映像のポエジア ――刻印された時間 (ちくま学芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480511300

作品紹介・あらすじ

うちに秘めた理想への郷愁--。映画の可能性に応える詩的論理とは何か。映像の詩人がおよそ二十年に及ぶ思索を通し、芸術創造の意味を問いかける。

感想・レビュー・書評

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  • 映像のポエジア : 刻印された時間 - Webcat Plus
    http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/book/31053950.html

    映像のポエジア アンドレイ・タルコフスキー(著/文) - 筑摩書房 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784480511300

  • 誠実さと責任とが、才能を担保してくれる。
    考えることをやめてはいけない。

  • こんなことを言うと、自分がかえって低く評価されてしまいそうで嫌なのだが、本書の文章ははっきり言って難しい。レビューが異常に高く、評判もいいから読み始めたし、私もみんなのように「この部分がよかった」と議論に参加したかったのだが、正直に言うと、良い部分と好きではない部分があった。

    タルコフスキーが異常な文学愛好家であり、周囲を若干馬鹿にしている感じが隠しきれていない。彼が母親から幼少期に『戦争と平和』を読ませられて、そんな幼少期を過ごしたのもあって、三文文学なんて読めたもんじゃないと言った趣旨のことを書いている。これについて不快感を覚えた。私も普段、純文学を読む方が多いし、好きであるが、あたかも三文文学を劣っているかのように表現するのは気に食わなかった。

    それに、引用してくる芸術作品が、いかにもクラシックなものばかりで、結局あんたも、大勢の人々が評価してきた名作に終着してしまっているではないかと思った。ドストエフスキー、プーシキン、エル=グレコ、サルバドール=ダリ、トマス=マンなどなど、彼の引用はどれも古典的名作家、画家であった。こちらからすると有名も有名。例えるなら、スパイダーマンに熱狂している人たちを馬鹿にしながら、自分はバック・トゥー・ザ・フューチャーが好きみたいなことを言っている感じ。

    一方で、彼の映画との向き合い方に関しては、概ね同意できたし、私の思い描く芸術家としての理想の映画監督像に当てはまると思った。

    観客を想定しないことは不可能である一方で、商業的な観点から観客に受けのいい作品を作るのも馬鹿らしい。私はクリエイターとは真逆で、芸術を消費することしかできない観客側の立場に立っているが、彼の主張は「確かにそうだ」と頷くことができる。

    だからこそと言えるかもしれないが、私は本書を「映画に対する向き合い方の本」とは思わなかった。「芸術との向き合い方の本」だと思う。だからクリエイターではない私でも、同じ芸術を楽しむ者として、彼の芸術論に物申したくなったり、確かにと頷いたりしたのである。

    また、「アバンギャルド」という言葉を芸術に使うのは不適切だとして、こう言った言葉を使う人は、「穀物と雑草の区別が出来なかった者たち」だと言う。あまりにも辛辣で正直な意見で面白い。本書は彼の芸術論を披露すると同時に、これまで抱いていた鬱憤をぶちまける場所にもなっていて、強い主張・悪口のようなものが見られる。

  • 「身近な人の愛に、つまり身近な人々が自分に与えてくれたものにたいして、何によっても報いることができないと考えている人の苦悩について、語りたかったのだ。」

    ソ連の映画監督、アンドレイ・タルコフスキーの自伝。
    上の引用は、映画『鏡』の制作動機について語られた言葉だ。

    彼の映画を観て、この本を読み、映像などで人となりを見て感じるのは、これほど優しい人を自分は他に見たことが無い、ということだ。
    このような人がこの世に存在する(した)と知ることは感動的な体験だ。
    唯一無二の人格であり、彼から、芸術としての映画の偉大さを感じる。

    本著は、タルコフスキー監督の自伝として、制作動機、映画監督の仕事の技術的側面、芸術論などについて書かれている。
    著作というより、とても長いインタビューのようだ。
    訳も名訳と思われ、深く考えられた言葉を生き生きと伝えてくれる。

    最近日本で上映されたものも含めて、彼の映画を「美しい」という言葉で表現したり、高尚なものとすることに、少し違和感を感じる。
    むしろ、土の上を歩み、水に濡れ、冷たさや痛みを感じるような、誰もが知っている生々しい体験に訴えているように見える。
    本著からも、映像の美を当然前提としながらもそれは本質ではなく、それはあくまで一つの技術のようなものであると感じられた。

    『アンドレイ・ルブリョフ』を観たいとずっと思っているが、観てしまったら二度と他の監督の映画作品を観られる自信がなく、躊躇している。
    トルストイの小説『戦争と平和』がそうであったように。

  • 記録

  • 実に「濃い」1冊。思弁的であり、かつ愚直すぎるほど真面目に哲学的に映画を考察し、映画に欠かせないエレメントとしての時間について考え、果ては映画と観衆との関係について率直に切り込んでいく。ここまで濃厚に思考を煮詰めた果てにあるのがあの珠玉の名作群なのだな、と思うと唸ってしまう。私は東西冷戦が終わった頃くらいに物心ついたという、そんな年齢の人間なので当然タルコフスキーが生きた時代のシビアさなんてわかるわけもない。だが、そんな中でも全体主義国家の中で良心をくすぶらせ、自分を信じて映画を撮った姿が鮮やかに蘇る本だ

  • タルコフスキーによる映像論であり、芸術論であり、人生論としての一冊。
    監督した作品を中心にあらゆる思索が巡ってゆく。それはあたかもタルコフスキーの詩的な映画を観ているようでもあり、濃密な読書体験だった。
    日本の詩や黒澤明への愛着、演出や映画内時間についての哲学、それぞれの作品への言及等々。タルコフスキーの映画が心に触れた方であれば必読かと。

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著者プロフィール

アンドレイ・タルコフスキー(Andrej Tarkovskij):1932-86年。ソヴィエト・ロシアの映画監督。ショットの中を流れる時間とそれを表現するリズムに注目し、独自の映像を創出。1984年に亡命。作品に『惑星ソラリス』『鏡』『ノスタルジア』など。映画は人間存在の精神的実在に迫れると確信しながら、映像を文明批評の水準に高めた。86年パリで客死。『サクリファイス』が遺作となる。

「2022年 『映像のポエジア 刻印された時間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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