- Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488024659
作品紹介・あらすじ
明治二十四年、寒さが迫りつつある十月の函館。函館水上警察署の五条文也警部は、人々の注目を集める見慣れぬ毛皮のコート姿の女に目を奪われた。函館生まれながらロシア人の養女になったという彼女の悲しい過去とは-。表題作をはじめとして、英露両国の対立が一触即発の状態までに発展する函館港の危機「聖アンドレイ十字招かれざる旗」など計四編を収録。フェンシングの名手・五条を筆頭に、函館の平穏を守るべく日夜奔走する刑事たちを活写する、明治警察物語。
感想・レビュー・書評
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2009年に『函館水上警察』が発刊されたときは、度肝を抜かれた。その前年の2008年、『高城高全集』によって、埋もれていた和製ハードボイルドの創始者が復活したことが、耳新しいばかりのエポックとして興奮冷めやらぬ時期に、高城高という幻の作家がとうとう30年ぶりの新作を発表したのだった。
そのストイックで硬質な文体と、時代背景の空気に満たされた小説世界とは、若かりし頃に書かれてきた高城文体の持続の方向を変えることなく、さらに熟成を経たものとなっており、なおかつジャーナリスト人生を送ってきた作者の眼のつけどころ、という意味でも、国際性豊かな明治の函館に着目し、実際に存在した函館水上警察を取り上げた点ではさらに驚かされる羽目になった。この作家、なんという個性であろうか。
フェンシング・プレイヤーとしての側面も持つ高城高は、作品内に剣技を取り入れることがあり、このシリーズにおいては、サーベルの帯刀を日常とし、なおかつ洋行帰りでフェンシングの指導に当たっていたという経歴の持ち主である主人公を設定し、さらに脇役たちにも、警察小説らしく、オリジナリティ豊かな人物造形を果たしている辺り、万事怠りない。
函館水上警察シリーズは、その特異性溢れるシチュエーションにより、言わば待ちのスタイルというよりは、港を警戒し、巡視船で見回り、積極果敢に事件を見つけ出し、狩ってゆく、動的なスタイルの警察小説世界となっている。当時の函館に押し寄せる海外船籍を持つ船舶群や、カムチャッカへの密漁船、さらに北海道奥地への回送船など、貿易戦争とでも言うべき経済の要衝として欠かすことのできぬ函館港の姿が、徹底して資料分析され描かれている。
それらの歴史的好奇心を説明小説としてではなく、人物たちの活写の積み重ねによって、面白くリズミカルに表現してしまうエンターテインメントな作風こそが、高城高という作家の本分なのだろうとは容易に窺える。
当時の時代背景となるエピソード群が、リアルな史実に基づくこともあるから、てっきりこれらの物語は歴史的な考証を得たものなのかと思いきや、作者あとがきによれば、これらは当時の歴史事件をひねって、函館を舞台にアレンジし直し、フィクションとして再現した作者の心に再生されたものらしい。道理で面白いはずである。しかし、それでいながら同じ時代に別の場所で起こったり起こりかけた史実の存在する事件として、根も葉もない話でもないところが実に興味深く、フィクションでありながらも活きている、時代の再建とも取れる理由となっている。
二冊で完了するシリーズ、として作者は本書を構想しており、確かにそのような作りになっている。いささか拍子抜けするほどの端的なラストシーンによって、このシリーズは急に終わりを告げるのであるが、その潔さこそが、この作家や分身である主人公の持つ、比類なきダンディズムと言うべきものなのかもしれない。
まだまだ書き続けて欲しいような、もったいなくらいの名シリーズであったと思うのだが、作者の次なるチャレンジにも期待して、ともかくも巻を置くほか、致し方あるまい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
(収録作品)ウラジオストクから来た女/聖アンドレイ十字招かれざる旗/函館氷室の暗闇/冬に散る華
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明治の函館を舞台にした水上警察署の話し。続編だったようで前作を知らないので、いまいち登場人物に思い入れができなかった。明治時代の警察官や外国の海軍の服装描写が楽しい。
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函館などを舞台とした作品です。
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途中で読むのをやめる。
どうしても始まりかたが(捜査?)分からず、文体もなじめず。 -
シリーズは今回で完結と聞いていたが、こういう終わり方か…
『函館水上警察』の続編。
明治の函館を舞台に五条警部を中心とした水上警察署の活躍を描く。
前作はハードボイルドな雰囲気だったが、今回は人物よりも函館の街じたいが主役のような感じ。
密漁船をめぐって英露の対立が一触即発の危機となるエピソードや、博徒による警察署襲撃など実際に(函館ではないが)起こった事件を取り入れて、百年前の函館の風景を見せてくれる。
地味だが味わい深い明治の警察小説。 -
明治時代の函館の醸し出す雰囲気、長身の五条文也警部のかっこよさがこの小説の魅力。