隠し部屋を査察して (海外文学セレクション)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488016296

作品紹介・あらすじ

7月7日、日曜日、午前6時。北緯52度、西経108度に位置するカナダのある町から、それは始まった。地上に巨大な亀裂が出現し、幅100メートル、深さ30メートルの溝を残しながら、時速1600キロの猛スピードで疾走しはじめたのだ。西に向かって、触れるものすべてを消滅させながら…。不可解な現象が世界じゅうに巻き起こす大騒動の顛末を淡々と語る「刈り跡」、全体主義国家のもと"想像力の罪"を犯し"隠し部屋"に収容された人々を描く表題作など、20の物語を収録。小説の離れ業を演じ続けるカナダ文学の異才の、ユーモアとグロテスク、謎と奇想に満ちた"語り"と"騙り"の短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 2024-01-31
    奇想の爆発。陰惨だがドライで冷笑的。好きなタイプなのだけど、半分くらいはそれだけで物足りない。時間かけて一遍づつ読んだのだが、後半はやや飽きてしまったかなあ

  • マコーマック…マジで殺した嫁の四肢を四人兄弟の腹部にぶち込んだ父親ってアイディアすきなんだろうな…
    狂ってんな…

  • 3.77/68
    内容(「BOOK」データベースより)
    『7月7日、日曜日、午前6時。北緯52度、西経108度に位置するカナダのある町から、それは始まった。地上に巨大な亀裂が出現し、幅100メートル、深さ30メートルの溝を残しながら、時速1600キロの猛スピードで疾走しはじめたのだ。西に向かって、触れるものすべてを消滅させながら…。不可解な現象が世界じゅうに巻き起こす大騒動の顛末を淡々と語る「刈り跡」、全体主義国家のもと“想像力の罪”を犯し“隠し部屋”に収容された人々を描く表題作など、20の物語を収録。小説の離れ業を演じ続けるカナダ文学の異才の、ユーモアとグロテスク、謎と奇想に満ちた“語り”と“騙り”の短編集。』


    目次
    隠し部屋を査察して/断片/パタゴニアの悲しい物語/ 窓辺のエックハート/一本脚の男たち/海を渡ったノックス/エドワードとジョージナ/ジョー船長/刈り跡/祭り/老人に安住の地はない/庭園列車 第一部 :イレネウス・フラッド/庭園列車 第二部 : 機械/趣味/トロツキーの一枚の写真/ルサウォートの瞑想/ともあれこの世の片隅で/町の長い一日/双子/フーガ


    原書名:『Inspecting the Vaults』
    著者:エリック・マコーマック (Eric McCormack)
    訳者:増田 まもる
    出版社 : ‎東京創元社
    単行本 ‏: ‎277ページ

  • わかってらっしゃる、グロテスクというものを。映像にしたらR指定確実。それっぽい味付けをして読者の興味を煽るようなレベルでなく真の狂気なんだけど、書き方が素晴らしい。淡々と普通の感覚で人間の感情を書き、日常的にグロを大さじで盛り込んでくる。表紙の不思議メルヘンと雰囲気違うと思う。人体ザクザク刻まれる。未開の地の現地人の話が好み。作者は教員もやっていたスコットランド人らしいが、涼しい顔で教壇に立ちながらこういうキワイ作品を家に帰って書いていたのですね。。。山田風太郎の初期作品を読んでるような感じがしました。

  •  この短編集を読んで、この作者の次作(当短編集が処女作とのこと)である「パラダイス・モーテル」の成り立ちがはっきりわかったように思える。
     この短編集には「パラダイス・モーテル」の要となった「殺された母親の身体の一部を埋め込まれた4人の兄妹」のエピソードが「短編」として掲載されている。
     それだけでなく、「パラダイス・モーテル」のエピソードが、そのままの形で、あるいは「パラダイス・モーテル」の登場人物が、別の形でこの短編集に登場してくる。
     要するに「パラダイス・モーテル」は短編をいくつか散りばめて長編の体を模した短編集のようなものだったわけだ(ある程度予想はできたが)。
     仮にこの「隠し部屋を査察して」を先に読んでから「パラダイス・モーテル」を読んだとしたら、感想や受けた印象は随分と違ってきたであろう。
     それがいいのか、悪いのか、は別の話。
     ましてや「面白いかつまらないか」の話は別次元のこと。
    「パラダイス・モーテル」の話が長くなってしまったが、当短編集も面白い。
     二十編が収録されているので、まぁまぁのものや、あまり面白くない物も含まれるが、玉石混交の「石」は無かったように思う。
     奇想天外(話によっては荒唐無稽)な話が多く、よくまぁ考え付いたもんだなぁ、と感心したりする。
     ただ、アイディア勝負なところがあって、きちんとストーリーを紡ぎだすという作家ではないように思える。
     いわゆる「ストーリーテラー」としての資質には恵まれていないんじゃないか、それゆえ「パラダイス・モーテル」がああいった形式になったんじゃないか、なんて偉そうに思ってしまう。
     ただし、何度も書くが、それ自体が「面白いかつまらないか」には直結してはいない。

  • 表題作は奇妙な物語だ。
    いや、この本に収められている物語の全てが歪んでいるのだが、とりわけこの作品のインパクトは大きい。

    隠し部屋に住まわされている住人たち。
    皆同じような造りの家に住まわされている。
    「私」はその査察官だ。
    彼らの様子を定期的に見まわる。
    むせび泣きに気をつけながら。

    「貿易風」の家の住人は教育を受けていない天才。
    「ヒルトップ」の住人は魔女。
    「コージーコーナー」では町長が、それぞれ隠し部屋に住んでいる。
    見まわる「私」はないはずの村の最後の一人。
    本当は「私」も隠し部屋の住人なのかも知れないが、行政当局は何も言わない。
    真実は誰も知らないし、知る必要もない。

    『海を渡ったノックス』では残酷極まりない物語が展開される。
    それは一瞬の嫌悪をもたらしながら、次の瞬間にはその心情は行き着く果てのない物語の波間に消える。
    私たちが、普段目にする現実の残酷な物語に心を痛めながらも、それを誰かの現実とは考えないように。

    どの物語も残酷さと悲しみが入り混じる。
    ただ、その想像力の世界があまりにも広すぎて、そして不条理すぎて私の頭は感情を作らない。
    安部公房の『砂の女』、カフカの『変身』、カレールの『口ひげを剃る男』......
    不条理で奇妙な世界は一見して凪いだ海なのである。

  • 奇抜で残酷でなぜか「侘び」を感じる世界観に魅せられた。流し読みすれば置いていかれるタイプの小説だが、かといってじっくり向き合えば少々しんどい思いもするため、「勘弁してよー」と時々ぼやきながら読み終えることとなった。淡々としているようで濃く、密なようで壁があるような、まことに奇妙な短篇集だった。

  • エリック・マコーマックの奇妙な世界が存分に味わえる。

  • 歪に傾いているような短編集。
    幻想的というよりも、グロテクスで心惹かれるものが陳列された棚を、窓の外から覗き見する感じ。その様子を奥に引っ込んだ店主が訳知り顔で眺めている感じ。こんな世界、お好きですよね? 共犯のような感覚。

  •  大森望がSFMvol.553の架空SFアンソロジー企画『世界バカSF傑作選 1』で収録候補に入れた「刈り跡」目当てで購入。これはすごくいい企画だったね。

     本の紹介としてはここがまとまっているかなぁ。
    http://park8.wakwak.com/~w22/721.htm(ほんやく本のススメ)
     すみにえさんのページはガイドとしてとても重用していたのだが、更新が止まってしまって残念である。

     最初のほうではちょっと苦戦。「パタゴニアの悲しい物語」のような想像力は本物ではあるんだけれど、僕は身体損壊とかあまり好きなジャンルではないし、途中までは作者のモラルがどこにあるのか分からなくて、素で、「隣に住んで欲しくはないタイプの人間だ」とか思ってしまった。「一本脚の男たち」なんかは笑っていいのかどうか困惑したり。

     わりと同じタイプのモチーフは出てきたりして、宙吊りになったままの性交フェチの人は「庭園列車 第一部」や「トロツキーの一枚の写真」なんかを読むといいかもしれない。

    「断片」や「ルサウォートの瞑想」は、外部の誘惑や刺激から身を守るために感覚器官を封じるまでに至るファナティックな純潔性をグロテスクさと同時に滑稽さをまじえて描いている。この辺はマコーマックの人生観なのかもしれない。

    「歯のある膣」型の女性がいる七つの世界をめぐるエピソード「庭園列車 第二部」あたりから嫌悪感が消えてきて、「トロツキーの一枚の写真」で俄然面白くなってきた。
     絞首刑に処された男を宙吊りにしたまましがみついて性交するカルト教団の女、出生時にはシャム双生児かと間違われた、母親の胎内にいるときから双子の妹を犯していた牧師など、頭の痛い描写が炸裂するものの、結局作品中もっとも印象に残る性のイメージは、二重あごのずんぐりした女性であるアビゲイルに、彼女の裸体が美しいと教えた亡き夫との正直な交わりである。やがて彼女はトロツキーの一枚の写真を撮ることになる。

     すみにえさんのページで「時系列が崩してあって、混乱しそうになる」とあるのは、ラモン・メルカデル(作品中に表記なし)がトロツキーを暗殺するシーンのことかもしれないが、この件について知識があると、過去の事件としてしか読めないので、わたしは特に気にならなかった。とはいえ、この件については、誰でも知っているのが当然だと言えるようなものではないかもしれない。


    「町の長い一日」は家族に命を狙われている、もはや爆笑ものの奇談や、体に詩作に使うつもりの言葉を書き連ねた紙を貼り付けた男など、強烈なキャラクターを配して、彼ら一人一人だけで短編の一本は書けそう。この辺はやっぱりラファティとかをなんとなく想像する。

    「双子」は一人の青年の体の中に生まれた二人の青年をめぐる物語だが、二人の青年に愛された一人の女性の証言が秀逸。

    「エドワードとジョージナ」とか「趣味」なんかは「異色作家短編」としては普通かな。普通の異色ってのも変だが。

    というわけで、最終的には非常に満足したのですが、翻訳ないね。あと長編の『パラダイス・モーテル』だけですか。うーん、もっと紹介すすんでもいいと思います。

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