フラナリー・オコナー全短篇 下

  • 筑摩書房
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480831927

感想・レビュー・書評

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    正しいはずなのにという押し付け、どうして正しくない者につぶされなくてはならないのか。
    綺麗事にしない。
    そのようなどろっとした気持ちと、あまりにも極端なので滑稽すらあり、なんでこんなことに…というラストに持ち込む。

    いくつかはすでに読んだ短編だったが、今回初めて読んだもので、それが存分に発揮されてるのは『障害者優先』だった。

    こういう短編は好きだと言い切っていいのかしら?と思うのだけど、また読みたくなる。
    絶妙だと思う。

    〈収録作品一覧〉
    すべて上昇するものは一点に集まる
    グリーンリーフ
    森の景色
    長引く悪寒
    家庭のやすらぎ
    障害者優先
    啓示
    パーカーの背中
    よみがえるの日
    パートリッジ祭
    なにゆえ国々は騒ぎ立つ

  • 短篇集「すべて上昇するものは一点に集まる」
    ・すべて上昇するものは一点に集まる
    ・グリーンリーフ
    ・森の景色
    ・長引く悪寒
    ・家庭のやすらぎ
    ・障害者優先
    ・啓示
    ・パーカーの背中
    ・よみがえりの日
    後期作品
    ・パートリッジ祭
    ・なにゆえ国々は騒ぎ立つ

  • 時代は今、めまぐるしいほどのスピードで移り変わっている。昨日まで話題になっていたことも、数日後には忘れ去られてしまい、新しい情報が次々と生み出されてゆく。私たちは常に時代の流れに遅れまいと必死になっているといえるだろう。しかし、その一方で、時代に合わないものは次から次へと闇の中へ葬り去られている。私たちが長い年月を積み重ねて作り出してきた伝統や規範は、知らず知らずのうちに崩れ去ろうとしている。そして、古き良き時代の伝統や規範を身に着けた人もまた、時代の波に取り残されていくことになる。

    フラナリー・オコナーの短編『すべてのものは一点に集まる』に出てくる母親は、まさにその典型的な人物と言えるだろう。

    主人公の青年ジュリアンは、貧しい育ちでありながらインテリでもある。そのジュリアンは太りすぎた母親のために下町にある減量教室に付き添うことになる。母親は黒人をたくさん雇うほどの典型的な南部人の家庭で育ち、伝統的な価値観を兼ね備えて育った。そのためか、時代が移り変わり、貧しい生活を強いられるようになっても、母親は現実を直視せず、古い伝統的な価値観を捨てようとしない。ジュリアンはそんな母親に苛立ちを感じつつ、母親とバスに乗る。

    ここで、母親は黒人差別という批判されるべき対象として描かれている。だが、一方で、母親は息子ジュリアンに対し、過剰とも言うべき愛情を注いでおり、一方的に批判できない存在として描かれている。

    バスの中に、黒人の女性とその子供が乗り込んできた。黒人の女性はジュリアンの隣に座り、その子供はジュリアンの母親の隣に座った。ジュリアンの母親はたとえ黒人であっても、子供をかわいがる。バスに降りる際、ジュリアンの母親は1セント硬貨を黒人の子供にあげようとする。ジュリアンはそれを必死に止めるが、それを振り切って母親は黒人の子供に1セント硬貨をあげる。しかし、それを見ていた黒人の母親から激しく拒絶されてしまう。ショックを受けた母親は、路面に座りこみ、減量教室へは行かないで「帰る」と言い出す。

    そしてそのとき、ジュリアンは母親に忠告する。

    「あれは黒人という種族全体が、母さんの恩着せがましいわずかなほどこしなんか、もう受け取らないと意思表示をしたんだよ。(中略)古い世界は終わったんだ。昔の作法はもうすたれて、母さんの情け深さなんぞ、もう価値がなくなってしまったんだよ。」

    ジュリアンの言葉は、そのまま世間一般の人々の考えと同じである。息子であるジュリアンでなくても、黒人に対して差別するような行為は非難と対象となる。しかし、母親はたんに黒人を差別しただけだろうか。母親自身は、ただ黒人の子供がかわいいから、子供にお金をあげようとしたのではないだろうか。そこには黒人差別などというものはなく、一人の人間に対する温かい感情だけがある。

     この物語の最後では、ジュリアンはショックのあまり倒れてしまった母親のために、助けを求めて駆け出す。それは、私たち人間が失われつつある人間的な感情を求める姿でもある。

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