- Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488236052
感想・レビュー・書評
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フランスの人気女性作家フレッド・ヴァルガスのユニークなミステリ。
「青チョークの男」に続くアダムスベルグ警視シリーズ。
どこか文学の香りがする、そしてロードムービーの要素もあります。
フランス南部の山間の村で、羊が狼に襲われる事件が続いた。
カナダから来ている研究者ローレンスは噛み痕から、その巨大さに驚く。
このローレンス、音楽家のカミーユと村で同棲中。
カミーユは、美しく聡明で自由な、実はアダムスベルグ警視の運命の女。
カミーユの友人の牧場主スザンヌまでが、狼に襲われる。
狼男のしわざだという噂が立ち、噂された男は遁走。
本当に狼男なのか?あるいは本人がそう思い込んでいるのか‥妙な形跡を残していく。
スザンヌが育てていた捨て子の若者ソリマンと、老羊飼いのハリバンは、男の行方を突き止めようとし、カミーユにトラックの運転を頼む。
異国の長い名前をもつ黒人青年と、一徹な老人と、小柄な美女が大型トラックを運転して山道を走る珍道中が始まった。
アダムスベルグは管轄が違うのだが、勘が働いて近くまでやって来る。
警察組織の捜査物ではなく、運命の出会いと天才的な勘で展開する物語。
推理の根拠になるようなことは、ちゃんと出ているんですけどね。
アダムスベルグは何しろ捜査方法を自分でも説明できない、ただすべてを宙に浮かべていると、ある日、真相に到達するという。
結果を出すのでパリに赴任していたが、元は山育ちの自然児だった。
カミーユとの関係などは、前作を先に読むことをオススメします。
豊かなイメージと奔流のような文章、捻った面白さを堪能しました!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アダムスベルグ警視の新刊が出たが、第2弾の本書をまだ読んでいなかった。
フランスの山村で歯形の残る羊の死骸が次々に発見され、ついには同じ歯形のついた人間の遺体も。被害者はある男を狼男だと主張していたらしいが…
前半は被害者の仇討ちをしようと狼男の後を追う男たちと、それに巻き込まれたアダムスベルクの元恋人がロードムービーを繰り広げる。アダムスベルクは後半から事件に合流するが、主要人物みんな個性的で面白く、禅問答のような会話がいい。 -
フランスの山で羊が殺される事件が多発。どうも、狼にしては歯形でかすぎ、狼男の仕業らしいわよ。
アダムスベルグ警視の冠が付いた作品だが、なかなか物語に参加してこない。ところがやっぱり、元恋人が事件にかかわっているのを知り、水面下で超動いていた。別の事件で命を狙われているのに。命より元恋人。前作では雲のような存在だったカミーユ(元恋人)が主軸の一人として話は動く。カミーユは普通だ。自分よりはるかに年上の男が自分に何も知らせず、水面下で動き回ってたら気持ち悪くてしょうがない。しかしその捜査事態は尊敬している。 -
頻発する狼による羊殺し。やがて牧場主がその牙にかかってしまう。
村に流れる狼男の噂。その正体は消えた無毛症の男なのか?
うん。ヴァルガスだった。
理屈とかなしに世界に入って楽しむべき。
前作でアダムズベルグが焦がれて止まなかった女性カミーユに主な視点がおかれ、旅の道連れの被害者の養子と老使用人のやり取りが笑いを誘う。
犯人とその動機がわかった時にタイトルの意味が改めて分かってぞくりとした。 -
Mercantour 国立公園に生息する狼の姿を撮影するため、フランスに滞在している カナダ人の Laurence は、配管工兼作曲家の 風変わりな女性、Camille と一緒に暮らしている。
牛の放牧を生業としている村人達は、常に狼の恐怖に脅えていたが、何ものかに、噛み殺された4匹の羊の死体が発見されてから、彼らの怒りは頂点に達っする。 そんな折り、Camille の親友 Suzanne が、喉笛をかみ切られて殺される。 そして、この一連の事件は、狼でなく、狼男の仕業だという、うわさが村に広まる。 Camille は、 Suzanne の敵討ちを誓った、Suzanne の養子 Soliman と、年寄りの牧童 Veilleux に請われ、彼らと共に事件の真相を解明に、乗り出す。
現在フランスでクローズアップされている、狼と放牧の共存の問題を上手く調理して、推理小説に仕立て上げたお手並みには感心。 本書でも、ヴァルガスさんの他の作品同様、一風変わっていて、とても魅力的なキャラクターが、次々と登場。 私は、特に、Suzanne が大好きになってしまい、こんな魅力的な人を殺してしまうなんて、ひどい!犯人と作者に怒りを覚えましたね。
その他、Suzanne の養子 Soliman 、Suzanne のために働いていた、老いた牧童 Veilleux なども、読んでいて楽しくなってしまう魅力的なキャラ。 ヴァルガスさんは、この手の、ちょっとおかしいけれど、心引かれるキャラクター設定&描写が、本当うまい!と、今回も、感心しました。
彼女の作品を読んでいると、殺人事件解決は、魅力的な人間を描くための単なる口実、なんじゃないかとすら、思えてきます。
純粋な推理小説としての出来には、ほんの少しですが、文句をつけたくなる所もありますが、登場人物のキャラクター設定、及び描写、話の展開の仕方等に、すぐれた作家としての才能が感じられます。
日本人作家の手による優れた推理小説を読み慣れている私には、ちょっとモノ足りなく感じる部分もありましたが、私の回のフランス人の間では、とても評判の良かった作品です。
この作品は、Festival de roman noir de Cognac(コニャック・サスペンス小説フェス) で、Grand prix(グランプリ) を獲得しています。
本レビューは、以前ブログ(http://bibliophilie.blog3.fc2.com/blog-entry-152.html)にアップした「L'homme à l'envers」のレヴューを加筆修正したものです。邦訳は未読。 -
人狼は、普段はその毛皮を身体の中に隠している。その皮膚を裏返して、男は巨大な狼に変身する。
ハリウッド製のオオカミ男とはちょっと違っているけれど、ヨーロッパの民話だとそうなる。四つ辻の十字架とか、教会の蝋燭とか、不穏な舞台装置もいい雰囲気。
フランス製だからか、ヴァルガス製だからか、あいかわらず独特の語り口が魅力。
サスペンションがふわふわのシトロエン。乗り心地は「魔法のじゅうたん」って言うんですってね。アダムスベルグ警視って、まさにそんな感じ。ちょっと別の場所に視点があるみたいな、つかみ所のなさがなんとも。彼とヒロインの会話なんて、ちょっとした禅問答のようだもの。そこがたまらないんですけどね。
(三聖人シリーズの新刊も読みたいなー)
解説の冒頭3行はいかがなものか。
物語にひたっていたいといいながら、相当な破壊力でしたよ。 -
事件そのものの真相自体は読んでればおおかた答えに辿り着けるので、あっと驚くような真相を期待しているとやや肩透かしですが、登場人物のキャラ立ちが優れていて良かったです。決しておかしいわけではないのに会話が軽妙でクスッときてしまう感じ、
特に美女と黒人青年と老羊飼いの珍道中(作中ではロード・ムーヴィーと称しているがどう考えてもそんな洒落たものではないのもまた粋)が楽しくてミステリー小説を読んでいるというのを忘れてしまっていました。 -
アダムスベルグ警視シリーズ。なんだかとても好きだなあ。
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待ち時間があったので図書館でぶらぶら。変な題名の背表紙をみつけた。
何が裏返っているのかな。男がうらがえって??どうなる?
いつものように、まず解説を読むと、これはアダムスベルグ警視が主人公のシリーズもので、前作からこの作品が出るまで首を長くして待っていたとか。
そうなのか。CWA賞を三回、その第二弾、何もかも初めてお目にかかるのだけれど面白いかも。
やはり初見ではまだ友達とはいえない見ず知らずの警視より、気になるのは表題の裏返っている男だ。これは現実か比喩か、それとも両方か。
書名で選び、受賞歴で選び、最優先で読んだ。
まず、フランスの出来事。勿論殺人事件が起きるのだが、次々に牧場の羊が襲われるところから、イタリアからアルプスを超えてきた、野生の狼の仕業ではないだろうか。
ところが傷跡から並みの大きさの狼ではないらしい。
そこで、狼男の話になる、体に毛の無い男、人付き合いを嫌って山にすんでいる白くて毛の無いマサールだ。
そう決め付けた牧場主のシュザンヌが殺された。姿を消したマサールが怪しい。
彼の皮膚には裏がえすと狼の毛が生えているに違いない。
狼男の話はこうして始まる。
テレビでこのニュースを見たアダムスベルグ警部は、映っている木陰の後姿はかっての恋人カミーユではないだろうか。テレビににじり寄って確かめるがはっきりしない。
カミーユはそこにいた。カナダ人でグリズリー研究家、今は狼について調べている恋人と一緒に。
彼女は作曲家で、修理工。工具をバッグに詰めてめて出かけていく。死んだ友達のシュザンヌに頼まれトイレの配管を直したりする。最後のボルトを閉めるまでそこを動かない、読んでいてちょっとウフフとなる。
羊は次々に殺され、マサールは依然見つからない。
マサールの小屋から見つかった地図に羊が襲われた地点にしるしがあった。家畜運搬車を改造して後を追う。先回りして羊殺しを未然に防ぐこと。
運転はカミーユ、同乗は殺されたシュザンヌの養子と老羊飼い。
しかし敵もさるものなかなか尻尾が掴めず、ついに警部の登場となる。特異な感覚と推理で活躍する警部が到着して事件が解決に向かう。
羊が殺されたり殺人もあったり、残虐なシーンも多いが、作風としては落ち着いた描写で読みやすい。会話は機智に富んで面白い。
良質な作品だ。
初めて読んでみると、警部の登場まで、そしてカミーユたちの車が走り出すまでは、あまり変化を感じない。
だが三人の追跡行が始まると実に興味深く面白い、これが本領か。
まだ馴染みがないだけに、話に没頭して一気に読むというところまで行かなかった。
裏返しの男には曰くがあり、巧い具合に納得できる。
警部が命を狙われていたり、恋しいカミーユが思い切れなかったり、スパイスもちょっと効いていて、これならファンもいるだろうと思った。
シュザンヌが黒人の赤ちゃんを見つけて抱き上げ息子にすると宣言するところ、女性作家ならではの情感があふれ、赤子の様子もとてもかわいい。
ちょっと時間はかかったが、風邪で休養中にはこのくらいの刺激がちょうどいいかもしれない。
機会があれば一作目も読んでみたいと思う。 -
決してハデじゃない佳作、このシリーズいい味だしてるわー。
前作『青チョークの男』では名前だけだった主人公アダムスベルグの元カノ、カミーユが登場、本作ではほぼ主人公の座に座る。
またしても田舎が舞台、カミーユ他2名は動物運搬トラックで犯人を追う。
獣臭いロードミステリー。
ミクロな作り込みがすばらしい。
臭いを想像させたり口癖を繰り返したりすることによって、光景を感じ、人となりが見える。
アダムスベルグに親近感覚える……。アダムスベルグの直感についてもうちょっと何か書いてくれると。
変人を排除しないですべて包み込む暖かさは、フランスらしさかな。