揺籃の都 (ミステリ・フロンティア 113)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488020187

作品紹介・あらすじ

1180年。平清盛は、高倉上皇や平家一門の反対を押し切ってまで、京都から福原への遷都を強行する。清盛の息子たち、宗盛・知盛・重衡は父親に還都の説得と、富士川の戦いでの大敗を報告するため、清盛邸を訪問するが、それを機に邸で怪事件が続発してしまう。清盛の寝室から平家の守護刀が消え、平家にとって不吉な夢を喧伝していた青侍が切断された屍で発見され、「怪鳥を目撃した」という物の怪騒ぎが起きる。清盛の異母弟・平頼盛は、異母兄に捕縛を命令されていた青侍を取り逃した失敗を取り戻すため、甥たちから源頼朝との内通を疑われる中、事件解決に乗り出すが……。話題作『蝶として死す』に続く、長編歴史ミステリ!

感想・レビュー・書評

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  • 「蝶として死す」から11年、福原遷都と富士川の戦い大敗で揺れ動く清盛一門で起きた事件に異母弟・頼盛が再び挑む。

    平家一門にとって不吉と思われる夢を見た青侍(身分が低い若侍)が逃亡、清盛から捕縛を命じられた頼盛。家人の報告で青侍が清盛邸に逃げ込んだことを知り、清盛に邸内探索の許可を得ようと乗り込むが、何故か清盛に碁を誘われたり清盛の息子たちによる富士川の戦い大敗の報告などで探索が出来ない。
    吹雪により清盛邸に泊まり込んだ一同だが、その翌朝、清盛の枕元にあった小長刀が消え、さらに青侍が塀の外でバラバラ遺体となって発見される。

    本を開くといきなり清盛邸の見取り図があり、わくわくする。
    バラバラ遺体の周囲の雪に足跡がなかったり、密室状態の祈祷所で巫女が逆さ吊りにされたり、清盛の枕元から刀を盗まれたりと、本格ミステリーっぽい要素が満載。
    一方で、不吉な夢や化鳥に天狗、神仏や死の穢れという当時ならではの背景もある。しかしそれもこの犯罪を形作る重要な要素となる。

    特に死による穢れは興味深い。
    邸内で五体満足の遺体があると30日、手足などの一部でも7日間は『物忌み』といって家に籠らなければならない。
    また死体を門から出すと門が穢れて使えなくなるので、葬儀などで死体を家から出す場合は塀の一部を壊して出したり、塀に梯子を掛けて乗り越えて出したりしなければならない。
    さらには自宅に穢れを生じさせないため、屍を路上や空き地に捨てていく習慣まであったというから恐ろしい。
    当時の京都に死体が散乱していたというのは戦だけでなくてこういう習慣や考え方があったからかと思うと戦慄する。

    前作から11年たったこの作品でも、頼盛は清盛やその息子たち(特に知盛・重衡)からは謀反を疑われている。
    というのは、頼盛の母・池禅尼は源頼朝の助命嘆願をしているし、池禅尼の兄は牧の方の父・牧宗親(大河ドラマでは兄だが、父との説もあるらしい また池禅尼の兄との説もあるらしい)なのだ。その縁で頼朝の監視は池殿流平家(頼盛)と北条時政が担っている。
    頼朝蜂起に頼盛が関わっているのではないかと疑われるのも無理はない。
    そんな中で起こった殺人事件や小長刀盗難事件。知盛らの厳しい目に見つめられながらという厳しい状況で頼盛は自分や家の子郎党を守るために事件のなぞ解きに挑む。

    事件の真相や動機は予想が出来た部分と驚かされた部分あって楽しめた。ネタバレになってしまうので詳しく書けないのが辛いが史実ともうまく絡めてあって面白かった。
    タイトルである『揺籃』とはゆりかごのことらしい。
    大河ドラマでもバタバタしていた感の福原遷都については興味深かった。

    そして頼盛。実際の頼盛がどういう人だったのかは分からないが、ここに描かれる頼盛は相当の知恵者だ。清盛、知盛らの厳しい目をかいくぐり、いかに自分たちが生き残るかを必死に考えている。そして最後のシーン。
    壇ノ浦後も唯一生き残ったという説も納得の周到さ。
    一時頼朝を頼って鎌倉にいたこともあるらしいから、ドロドロの権力争い真っただ中の鎌倉で再び事件解決に挑むなんて姿も見てみたいが、さらなる続編はあるだろうか。

  • タイトルが秀逸の一冊。

    平清盛が福原へ遷都した1180年の清盛邸で起きた怪事件に平頼盛が挑むミステリ。

    この時代の邸の見取り図まで味わえるとは嫌でも心踊るスタート。
    刀消失から結局4つの謎を解明しなければ自身の身が危ない、崖っぷち頼盛。

    この時代の風習、宗盛、知盛、重衡の三兄弟の性格を盛り込みながらの推理合戦は読み応え抜群。

    若かりし頃の小生意気な知盛を表面上はサラッといなす頼盛だけど胸の中はざらざら…が笑えた。

    着地点、タイトルの秀逸さに思わず膝をぽん。
    からのあのラスト。

    したたか頼盛に舌を巻く余韻が後を引く面白さ。

  • Web東京創元社マガジン : 第15回ミステリーズ!新人賞「屍実盛(かばねさねもり)」を収録した、歴史ミステリ連作集。羽生飛鳥『蝶として死す 平家物語推理抄』(2021年4月5日)
    http://www.webmysteries.jp/archives/26002686.html

    立原圭子 | イラストレーションファイルWeb | illustration File Web
    https://i.fileweb.jp/tachiharakeiko/

    揺籃の都 平家物語推理抄 - 羽生飛鳥|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488020187

  • 京から福原へ遷都を強行した時期の平清盛邸で起きた怪事件。平家にとって不吉な夢を見たと喧伝していた青侍が逃げ込んだはずの清盛邸から姿を消し、翌日雪の中屍で発見される。同日清盛の寝所から平家を守護する小長刀が消え、物の怪騒ぎが起き、更に事件が続く。源頼朝との内通を疑われる四面楚歌の状態で平頼盛は全ての事件の謎に挑む。清盛の息子の宗盛・知盛・重衡三兄弟との推理対決が面白いし、この時代背景を活かしたトリックも秀逸。読み返せばちゃんと提示してあるし。平安貴族の生活事情もしっかり語られていて興味深い。寝殿造りの構造が良く判らなかったのでネットで調べながら読み進めた。ネット万歳。最後の清盛vs頼盛のタイトル回収からのラスト一行がまた良い。皆腹黒いのぉ。

  • 福原遷都を舞台に、清盛邸で起きた事件の解決にのぞむ頼盛。

    この時代に明るくないため、前回の短編集と違い少し読み進めるのが大変でした。今回は身内だけれども微妙な関係の棟梁清盛家ということで、動きにくい中、最後は丁寧に回収していました。

    小さな伏線の積み重ねのため、ついつい戻ってしまうこともありましたが、面白い内容です。

  • (Ⅰ)平家物語をある程度知っている方がキャラや、この物語の歴史上での位置づけがイメージしやすく、より楽しめるとは思うけど、まったく知らなくてもたぶん大丈夫。ミステリとしてもかなり凝ってます。個人的にはここ数年、たまたま平家物語関係に親しく接していたのでよかったです。(Ⅱ)前巻で完結かと思われたけど年代を遡って今回も頼盛が探偵役でかつ長編。清盛の息子たち宗盛、知盛、重衡らも活躍(捜査妨害?)。ほとんどが福原にある清盛屋敷でのできごと。化鳥。小長刀盗難。青侍殺害。神の顕現。厳島神社の小内侍襲撃。猿の福丸殺害。単独犯なのか? 犯人の目的は?(Ⅲ)選択は悪くなかったのに方法が清盛らしからぬ杜撰さで、以前から疑問に感じていた福原遷都の驚愕の真相? 「揺籃の都」の意味は?

    ■簡単なメモ

    《平家一門がどのような難局を迎えようと、池殿流平家を守り抜けばいいだけだ。》p.80

    /福原遷都の時代。頼盛四十七歳。清盛六十二歳。頼盛は安徳天皇と高倉上皇のために屋敷を差し出している。また源氏討伐のため維盛が東征し水鳥の音に驚き不戦敗のていたらく。民心は平家から離れ始め衰退の兆し。
    /平家を貶めるような夢を見たという青侍を捕らえよという清盛の命を受けた頼盛。
    /福原では化鳥など化け物が出るという噂。
    /平家が厳島大明神から預かっているとされる小長刀が盗まれる。
    /還都を勧めに来ていた宗盛、知盛、重衡ら清盛の息子たちも頼盛とともに捜査する。
    /宗盛以外の関係者から嫌われている頼盛はいろいろ足を引っ張られる。
    /厳島神社の巫女である小内侍が神を見たという。頼盛は清盛の息子たちを疑っているようだ。
    /小内侍襲撃、疑われる頼盛だがそれなりにちゃんとしたアリバイがある。

    ■簡単な単語集

    【葵前】身分は低いが高倉天皇の寵愛を受けた。今はお見限り。宮中の勢力争いに巻き込まれないよう、という文は届いた。
    【池殿流平家】→頼盛
    【池中納言】→頼盛
    【池禅尼/いけのぜんに】頼盛の母。かつて源頼朝の助命嘆願をしたことがあるので源氏に恩を売っていたとも言える。
    【泉殿】→重盛
    【厳島大明神】清盛が信奉している女神。
    【家人】主人に終生従う郎党で、主人が戦士した場合は家族の面倒も見る。
    【蝙蝠衆/かわほりしゅう】盲目だが気配察知能力に優れておるので清盛が夜の警固を任せている。
    【木曽義仲】源氏の武将。どれかわからなくなった斎藤別当実盛の遺体を見つけてくれと頼盛に依頼してきた。
    【着膨れ】頼盛は外出時着膨れするが、それは着物を報奨等として与えるため。質の良い着物はけっこうな金になる。
    【黒雄丸/くろおまる】清盛の側仕えの少年。一五、六歳。
    【建春門院滋子】清盛の正妻時子の異母妹。頼盛を危険視している。
    【後白河院】清盛とは協力することも反発することもあった。清盛としても邪魔ではあったろうが完全な排除はできなかった人物。なんとかうまく立ち回って平家滅亡を見届けた。今様=歌謡曲好きで『梁塵秘抄』を著した。
    【小内侍/こないし】厳島神社の巫女。おそろしく端正な顔立ちの少女。
    【小長刀】平家が厳島大明神から預かっているとされる銀の蛭巻の小長刀。それが失われ源氏に渡るという夢を見たという青侍を探す命を頼盛は清盛から受ける。
    【小松流平家】→重盛、維盛
    【維盛】重盛の息子。父亡き後、小松を継ぐ。
    【斎藤別当】→実盛
    【実盛】長井斎藤別当実盛。齢七十にして敗走する軍の殿をつとめ源氏の若武者手塚太郎金刺光盛と互角に闘い討ち死にした。平家物語の中でも知られているシーンのひとつ。
    【鹿ヶ谷】有名な謀議事件で流刑になった俊寛は頼盛の義兄弟。
    【重衡/しげひら】平重衡。清盛の五男。美貌を誇る。虜囚となるが毅然とした態度を崩さなかった。頼盛を疎ましく思っている。
    【重盛】平重盛。清盛の嫡男。おおむね正義の人として描かれることが多い。最近病がち。小松に屋敷があったので「小松流平家」とか「小松殿」とか呼ばれる。重盛亡き後は息子の維盛が家長となる。
    【紫麿/しま】清盛が所持していた名馬。
    【相国】清盛のこと。
    【石薬/せきやく】鉱物を使った薬。使用法によっては毒になるので多くのタブーがある。
    【千手前】囚われの身となった重衡を慰めた。
    【高倉天皇】後白河院の息子。第二話時点で十八歳。母は建春門院滋子であり妻は徳子で清盛のバックアップ力が強く逆らえない立場だが葵前を寵愛した。病がち。
    【忠盛】平忠盛。頼盛らの父。
    【為盛】頼盛の息子。側室の子。眉目秀麗。
    【徳子】清盛の娘で高倉天皇の正妻。後の安徳天皇の母。後の建礼門院。
    【知盛】清盛の四男。趣味の良い美男子。頼盛を疎ましく思っている。
    【福原】京から遷都された。もともと清盛が住んでいた土地であり、平家の別荘があった。港もあるし、客観的には都として京都より向いているとは思われる。ただ、急な遷都だったのでいろいろ問題が出た。そこらへんは清盛らしくない杜撰さで耄碌しはじめてたのかなという認識やったけどこのシリーズで驚愕の? 真相が明かされる(あくまでもフィクションですけどそういうこともあるかもねと思わさせられた)。
    【福丸】清盛が飼っていた猿。馬の盗難除け、魔除けの意味がある。
    【宗盛】清盛の三男。ふっくらしたお人好し。とりあえず清盛の後継者。だいたいの場合頼りないお坊ちゃんとして描かれる。それゆえに軽い存在に思えてしまうが、平時なら多くの人物から好かれ、善政を敷いたのかもしれないとは思える人物。
    【以仁王/もちひとおう】高倉天皇の異母兄。賢明との誉れも高い。清盛にとっては邪魔な存在。頼盛が養育したので頼盛も邪険に扱われる。
    【弥平兵衛】平弥兵衛宗清(たいらのやへいひょうえむねきよ)。頼盛の家人。
    【頼盛】主人公、平頼盛。清盛の異母弟の一人。池中納言とも呼ばれる。源頼朝が捕らえられたとき助命嘆願をした池禅尼の息子なので頼朝は恩義を感じていたようで、史実では平家で唯一生き残り天寿を全うした。父の忠盛の薫陶を受け風流人でもあり鼻が良く香もよくする。ただ、和歌は不得手。童顔で若くみられがち。どうも清盛の覚えめでたくないので生き残りを賭けてその推理力を駆使する。武士であり死体への忌避感は持っていないし、かつて死体の研究をしていたことがあり検屍官としての能力も高い。着膨れていることが多いがいざというとき高級な衣類を褒章として与えたりなんらかの対価とするためでもある。
    【頼盛の妻】八条院暲子内親王(後白河院の異母妹)の乳姉妹。鹿ヶ谷の陰謀で島流しにされた俊寛のきょうだい。彼女がけっこう強大な権力をバックにしていたので池殿流平家は生き延びることができたのかもしれない?
    【六波羅殿】平清盛のこと。
    【吾身栄花】香。

  • 福原遷都を背景にした長篇。シリーズ第2作。
    不吉な夢を見た青侍の捜索、怪鳥騒ぎ、守り刀の盗難。
    頼朝との内通を疑われ、針の筵状態で捜査を行う頼盛。

    この時代ならではの習俗が動機につながっていて、時代設定に納得。大河ドラマと深夜アニメのおかげで、この時代が少し近く感じられるようになったのはありがたい。

    Web東京創元社マガジン http://www.webmysteries.jp/archives/29599980.html

  • 前に読んだ「蝶として死す」がよかったので読んでみた。
    今作も本格ミステリとして上質で満足度の高い読書ができた。歴史にくわしくなくても楽しめるように書かれていてありがたい。(ただあまりに知識がなさすぎて建物の構造を頭でイメージできなかったのが心残り)

  • 平家物語のエピソードを下敷きにした本格ミステリ。「蝶として死す」に続く第2弾は長編で、時期的には清盛による福原遷都=前作の第2話と第3話の間にあたる話。途中、事件解決の重要な手掛かりとなる当時の建築様式や服装、道具などの丁寧な説明は、まどろっこしく感じつついい勉強にもなった。終盤、頼盛の謎解きは痛快。ちょっとニンマリするラストも良かった。

  • 「蝶として死す」に続く平家一門のミステリー。
    異母兄・清盛やその息子たちから疑いや嘲笑を向けられても、扇で口元を隠して優雅にかわす頼盛。腹芸がすごいし謎解きも面白かったです。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『『吾妻鏡』にみる ここがヘンだよ!鎌倉武士』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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