青チョークの男 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M ウ 12-2)
- 東京創元社 (2006年3月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488236038
感想・レビュー・書評
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これはなかなか評価のわかれるミステリーではないだろうか?物語としては重厚な雰囲気というよりは、理と情が醸し出す(?)フランス的アンニュイな雰囲気(!)が前面に漂っていて、自分としても途中まではミステリーとしては星4~3つかなと思ってしまいましたが、読み終えてみるととても面白かった。
ミステリー的には割と常套で、理解不能な奇怪な出来事から出発して、わくわくするような設定なのですが、それにも増して、登場人物の内面や行動を詳細に描写し、むしろそちらの方に重点が置かれているような感じがして、読んでいるこちらも先が見通せずいらいら感があったのですが、だんだん著者の描く人物像に引き込まれていきました。(笑)登場人物たちの陰のある人物背景やその思索、時にはシニカルで時には即妙な受け答え、また、ミステリー本編とは無関係な心の葛藤といった性格描写がぽんぽん盛り込まれ、これは普通の小説としても結構面白いのではないかと思います。特に、手当たり次第に人を尾行し、その人となりをファイルすることが趣味であり、週を運命?のユニットで区分している海洋学者マチルドの、かなり個性的な人物設計には仰天ものでした。(笑)
プロットは例の森ネタなのですが、ラストの解決場面もひとひねりあり、ミステリーとしても面白かったのではないかと思います。次回作も気になるところです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
表紙に恐れをなして読まずにいましたが、フランスのミステリと聞いて挑戦。人形の首だと思っても、やっぱりあの絵はショッキング…。
語れるほど知っているわけではないですが、感覚で個を主張するフランスらしさを存分に味わえました。いきなり始まる、謎の追跡をする女性と盲目の青年の会話。随所に現れる複雑な人間関係。情報に頼らず直感で真犯人を見つける警察署長なんて、日本じゃユーモアミステリじゃないとまずありえないでしょう。部下の刑事は逆に手掛かりと証拠で捜査を進めていくのですが、最終的には署長の勘が真実を導く。理屈より感性がものを言い、登場人物たちの感覚は理解できないんだけどそれぞれに正しく思える。理論は後から身に付くもので、生まれながらに備わった感覚こそが個性であり、そこにプライドを持ってるんでしょうねぇ。しかし本当にお洒落。誰と誰が寝たのかもしれない、なんて想像が全然下世話に聞こえないし、恋愛は食事と同じで生活の一部、と捉えているようです。マチルダの部屋の机も、とても維持はできないだろうけどアイディアがいいなぁと思いますし。その一方で、登場人物の変わった癖や行動につい笑ってしまうことも。
事件も度々その様相を変え、署長の気分も目まぐるしく変わり、部下たちもその影響を受けて変化する。そこはミステリとしての面白さですね。それでも振り回されてる感じがしないのは、読者にもアダムスベルグののんびり感が移ってしまうからかもしれません。 -
フランス人作家のミステリ。登場人物も起こる事件も独特なので読者を選ぶかも。ふわりととらえどころがなく感覚で事件の肝を見極めようとする警察署長アダムスベルグは来るものは拒まず去るものは追わずの人なのに、彼のもとを去っていった恋人カミーユを忘れられず、彼女のイメージに囚われている。部下のダングラールは理詰めで推理するクールな人物なのに飲んだくれで夕方からはその頭脳も役に立たない、そして別れた妻が残していった二組の双子を育てている。マチルドは著名な海洋学者で美人で資産もあるのに趣味は一般人の尾行。マチルドに拾われるシャルルは美青年でひねくれ者。そして起こる事件は、夜ごと青チョークで書かれた円の中にガラクタが置いてあるというキテレツなもの。ところがある日ガラクタではなく首を切りつけられた死体が置いてあり、、、。この独特な雰囲気が苦手でなければ楽しめます。私は面白かったです。多少まだるっこさもありましたが、事件の背景や解決の仕方も良く考えられていて面白かったです。シリーズになっているみたい。
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フランス・ミステリの女王と言われるヴァルガス。
森の妖精とあだ名されていた刑事が、パリへ!
というユニークなシリーズの始まり。
ジャン=バチスト・アダムスベルグは、ピレネー出身。岩山を走り回って育った。
突然、パリ第5区警察署長に赴任。
妖精というのは日本人がイメージするのとはちょっと違うかも知れないが。がっちりしているが小柄で、山歩きが好きで、どこか人慣れしないような、風変わりな空気感のある…
顔立ちは整ってはいないが個性的。
あたたかい声でのんびり喋る。シャツがはみ出ていたりして、服装はだらしない。
もてる方らしいが、カミーユというかっての恋人のことを今も恋い焦がれている。
警官としての勘の冴えはすごいのです。
人の言うことがほぼ予想でき、犯罪の臭いをかぎ取るので、自分はそれが苦痛なほどという。
もっと風変わりな女性海洋学者も登場。
マチルド・フォレスチエは、ふだんは仕事で海の底にいる物ばかり見つめているので、時には人間観察に繰り出し、見知らぬ人の跡を付けてまで観察し、手帳にメモをする。
カフェで会話を交わした盲目の美青年シャルル・レイエールに部屋を貸したりと、行動も変わっている。
夜の間に、パリのどこかの歩道に青いチョークで大きな円が描かれる。
朝、人々が見つけたときには、その円の中にちょっとした物がある。
クリップ、羊肉の骨、人形の頭、本、ろうそく‥
<ヴィクトール、悪運の道、夜の道>という文字も。
罪のないイタズラか?どういう選択なのか?
新聞で話題にはなりつつも、当初は本気には受け取られない。
アダムスベルグはどこか残酷な匂いを感じ、危険な奉公にエスカレートする可能性を感じる。
部下のダングラール刑事は新しい上司に戸惑いつつも次第に信頼を深めていく。
ダングラールは署長とは対照的で、知性派で長身、教養あるきちんとした服装の男性。妻に出て行かれてくたびれがちだが、子供達を可愛がっている。双子が二組に、妻が外で産んだ子までいるのだ。
夕方から飲んだくれるので、大事な仕事は昼前にしてくれと言う。
マチルドは警察に来て、青チョークの男を知っていると言う。
アダムスベルグは、彼女の身辺を探らせる。
やがて、青チョークの円の中には、死体が‥?!
青チョークの男の身元は知られるが、死体とは何の関連もなく、彼にはアリバイが。
一体、何が起きているのか‥?
風変わりで知的な、様々な要素を含んだ~いかにもフランス的なミステリ。
1990年の作品。
ヴァルガスは1957年パリ生まれ。双子なんだそうで。
中世考古学の専門家の仕事をしながら、小説も書き始める。
シングルマザーになったが、息子の父親は漫画家で、良い関係を保っている様子だそう。 -
パリの路上で青チョークで書かれた円の中にガラクタがおかれるという奇妙な出来事が続いていた。
ついには喉を切られた女性の死体が円の中に…。
警察小説ではあるものの、ひとつに事件を追いかけるだけなのストーリーは一本線。
不思議な直感を持つ警察署長とアル中の刑事という捜査陣と、盲目の青年、人の後を付けるのが好きな海洋学者などの周囲の人間の描写は相変わらずお見事。
実に生き生きとした変な人たちに仕上がっている。
事件自体もきちんと伏線を回収し、犯人も一捻りされている。
動機云々はさておき、途中でこいつだ!とは分かっちゃうけどね。
独特なエキセントリックな文章でなじむまでてこずったけれど、よくできていると思う。 -
人の性格なんかの捕らえ方がとても観念的・哲学的で面白かったです。いかにもフランスミステリですね。
でもこれが仏英などでベストセラーってことはやっぱり日本とは文化的土壌が違うのかな、と感じました。
ミステリとしての事件だけ見れば凡作。ただ、魅力はそこではなく、主人公や、研究者の女性の性格でしょうね。 -
この作家のミステリーはアメリカのものと一味違って,本当に面白い。
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良かった。面白かった。フランスの刑事もの。こういうのもっと読みたい。あれ、事件終わって犯人捕まったけど、それで終わりか。動機とかそういうのなしか。後書きにもあるが、人物が個性的で、物語を追うのもわかりやすい。事件よりも、主人公の署長の人生に重心置いてる。ずっと行方知れずの元恋人をしつこく思っていて、事件に彼女の母親が絡んでいる。刑事というよりも、まず一人の人間として生きてる。フランス人は人生のことも愛のことも深く理解している。理由を付けて逃げたりしてない。シリーズ物だが他にリリースされてるのだろうか。
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フレッド・ヴァルガスの三聖人シリーズを読んでみようと思って間違えて選んだもの。こっちはアダムスベルグものだった。まあ初読だからどっちでもいいのだが。感想はというとあまり感心しなかった。キャラが無用に饒舌で海洋学者も盲人も事件と関係なくはないのだけど引っ張りまわされる。そのくせ灯台下暗しで人の見分けもついてないという不自然さ。アダムスベルグら警察の面々も詳しく書き込まれている割には現実感がない。原著がそうなのか訳文のせいなのか。事件はあっと驚く大仕掛けトリックなのだけどかなり無理っぽいし。なんだかなという感じ。