へろへろ (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.87
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本棚登録 : 501
感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480435835

作品紹介・あらすじ

最期まで自分らしく生きる。そんな場がないのなら、自分たちで作ろう。知恵と笑顔で困難を乗り越え、新しい介護施設を作った人々の話。解説 田尻久子

感想・レビュー・書評

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  • 一人のどうしようもないお年寄りにか関わり、特養老人ホームを作るという、壮大なお話だった。何もかもゼロからすべてを立ち上げ、資金繰り、場所作り、面白いことを計画、実行する。すごいスケールの大きさを感じた。小さいことで悩んでいたら人生損だなと思えた。まずはカフェに行ってみたい。ジャムも買ってみたい。

  • 福岡にて、特別養護老人ホームを建てようとした人たちの奮闘を描いたノンフィクション。昨日読み始めて、面白すぎて睡眠時間を削って読んで、それでも読み終わらなかったので、通勤の行きの電車の中で読み終えた。
    「志」というには、そんなに肩に力が入っていない人たちが、ゼロから特養を建ててしまう。最も大変なのは、当然だが、資金の手あて。何せ3億円以上の費用がかかる。行政の補助金も手にするが、それでも残りの2億円以上を自分達だけの力で何とかしなければならない。寄付を募り、バザーを開き、手作りの品を売り、行事の際にはテキ屋の売店をやらせてもらい、ありとあらゆる事をやって、とうとう特養を建ててしまう。

    億単位のお金を普通の人間が、集められるとは、なかなか思えないが、でも、このひとたちは、やり始める。やり始めて頑張れば出来るというような簡単な話ではないのは分かっているが、でも、一歩を踏み出さないと始まらない。そして、最後にはやり遂げてしまう。元気と勇気をもらえた。
    メインストーリー以外にも、面白い話が満載。お勧めです。

  • 少し個性的な人たち、介護施設を作りたいという大きな想い、介護に対する考えが詰まってました。世話人という少し離れた場所からみた、よりあいの人たちの熱い日常が伝わった一冊でした。

  • お薦めで手にしたのだけど、良い本と出会った。

    糞尿を垂れ流しながら、毅然と一人暮らしを営んでいる「とてつもないばあさま」と、下村恵美子が出会った時。

    彼女が満足出来る暮らしとは何かを考えて、宅老所よりあいの種が埋められた。
    老人ホームに入らずに済む老人ホームというコンセプトを基に、よりあいの森に施設を建てるまでの日々が描かれている。

    この本を読んでいると、晴れた夏の日の朝の感覚を思い出した。
    さあ、これから何をしようとワクワクする感じが、夏の空気やセミの鳴き声と呼応するような。
    本気で苦しそうで、楽しそう。一筋縄ではいかなくても、えいっと踏み込んじゃう。そんな匂いがしたのだった。

    筆者が描く「下村恵美子」の存在もすさまじい。
    下村さん、でも、恵美子、でもなく、下村恵美子という呼び方は最後まで変わらなかった。
    他には色んなことが面倒になって、端々に省略が忍び込まれているのに。

    施設の前提となる人と人との関わりにおいても、読んでいて重くなりがちな所がある、のに、下村恵美子の笑いが響く。ああ、素敵だなと思う。

    最後に。
    臨床について私自身が学んだ時、寄り添うとはどういうことかを考える時があった。
    ともすれば安易に寄り添うが使われていて、本当にその言葉を分かっているのか不安になった。

    そのことをふと思い出し、あらためる文章があった。大切にしたい。

    「『宅老所よりあい』の介護は、一人のお年寄りからすべてを始める。その人の混乱に付き合い、その人に沿おうとする。添うのではない。沿うのだ。ベタベタと寄り添うのではない。流れる川に沿うように、ごく自然に沿うのだ。自然に沿う以上、こちらの都合で流れをせき止めてはいけない。流れを変えてもいけない。ひとつひとつの川には、それぞれの流れ方がある。海に至るまでの道のりは、ひとつとして同じものはない」

  • のっけからトップギアで笑わされ、始終、「ふふふふ……」「クククク……」と笑わされた。出てくる人は皆、個性的。内容といえば、個性的な人たちが、ボケても普通に暮らせる人生を叶えるための特別養護老人ホームづくりに奔走するノンフィクションで、そこだけ聞くと、高い志に満ち満ちた崇高な感じに思える。
    思えるが、とても良い意味で、登場人物たちは肩の力が抜けている。志を大上段に構えてそれで満足するような人たちではなく、静かに燃えつづけ、地に足ついた活動を続け、楽しみながら、理想の施設を回し続ける金策に日々挑む。

    笑わせてくることが多いが、むしろ7割くらい笑って読んでいたが、随所随所で施設が描く理想に心打たれ、介護や老いについて(鬱々とせずに)考えてみようと思えた。

  • 【お金の物語】

    人に役立つお金を集める物語。
    お金を集める話なのに、私利私欲が全く無い物語。
    悪い人が出てこない物語。
    関わるとみんなが良い人になれる物語。
    人間だけだはなく猫まで良い猫になる物語。

    本気になるとお金はどうにかなる…ということを教えてくれる物語。

  • 1人の困ったお年寄りから始まる「よりあい」というちょっと変わった特老の設立までのお話。終始お金を集める話なのだが、面白くてどんどん読めるし、色々な感想を持つことになる。
    絶対読んだ方がいい。

  • 一万円選書で送ってもらった本の中の一冊。

    とんでもなく面白いエッセイに
    出会ってしまったという印象です。
    しかも、実録というのがまた凄い。

    ひたすら考えながら行動する
    登場人物の皆さんが素晴らしかったです。
    色々な分野でぶっ飛んでる個性的な人たちが
    多いですが、みんなかなり真剣。
    大変なことがとっても多いのに、
    めげない。失敗してもチャレンジし直す。

    登場人物の一人である下村恵美子さんの
    「怒りがあったからこそ、やってこれた」
    という言葉があります。
    この言葉、とても良く分かります。

    私も、いつも怒りや悔しさで
    こんなんで終わってたまるか。という
    原動力でやってきたことが多いです。

    このエッセイを書いた鹿子さんの
    文章は時に面白く、時にどん底で
    本当に表現の仕方が上手だなと思いました。

    鹿子さんの言葉で
    「困難を前にして、それを共に打開しようと
    する時、そこにいる人たちは
    とてもいい顔をしている」

    「地位や名声が欲しくてしてるわけでなく、
    やるべきことが目の前にあるから、
    ただひたすらに懸命にしている。
    ずるさやうそくさい顔の人はいなくて、
    何かを懸命にやることができたら
    人はおかしな顔にはならない。」

    とても心に響いた言葉でした。
    自分たちの手で特別養護老人ホームを
    一から作ってしまった人々。
    笑ったり泣いたりして読み進めました。
    素晴らしく見事でした。
    宝物になりそうな一冊です。

  • 福祉に携わった人が政治の力を使わずに特別擁護老人ホームまで作ってしまう話。
    ユニークな人々が、資金集めなどに苦労しながら、あらゆる苦難を人を巻き込みながら、乗り越えていく。
    内容は面白いが、文章が砕けていて、少し読みにくかった。

  • 介護の領域の話だけど、大半がお金(資金集め)の話。
    理想を実現するには先立つ物がなにより大切。

    システマチックではない、人間的な介護を実現するために、職員、関係者たちが必死で汗を流す。
    そのさまがフリー編集者からいつの間にか世話人になった筆者の視点から面白おかしく語られて、まるでトウのたった学生が部活か文化祭に打ち込んでいるどたばたコメディのよう。

    その必死さと信念が人を動かし、お寺の一室を間借りというスタートから、とうとう特養ホーム(すばらしいロケーション)の建設にまでこぎつけるというクライマックスを迎える。

    もし将来自分が老化や認知症で1人でやって行けなくなったら、つくづくこんなホームに入所したいと思わせられる(福岡だけど…)。
    ひょっとしたら今がピークかも知れない、情熱をもった中心人物たちの信念が結実するさまはシンプルに感動的だし、そこまでできない側の身からすれば妬ましくもある。

    ここまでの間に、その理想に惹かれて多くの人が関わったものの、最終的には疲弊、落胆して去っていくことも少なくなかったらしい。
    筆者は彼らの後ろ姿を糾弾するのだが、それはその人の勝手だからそっとしておけばいいのに、と思う。人の善意に頼っている以上、それが潰えた時のダメージも小さくないから、なら初めから来るなと考えるのも無理からぬことだけど…

    またそういう手のひら返しにもめげず、理想を貫いた姿勢はすばらしい一方、労働基準法無視、持ち出し、無償労働上等の資金集めや勤務体制はワタミ的なやりがいの搾取と紙一重でもある。
    当然、耐えられずに脱落したスタッフが少なくないことも示唆されている。

    むろん、経営上の利益を追求してのことではなく、ただ目の前の利用者と家族のよりよい暮らしのため、ともに生を楽しみたいという一念のことなので、チープなネオリベの方便なんかと一緒にしては失礼だけど、でも私はつい、ギリギリのバランスで保たれているのでは、と考えてしまう。

    そしてこのような介護を受けられる人はあくまで僥倖な一部の人々で、多くの人はシステマチックな介護体制に頼らざるを得ないわけで、せめてもうすこし制度がオルタナティブな事業所のありようを許容する方向に向かえばいいのに、と思う。ワタミを参入させるだけじゃなく…

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著者プロフィール

1965年福岡県生まれ。編集者。早稲田大学社会科学部卒業。ロック雑誌『オンステージ』、『宝島』で編集者として勤務した後、帰郷。タウン情報誌の編集部を経て、1998年からフリーの編集者として活動中

「2020年 『ブードゥーラウンジ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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