その情報はどこから? (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 275
感想 : 43
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480683465

作品紹介・あらすじ

日々、空気のように周りを囲んでいる情報群。その中から私達は何をどのように選べばいいのか。情報の海で溺れず上手にわたりきるために大切なことを教える1冊。

感想・レビュー・書評

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  • 「怪しいネット記事には惑わされないぞ!」と、この本を読んで心に誓った人が多いのではないでしょうか?
     その方々から見たら、私は限りなく黒に近いグレーな存在かもしれません。あるいは、グレーに近い黒。


     私は、編集プロダクションやエージェントに、記者・ライターとして登録しました。そこから紹介されたサイトで、マニュアルに従って記事を投稿してきました。
     そのうちのいくつかはニュースサイトで、私の担当は複数の報道やプレスリリースを総合し、要約・まとめタイプの記事提供を行うこと。記事の最後に参照元へのリンクを張ります。本書で使われている用語で言えば、「整理記者」に近いでしょう。
     思えば、ニュース発信の手法としては疑問符がつくところです。現場記者の方の苦労とは比べものにもなりません。とは言え、掲載すべき情報を限られた時間で探し出し、制限文字数を守ってまとめ上げるのは、自分にはそう簡単ではありませんでした。
     ニュース記事は鮮度も問われます。重要性が高く、多くの人に伝えたいと判断した話題でも、数時間後には死んでしまうのです。翌日の朝刊タイムに間に合わせるため、深夜に作業していたことを覚えています。

     もう一パターン。投稿者とっておきの情報を取り上げるメディアにも合流しました。
     当初は趣向が違ったのですが、世の中で「まとめサイト」「キュレーションサイト」が隆盛を極めると、その媒体は途中からキュレーション形式にリニューアル! 自分で使う機会はほとんどなかったけれど、リニューアルを機に、編集画面にはほかのサイトからの引用や画像転載をする機能が搭載されました。
     そのメディアの掲載記事は、必ず1記事に10項目まとめる形式と決まっていました。そのため、コツコツと集めた10個の情報を、1記事の中で見やすく配置するよう、手間ひまかけて作成していました。

     当事者としては、「大好きなインターネットで、世に必要とされる情報や面白い話題を、分かりやすくコンパクトにまとめるんだ!」と使命感さえ持っていた。それが少しでも人の役に立てばいいと願っていた。

     事情が一変したのは、2016年、本書にも取り上げられている医療健康情報サイト『WELQ』の騒動からです。業界に激震が走り、『WELQ』とは関係のないサービスにまで飛び火しました。キュレーションメディア=悪者のような風潮が生まれたのです。(問題はキュレーションサイトの手法そのものよりも、その使われ方にあったと考えられますが、もっと短絡的に断罪する声が圧倒的でした。)

     どこかのサイトからコピペしなくても、女性なら美容と健康には興味があるし、料理も、基本的な栄養素くらいはふまえて作ります。そうした生活実感のある分野の記事は、私も何本か書いていました。その、とりたてて医療の専門知識を要しないような可愛らしい記事たちがみるみるうちに消されていき、記事削除や非公開が増えていきました。
     最も怖かったのは、不気味な沈黙の期間です。これからどうなるのか? と運営元に何度か問い合わせても、返答が得られなかったのです。
     その後、私が生計を立てるために参加していた複数のメディアが閉鎖されました。投稿者に直接の連絡はないことが多かったです。騒動が大きくなったことで、運営元も編集プロダクションも、参加者に個別対応する余裕をなくしていたのでしょうか? 大体はその媒体を閲覧し、終了のお知らせが掲載されていたために知ったのでした。


     違うメディアに移っても影響は続き、取材のお願いや問い合わせのメールを送った際、それまでは穏やかに返答いただいていたのが、先方と信頼関係を築きにくくなりました。
     ネットのライターと知られると、非常に厳しい対応をされることが増えたのは、2016年以降と感じています。問い合わせの電話をかけると、ぞんざいな対応を受けて取り次いでもらえなかったことも。手抜き、自分で調べていないんだろうと面罵されたことも。恐怖心で、逆に取材や調査に行きづらくなったのですが。
     私は後ろ指を指されるような仕事をしたのでしょうか……?
     腑に落ちないものがありました。ただ、懸命に働けばいいというものではないことは分かります。もし間違った道を選んで進めば、必死で走っても認められはしないでしょう。

     しかし気になることがあります。この一件によって取り残されたライターの消息は扱われないものなのかな、とふと思ったのです。多くのまとめ作成者にとっても、葬り去りたい過去でしかないかもしれません。私も、掘り起こしたくないような気がしていたのが正直なところ。時間をかけた作業を否定されるだけで、プラスになることは何一つないのです。

     けれども、この本を手にして、痛みの日々を思い出しました。悪い夢ではなくて現実だった。急にはしごを外された人が出たのです。こうして「こちら側」からの体験を書き残しておけば、何かの検証に使える可能性もあるでしょう。

     そして、私が言う立場にはないのだろうけれども、ネットで気になる情報を閲覧したら、その記事のみではなく大元の発信先、つまり一次ソースに当たることを、一種の教養として身に着けるようオススメします。ネットなればこそ、発信源をたどりやすいはずです。


     理由も背景も実態も、本書にくわしく書かれています。

  • インターネットの渦の中で、氾濫する情報(フェイク含め)とどう付き合っていくか。
    旧知の内容も多かったが、具体例を挙げながら丁寧に書かれていてわかりやすい。

  • 情報の取捨選択についての1冊。
    教育に1人1台のタブレットが使われる令和の世に、本の世界のはしっこで仕事をする人間として、伝えていけることはなにかなあ、と。

    情報をアップデートし続けるのは大変だけど、今後はどれだけその波に乗り続けられるかがポイントになるなと思った。人間、常に勉強ということですね。

    中学生からぜひおすすめしたい、読みやすい1冊でした。スマホ、タブレットは使えて当然。そのなかから、情報で溺れる、惑わされることのないように。

    この本では触れられていなかったけれど、tiktokなどのフェイク動画系についても書かれている本はあるのだろうか?

  • 一次情報が大切だということ、アナログな情報にも目を向けること。など改めて説明している感じ。新たな発見は特に無く、あっさり読破してしまった印象がある。なんでも拡散しちゃう人たちにとりあえず読んでほしい。

  • ネットは玉石混淆、人の悪意はなくならない。と当たり前のことしか書いてないけど分かりやすいことは確か。
    ネットを上手に使いましょうってことになるけど、人は信じたいものしか信じないし、見たいものしか見ない。これを加速させるのがSNSだ。当然だよね、お気に入りしか表示させないわけだから。自分と異なる意見を受け入れる必要はないけど、聞くことは大切なんだけどな。このための処方箋は提示されていない。てかあるのかね。

  • ネット時代と言われる今の情報選別力を考えさせられます。
    何が正しい情報か、何を信頼すべきかをすごく考えさせられました。

  • ラジオの時代のオーソンウエルズ、ゲッペルスではないけれど、どの時代でもメディアの重要さとそれをめぐるあれこれと訳の分からない話はあるのだなあ。見抜こうと色々するのがリテラシーなのかどうか。うーん。

  • 小論文対策推薦図書 学際系

  • 貸出状況はこちらから確認してください↓
    https://libopac.kamakura-u.ac.jp/webopac/BB00295399

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50138302

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著者プロフィール

猪谷 千香(いがや・ちか):東京生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。新聞記者、ニコニコ動画のニュース編集者を経て、2013年にはハフポスト日本版の創設に関わり、国内唯一のレポーターとして活動。2017年からは弁護士ドットコムニュース記者。『つながる図書館』(ちくま新書)、『その情報はどこから?』(ちくまプリマー新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)、共著に『ナウシカの飛行具、作ってみた』(幻冬舎)がある。

「2023年 『小さなまちの奇跡の図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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