- Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488017996
作品紹介・あらすじ
ホームレスを強制退去した公園の治安のため、ボランティアで『見回り隊』が結成された。ある夜、見回りをしていた吉森は、公園に居座る奇妙な客たちを追い出す。ところが翌朝、そのうちのひとりが死体で発見された! 事件を追う吉森に、公園で出会った昆虫採集に勤しむとぼけた青年・?沢(えりさわ)が、真相を解き明かす。訪問客が減少した高原での密かな計画、街の片隅のバーでの交流が引金となる悲劇……。?沢が遭遇する事件の構図は、軽やかな推理で鮮やかに反転する! 第10回ミステリーズ!新人賞を受賞した表題作を含む全5編。軽快な筆致で贈るミステリ連作集。
感想・レビュー・書評
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昆虫好きのちょっととぼけた青年・エリサワが行く先で事件に巻き込まれる。
サクサクっと読める5つの短編。
エリサワの会話がなんと表現したらいいのか…
ふざけてるわけではない、それはわかるのだがちょっと相手のペースを乱してしまっているのが面白い。
意気込んでいるわけではなく平常心で謎を解く不思議くんと言った感じである。
事件など起こりそうもない雰囲気を醸し出している彼に知らぬ間に纏わりついている虫どもをシュッと網で退治したような…。
○サーチライトと誘蛾灯
夜の公園で起きた変死事件。
○ホバリング・バタフライ
高原で出会ったおばさんと追跡した先には。
○ナナフシの夜
街はずれのバーで出会った男女のやりとりが悲劇へ。
○火事と標本
写真家志望の青年と母の死。
○アドベントの繭
牧師の遺体とそばに置かれた聖書の意味。
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それぞれの事件でなんとなく探偵役になってしまう昆虫大好きの魞沢がとぼけた味わいでなかなか好感が持てる。さりげなく事件の真相を見抜いてしまうところが面白い。ぼんやりしているようでちゃんと見るべきことを見ている。事件自体は、それぞれお互いにつながりはない。ちょっと設定が自然じゃないところもあるけど、まあよしとしよう。次作に期待できる。
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サーチライトと誘蛾灯って、どんなタイトルだよと思ったが、真相を知ると、表だった世界に出て行けない人間のやるせなさを見事に描いており、これ以外の他のタイトルも、物語に合った絶妙な素晴らしさ。
櫻田智也さんって、私とほぼ同年代なのだが、この人、もしかしたら天才なのかもと思う。
だって、表題作の探偵と吉森さんの、漫才のようなふざけたやり取り(ふざけてるのは探偵だけだが)に気を取らせておきながら、綺麗に伏線を張り(本当に亜愛一郎へのオマージュみたい)、ものの見事に真相へと導いて行く、その物語は、実に丁寧で、冷静に落ち着き払った物腰を感じさせる、この熟成さは、まさに作者の憧れの泡坂妻夫さんのようで、これが本当にデビュー作かと思ってしまう。
ちなみに、私は本書の続編を先に読んでいるので、探偵の「魞沢泉(えりさわ せん)」の人柄を既に知っており、ふざけたなんて書き方をしているが、彼がただそれだけの人物ではないことも知っている。
虫好きの彼は、まさに光に誘われる虫のように、ふらふらと現れるが、気高き魂に誘われる素質を持っているかのように思ってしまうのも、彼の人柄をよく表している。
普段は、いい年して虫取りに夢中で、明るく天然っぽい無邪気な雰囲気を醸し出しているが、実は、刑事と対等に睨み合ったり、正義漢ぶったことを後になって恥じたりする一面も持っていて、それは彼の中にある、探偵らしさでもあるし、それとは真逆の彼らしさでもある。
物語の中に、『ピンと張ったはずの足場のロープが、いつの間にかゆるんでいる』という表現があったことを思い出した時に、私はちょうど彼のことが頭に浮かび、探偵に人間らしさがあるのを否と思う人もいるだろうが、私は魞沢クンなら、それがあっていいと思う。非情になりきれないのだ。それは、彼の行動にとてつもないやさしさを感じさせ、「アドベントの繭」での彼の怒りもそうだし、「ナナフシの夜」でのハンカチもそうだし、「ホバリング・バタフライ」でのナビの電源を切った行動だって・・・人の気持ちに寄り添える探偵がいたって、いいではないか。
また、ミステリーだけではなく、物語としても素晴らしかったのが、「火事と標本」で・・・最後の一枚の写真の真相を文章から悟った瞬間、久々に声出して泣きました(嗚咽ってやつですね)。っていうか、ずるいよこれは。こっちは探偵ものという前提で読んでるのに、こうした良い意味過ぎる裏切り方は。祐也の気持ちが私事のように乗り移って、おいおい泣いてしまった。これは彼らの生活環境の辛さもあるが、なんといっても、ここにくるまでの展開の、複数の伏線が積み重なった故の感動もあって、これが推理と物語の両方を兼ねている点が、また憎らしいほどに素晴らしい。
こう思うと、もう三作目を早く読みたいと期待してしまうのだが、本書のあとがきに、岩手県に住んでいた頃の櫻田さんが、東日本大震災によって疲れを感じた、その一年後にミステリーを書く気持ちが芽生え、それは、
『失われてしまった日常を、過去から手繰り寄せて取り戻そうとする抵抗の試みであり、過去から取り寄せた種を、未来に向けて蒔いておく試みだったのかもしれない』
と書いており、この想いとやさしさって、まさしく彼のようで、『探偵、魞沢泉』が生まれたのも肯けるエピソードだと感じたし、あるいは、亜愛一郎のような、飄々としながら人を傷つけないユーモラスで温かい種を今に甦らせようとしたのかもしれない。-
111108さん
説得力あるなんて、ありがたきお言葉、恐縮です(^^;)
そうなんですよ。あまりに音沙汰が無いので、気になって調べてみた...111108さん
説得力あるなんて、ありがたきお言葉、恐縮です(^^;)
そうなんですよ。あまりに音沙汰が無いので、気になって調べてみたら、「紙魚の手帖」で、半年に一作のペースで、魞沢くんシリーズを書いている事を知りまして。
今後の色については、これまで割とオーソドックスな色で展開しているから、青、黄、緑あたりでしょうか?
それから茶色は、よくミステリーのタイトルにもありますよね。
それとも、藍なんて、渋いところにいったりするとか?
作品の数については、これまでの二作品が五つずつ収録されていたので、五色でまとめるのかなとは思うのですがね。
ちなみに、ウィキペディアを見てみたら、未発表作品に、「緑の女」(2014.10)という作品があるそうで、緑の可能性は薄いかもしれません。2022/11/09 -
ちなみに「緑の女」は、単行本未収録作品でした(ミステリーズ! vol.67)。失礼いたしました。ちなみに「緑の女」は、単行本未収録作品でした(ミステリーズ! vol.67)。失礼いたしました。2022/11/09
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たださん
魞沢くんへの期待からいろいろ調べられたんですね!さすが!
茶色と藍色も渋さが魞沢くんに似合ってそうでいいかも。‥と妄想ばかりして...たださん
魞沢くんへの期待からいろいろ調べられたんですね!さすが!
茶色と藍色も渋さが魞沢くんに似合ってそうでいいかも。‥と妄想ばかりしてしまいます。
雑誌には目をつぶって、単行本発売を楽しみに待ちます♪2022/11/09
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面白かった♪
昆虫好きのエリサワが良いです。
ふわふわとぼけたキャラだけど洞察力に優れてます。
とぼけすぎて会話がもう笑える!
表題作「サーチライト…」は見回りボランティアの老人とのやりとりに爆笑してしまった(//∇//)
ちょっと鋭く解決しすぎて名探偵すぎるけど
短編なんでまぁ良いかな?
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みんみんさん、こんにちは(^^)
ついに読まれたのですね。
私、櫻田智也さんの作品大好きで、表題作のやり取りは、狙ってる感ありありなのが面白...みんみんさん、こんにちは(^^)
ついに読まれたのですね。
私、櫻田智也さんの作品大好きで、表題作のやり取りは、狙ってる感ありありなのが面白いですし、「火事と標本」は、感情移入し過ぎて涙が止まりませんでした(T_T)
続編の「蝉かえる」も面白いので、是非。2023/06/17 -
みんみん
おはよう!
櫻田智也さん行ったか〜
噂には聞いてるんだけどまだ未読なんよね
みんみんの本棚いよいよ混沌としてきたなwみんみん
おはよう!
櫻田智也さん行ったか〜
噂には聞いてるんだけどまだ未読なんよね
みんみんの本棚いよいよ混沌としてきたなw2023/06/19
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虫好きのえりさわくんが活躍する短編集。小さな虫を観察し慣れているせいか、何気なく事件の真相を見抜いてしまうほど人間への観察眼も鋭い。かと言ってでしゃばるわけでもなく、ゆったりと解決へ導いてくれる感じだ。
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『昆虫好きのとぼけた青年』魞沢(えりさわ)が解き明かす5つの事件。
夜の公園をパトロールしていた老人が追い出した不審者が翌朝死体となって発見される。
観光地化に失敗した高原を管理する非営利団体の噂を聞き、かつて夫が団体に所属していた女性が不審な行動を見張る。
町外れのバーの、常連客の男女のうちの男がその夜殺される。
親しくなった少年に標本を託し、写真家を目指す青年が母親と無理心中。
寂れていく教会の牧師が殺され、中学生の息子が行方不明になる。
あとがきにて、探偵役の魞沢は泡坂妻夫さんの亜愛一郎をモデルにしたとのこと、確かに亜のような飄々とした雰囲気は出ている。
昆虫好きということだが、単なる素人の趣味の範疇なのか、それとも研究者なのか、その辺りもよくわからないし、日本全国様々な場所に出没し昆虫を追いかけているらしいが、他人にスルッと入り込み馴染んでしまうところは掴みどころがない。
全体的に犯人探しやトリックというよりは、事件の裏で何が起きていたのか、どんなドラマがあったのかというそのプロセスを解き明かすのが魞沢の役目であり、そこにこのミステリーの面白さがあった。
表題作は意外な目撃者の存在に驚いたし、他にも本格物のような構図があったりなかなか楽しめた。
魞沢の受け答えのおとぼけとは逆に、事件の裏にあるドラマは苦く切ないものもあったりして、その対比も良い。
この作品がデビュー作らしいが、今後が楽しみな作家さん。 -
昆虫を愛するちょっと、いや大分とぼけたエリサワ(漢字が変換出来ない)青年が夜の公園で、山で、バーの片隅で起こる謎を解き明かす短篇集。会話が主体で表題作では噛み合わなさに違和感があったが読んでいくうちにそれが味になってきた。ちょっとした謎が結構な重い真実に繋がる過程の物悲しさがレトロな雰囲気と合って好み。山で出会った女性の車に乗せてもらって高原で起こりつつある事件に迫る「ホバリング·バタフライ」と宿泊先の主人の幼い頃の思い出の秘密「火事と標本」が良かった。
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亜愛一郎みたいなひょうひょうとした雰囲気の探偵が魅力的。
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本書の続編である「蝉かえる」が面白かったので、こちらも読んでみたくなり、Amazonのオーディブルで聞きました。主人公の虫好き青年がたまたま事件現場に居合わせて、面白い視点で事件の真相に迫っていきます。個人的には続編「蝉かえる」野放が面白かったので続編も読んでみてください。
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身の回りにいる虫を深く子供の頃より見ていないなと思いました。虫にまつわる5つの物語。次巻も楽しみです。