巨岩と花びら―舟越保武画文集

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480870544

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  • 長崎にある「二十六聖人殉教記念碑」や、埼玉県立近代美術館に所蔵されている「ダミアン神父像」で知られる彫刻家・舟越保武が新聞や雑誌に寄稿したエッセイを収録している本です。

    昨年の夏に長崎を訪れた際に見た「二十六聖人殉教記念碑」があまりにも力強い彫刻だったために、旅行から帰ってきた後も忘れることができませんでした。そのため、日本の美術作品について学ぶ木下直之先生の「近代日本美術史―その内と外へ(2)」(Aセメスター/文学部・人文社会系研究科)では、舟越について発表をしたり、期末レポートを書いたりしました。それだけでは飽き足らず、もう少し舟越のことを知りたいと思った時に手に取ったのがこのエッセイ集でした。

    舟越自身はあとがきで「私の中に鮮明に見えているものが、文字にすると、鮮明でなくなります。」と述べていますが、私はどのエッセイも読みやすく、舟越の人生や彫刻への思いを知るには非常に役に立つものだと思っています。

    なかでも、特に印象深かったエッセイは、二十六聖人像のうちの一体が亡くなった父の顔に見えてくることを書いた「断腸記」です。
    舟越の父は、舟越がまだ若いうちに亡くなってしまいます。しかし、父が亡くなる直前に舟越は、父の心をずたずたにしてしまうような「取り返しのつかないこと」をしてしまったのです。その後悔からか、父の顔に似せて作ったわけではないにもかかわらず、舟越にはある一人の聖人像が父に似て見えることがあるのだそうです。
    このエッセイを読み、やはり美術作品と作者の間の「特別な関係」というものはあるのだと実感しました。
    そして、そのような舟越の悲しい思いをも背負う「二十六聖人殉教記念碑」をもう一度見たくなりました。

    この『舟越保武画文集 巨岩と花びら』は、エッセイ以外にも舟越の彫刻の写真やデッサンが収録されているため、エッセイで言及されている作品が実際にどのようなものであるのかを見ながら読むこともできます。
    このエッセイから舟越作品に興味を持たれた方はより大きな形で作品を見られる『舟越保武作品集』(https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=2000006850)もおすすめです。

    私もこれまで彫刻に全く興味がなかったのですが、舟越の作品を知ることで、彫刻をもっと勉強したいと思うようになりました。新たな出会いです。

    文責:アオイ(人文社会系研究科 文化資源学研究専攻所属)

    https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=2001009763

  • 随所にはっとさせられる感想、観察、考察、といったものが語られていて、何度でも読まなくてはいけないもののような気がした。特にモディリアーニに関する考察については、彫刻家としての目線で書かれており、なるほどと思わせるところがある。その一方で、芸大教授時代のエピソードなども語られており、まさに青春を生きている最中である若者たちから刺激を受けながら制作している様子が目に見えるようで、おもしろおかしく、なんだか切ない。

  • 時折挿入されるデッサンや彫刻の写真が本当に綺麗で、誠実だけれど卓抜しているとは言い難い文章に説得力を与えている。このひとが美しいと言ったらそれは本当に美しいのだろうと思わされる。そこにあるのは造形の結果としてのひとつの形にすぎないはずなのに、伏せられた目の表情や立ち姿は不思議なほどに強く意思の存在を伝えてくる。真実がひとの上に表れる、その瞬間のサンプルとしての無数の『顔』が、このひとの内側に折り重なり仕舞われていて、いつか取り出される日まで静かにそこで醸されているのだろう。<BR>
    [05.11.05]<gmthr

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