- Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480814333
感想・レビュー・書評
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著者の戦争をはさんだ若い頃の話。空襲など戦争被害の様子がすさまじいが、喫茶店の女主人や、そこで知り合った絵描きとの交流がしみじみとして、読ませる。
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戦後日本テレビ界の先頭を突っ走り、「未来への遺産」等々の先駆的な作品を作り続けてきた名ディレクターが、この世に生を享けてからNHKに入社するまでの青春の記録。
東京、長崎、仙台等々で過ごしたときの不条理に怒りを覚えながらも、何処か懐かしい戦前、戦中、戦後の日々のなかで映像でしか遺せないものがあることに気づかされた体験、そこで出会った人々、ともに鎬を削りあった仲間、新しい世界に目を向けてくれた畏友、等々々。
著者の手掛けた斬新な映像作りにはこれらの若き日々の記憶が糧になっているのがよく分かる。 -
著者は昭和6年生まれのいわゆる昭和ヒトケタ世代で、TV草創期の名演出家として知られた人物。
太平洋戦争中に多感な少年時代を過ごした、多士済々の「焼け跡派」の一人ということになる。タイトルの「敗戦野菊」とは外来植物のハルジオンあるいはヒメジョオンのことだろうか?
第二次大戦後の焼け跡に、真っ先に咲きだした菊のような小花のことだそうだ。焼け跡で目にしたその花に託して、子供のころからの数々の思い出を語っていく、、、
登場する一人ひとりの友人・知人たちの輪郭のくっきりしていること。それだけ記憶が鮮明で映像的なのは、後年TV屋として活躍した著者ならではの感性からくるものかもしれない。
収録されているエッセイのどれひとつをとっても、著者らしい観察力が生かされているし、湿っぽくなりがちな苦い記憶もユーモアにくるまれて読む者にどことなくあったかさを感じさせる。
小学生時代をすごした長崎時代の思い出、原爆で亡くなった友人たちへの惜別の情がひときわ胸にしみる。また、師と仰ぎNHK入局を推してくれた加藤道夫先生を忍ぶ最後の2編は哀切。
あとがきに書かれている著者の言葉が素晴らしい。