクソンやハイデガーと直接会って会談している。本書にもこの2人の海外の、時代を画した超大物哲学者たちの強い影響が見られる。そうした西欧の哲学の文脈に沿いつつ、それを咀嚼し、自らの思考を追求したというのが、九鬼周造哲学のプロセスであったようだ。著作の主題は多様で、全体として大きな体系を構築することは無かったように思われ、そうした「しなやかさ」の点ではメルロ=ポンティに似ている気がする。
     本書に収録された論文の内では「文学の形而上学」(1940〈昭和15〉年)が私には一番面白かった。『「いき」の構造』などもそうであるように、九鬼周造には日本文学への心的傾斜が見られ、私は彼にとっては芸術論が得意分野だったのではないかという気すらしている。この論文はベルクソン・ハイデガーを参照した「時間」という哲学問題に沿って文学を論じ、音楽や美術にも言及している。ここでの「時間」論の援用の仕方が私にはすこぶる興味深く、更に考えてみたくなる問題であった。

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