サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488424213

作品紹介・あらすじ

ホームレスを強制退去させた公園の治安を守るため、ボランティアで見回り隊が結成された。ある夜、見回りをしていた吉森は、公園にいた迷惑な客たちを追いだす。ところが翌朝、そのうちのひとりが死体で発見された! 事件が気になる吉森に、公園で出会った昆虫好きのとぼけた青年・?沢(えりさわ)が、真相を解き明かす。観光地化に失敗した高原での密かな計画、街はずれのバーでの何気ないやりとりが引金となる悲劇……。5つの事件の構図は、?沢の名推理で鮮やかに反転する。第10回ミステリーズ!新人賞を受賞した表題作を含む、軽快な筆致で描く連作集。

感想・レビュー・書評

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  •  昆虫好きの青年が旅先で遭遇する事件の謎を解く連作短編ミステリー。シリーズ1作目。
             ◇
     吉森は定年退職後、ボランティアでドングリ公園の見回り隊員をしている。
     ドングリ公園は街の憩いの場だが、かつて複数のホームレスが住みつき、強制退去させるのに難儀したことから結成されたのが見回り隊である。

     通常2人で見回るのだが、相方の都合が急に悪くなったため今夜は吉森だけ。こんなときに限っておかしな人間に遭遇する。
     まさにラブシーンを展開せんとしている中年男と若い女のカップル。声をかけると男が声を荒げてきたので低姿勢でお帰り願った。

     ホッとしたのも束の間。今度は外灯近くでテントのようなものを設置しようとしている若い男を見かけた。
     新手のホームレスかと危惧しながら吉森が声掛けして注意したところ、男はまったく悪びれたところなくカブト虫を捕獲しに来たと言い……。
    ( 第1話「サーチライトと誘蛾灯」第10回ミステリーズ! 新人賞受賞作 ) 全5話。

         * * * * *

     うーん。ジャンルとしてはライトミステリーではあるのだけれど、全話で人が死んでいる。事件はなかなか深刻です。
     なのに重い話に感じないのは、櫻田さんのタッチがそうであるのはもちろんなのですが、やはり事件の謎を解く探偵役の魞沢泉のクセ者加減が大きいと思います。

     トボけた雰囲気を持ち、昆虫のことしか考えていないような言動をとる魞沢に対して、相手をする人間はみな一様に気を緩めますが、気づくとすでに懐に入られているのです。

     そして、自ら見聞きした事件当時の状況を分析した魞沢が披露する、無理のない推理と解き明かされる事件の謎には説得力があります。まさに名探偵と言って差し支えないでしょう。
     けれど、そのキャラの扱い方が難しいのかもしれないと思いました。

     ミステリーズ新人賞に輝いた第1話のトボけ感。魞沢と吉森のボケとツッコミがユルい雰囲気を醸し出しています。東川篤哉作品に近い感じのコミカルさ。
     そのせいか、魞沢がきちんと謎解きするのだけれど、最後まで緊張感がなく締まりもないように感じました。

     舞台を東北地方の高原に移した第2話の「ホバリング・バタフライ」は、終盤に緊迫した場面があるものの魞沢の活躍が控えめで、若い女性の死にしても高原を管理する NPO 法人の不法投棄にしてもきちんと片がつきませんでした。物足りなさが残ります。

     おもしろかったのは郊外のバーを舞台にした第3話「ナナフシの夜」です。
     魞沢は酔っ払いつつも、常連客の言動からその関係性を推測。翌未明に起こる殺人事件の要因を見抜くというよくできたミステリーでした。色盲の特性やナナフシの擬態など伏線も見事。こんな作品は大好きです。

     残り2話は少し落ち着きが出てきて、ミステリーらしい出来栄えになっています。

     短編を重ねるに連れ、魅力の中心である魞沢の扱いがこなれてきたように思いました。
     ただ欲を言えば、魞沢の昆虫オタクとしての知識をもっと活かして欲しかったというのが正直なところです。
     コンセプトが違うのはわかっているけれど、どうしても赤堀涼子と比較してしまうので、そんな贅沢なことを思ってしまいました。

  • 本屋に立ち寄った際、表紙のレトロな感じが気になり手に取った作品。
    主人公、魞沢が行く先々で出くわす事件の数々。
    短編集のため読みやすかったのもありますが、
    なんといってもこの全体的な雰囲気?(上手く伝わらない)が堪らなかったです。
    事件が起きて、それに対して魞沢が飄々と解決していく。だけなのですが、
    時折見せる魞沢の感情が読んでいてグッとくるものがありました。
    ミステリーならではの面白さもあり、
    続編もあるということで続けて読んでいきたいと思います。

  • 少し前に「蝉かえる」の新聞広告に惹かれて読んでみようと思ったが、調べてみると前作があることが分かり、皆さんの★もまずまずだったので、こちらから読むことにした。
    こどもの日に自分で入れたスケジュールを呪いながら出張の電車の中でサクサクと読了。

    昆虫オタクの青年・魞沢泉(エリサワ セン)が遭遇する不思議な事件の顛末が5つ。どの話もレトロ感が漂い、最後の話には100年くらい前の洋物の雰囲気を感じる。
    あとがきに作者自ら『ふざけた文章を書くことに自信があった』と書かれるように、漫才でも見ているようなノリ突っ込みのやり取りに脱力しつつ、ヒントはしっかり撒かれてあって、そのとぼけた文章に対比して、なされる推理の律義さと登場人物の誰かにちょっとした心の澱を残してしまう結末が面白い。

    作者が『意識した』と語る「亜愛一郎」や、そのキャラクターの基本形となった「ブラウン神父」を読んだことがないのが残念。

  • 昆虫マニアの魞沢泉が事件の謎を解くミステリー
    「ナナフシの夜」バー・ミステリー。ちょっとした悪戯が殺人を引き起こす。
    「アドベントの繭」両親を失った中学生の身の上が心配。
    この二話、重すぎるテーマをユーモアで包む。

  • 30代の昆虫オタク魞沢泉(えりさわせん)。掴みどころがなく飄々とした人物で、人の話を聞いていないようで本質を見抜いていたり、感情に乏しいようで熱いところもある。もし自分の身近にいたら、なんとも憎めない気になる存在であることは間違いない。そんな魞沢が真相を解き明かす短編5編。サクッと読みやすいがなかなかに余韻を残す深さもあり、シリアスになり過ぎないやり取りと奥深い事情などのギャップが心に残る。

    「サーチライトと誘蛾灯」
    最初からクスッと笑ってしまうやり取りが繰り返され、魞沢という人物を想像しながら読み進める。事件の真相が明かされるまでに色々と事情も分かってくるのだが、ある人物の最後の感情には事件解決だけではない余韻を残す終わりが良い。

    「ホバリング・バタフライ」
    こちらも「サーチライト~」と同様の余韻を残し、きっとこの人物もこの先この感情をずっと心に抱いたまま生きていくのだと思うと、やり切れない気持ちになる。

    「ナナフシの夜」
    ここに描かれる愛憎の感情は短編ではなんだか物足りなく、中編くらいでもっと深い部分まで読んでみたいと思う内容だった。

    「火事と標本」
    魞沢のキャラクターとしては他の短編よりやや薄いのだが、ここで語られる数十年の絆や悲哀は心に残る。これも中編や長編で読んでみたいと思わせる内容で、涙なくして読めなかったかもしれない。

    「アドベントの繭」
    苦悩と希望は常にひと揃いであり決心することで未来が拓けるように思えるが、それが絶たれた時にもまた未来を向くことができるのか。そんなことを感じながら読み進めた。

    次作も楽しみだ。

  • 事件が起こるとき、なぜか虫好きで頓珍漢な受け答えをする男・魞沢泉がいる。

    第10回ミステリーズ! 新人賞受賞作を含む、連作短編集。

    おもしろかった。

    ふらっと紛れ込んだ変わり者、という立ち位置。
    コミカルな雰囲気。

    泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズに通じるものがあると思ったら、やはり意識しているのだそう。

    魞沢の変人ぶりがおもしろく、たのしい作品。

    続編があるようなので、そちらも読んでみたい。

  •  泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズを好きになりキャッキャしていたら、ブク友さんたちから、櫻田智也さんの小説に登場するエリ沢泉(エリは魚篇に入)は「令和の愛一郎」と評されているということを教えていただいて、本書を知った。ありがとうございます!

     読み始めてまず、大人しいのに面白い文章が私の好みにどんぴしゃだなと感じ、嬉しくなった。そして主人公のエリ沢氏は、とぼけた会話と鈍臭い振る舞い、でも妙なところでしつこさや大胆さも見せ、根の素直さ謙虚さのためか結局は愛されキャラ、そんなところは確かに愛一郎。もちろん鋭い観察眼で真実を見抜くところも。
     愛一郎以外にも、ホームズ、ブラウン神父、クリスティを意識したのでは?と思われる箇所もいくつかあり、ミステリー愛が感じられる。こういう仕掛けは別に珍しくはないけれど、やっぱり嬉しいものだ。
     五つの短編を通して読んでみて一番の魅力だなあと思ったのは、作品全体に滲み出ている優しさ。殺人は起こるし、人間の弱さや愚かさは、読んでいて辛くなるほどしっかり描かれているけれど、誰もが(犯人だけとは限らない)持つそんな弱さに寄り添うように推理するエリ沢さんの眼差しこそが、もしかしたら「説教」しちゃうブラウン神父よりもずっと、令和の私たちにとってリアルな救い(のヒント)をもたらしてくれているのかもしれない。

     と、そんな風にしみじみしたところであとがきを読むと、アワツマファンにはさらに嬉しい素敵エピソードが!

    ※追記:うっかり文庫版で登録してしまいましたが、読んだのは二〇一七年刊行の単行本です。失礼しました。

    • たださん
      akikobbさん、おはようございます。

      さっそく、読んで下さったのですね♪
      素敵なレビューを、ありがとうございます(^_^)

      弱さに寄...
      akikobbさん、おはようございます。

      さっそく、読んで下さったのですね♪
      素敵なレビューを、ありがとうございます(^_^)

      弱さに寄り添う愛されキャラ、魞沢くんに、櫻田さんのミステリー愛(アワツマ愛)と、作品全体に滲み出ている優しさと、本書の魅力をこれでもかと、再実感させていただきました。

      おそらく、こうした印象を抱かれるのは、櫻田さんにとって、東日本大震災が一つのきっかけであり、失われたものを、今一度甦らせたい思いがあったそうで、魞沢くんの優しさをもった探偵が生まれたのも納得させられる、櫻田さんのお人柄が窺えるエピソードだと思い、ファンになりました。

      ちなみに、私は単行本で読んだので、文庫本のあとがきは、また違う内容なのでしょうね。
      アワツマファンには嬉しいエピソード、気になります(ひとつ心当たりはありますがね)。
      これは文庫本も読まないと。
      2022/11/07
    • akikobbさん
      たださん、コメントありがとうございます。

      「さっそく」といえるかわかりませんが、読みました〜
      まずすみません、書誌情報間違えました…私の読...
      たださん、コメントありがとうございます。

      「さっそく」といえるかわかりませんが、読みました〜
      まずすみません、書誌情報間違えました…私の読んだのも単行本です。なので文庫版のあとがきの内容を知らないのは私も同じです。
      が、確かにあとがきだけでも読みにいきたくなるような、素敵な作家さんですよね。
      ホームレス、謂れのない差別を受ける貧困母子家庭、家族を亡くした人、など、目を向ける先はいつも弱き人で、最後の短編がキリスト教ものだったこともあり、なんだか聖書を読んだかのような感覚が残りました。
      それでいておかしみもあるところが、さすが泡坂妻夫ファン!と拍手を送りたくなります。(デイリーポータルZの元ライター、という作者の経歴も見逃せませんが)
      2022/11/07
    • たださん
      akikobbさん、お返事ありがとうございます♪

      そうだったのですね。
      道理で心当たりがあると思いました(笑)
      ということは、あのエピソー...
      akikobbさん、お返事ありがとうございます♪

      そうだったのですね。
      道理で心当たりがあると思いました(笑)
      ということは、あのエピソードですか。確かに、ファンには嬉しいし、読んでる側も幸せな気持ちにさせられますよね。

      聖書を読んだかのような感覚に、思わず、はっとさせられるものがありました。
      是非、続編の「蝉かえる」も読んでみて下さい。きっと、何か感じ取れるものがあると思いますので(^_^)
      2022/11/07
  • めちゃくちゃ面白かった。
    魞沢のキャラ良すぎです。
    読みながら声出して笑ってしまったわ。

    とぼけた感じ、短編、軽く読めるけど、全体的に哀愁漂う小説。

    私は好きです。

  • いやー、良かった!超好みの一冊でした!
    デビュー作でもある表題作を含む5作の短編集。主人公は同じだから連作といえば連作ですが、各話が全て繋がってる連作短編ではないのに凄い!
    巧みな短編ばかりで私は落語みたいって思った。
    とにかく気持ちいい!

    派手じゃない、けど私には至高でした!
    シリーズ最新作も早く読みたい!

  • 事件の現場付近でちょろちょろする謎の虫好き男性、エリサワ。
    挙動は怪しいが話していくうちに解き明かされていく事件たち。

    ホームレスを撤去させた公園の死体
    アマクナイ高原の管理団体への疑惑
    バーナナフシの常連に起きた悲劇
    旅館の亭主の小学生時代の悲しい思い出
    牧師の死

    なんかこれ、亜愛一郎だなあ、と読んでいたら、あとがきで意識して書いたとのこと。
    エリサワはすっとぼけているけれど、どのお話も皮肉で切ない。
    分厚い雲の下を歩いているようなそんな余韻。



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著者プロフィール

1977年北海道生まれ。埼玉大学大学院修士課程修了。2013年「サーチライトと誘蛾灯」で第10回ミステリーズ!新人賞を受賞。17年、受賞作を表題作にした連作短編集でデビュー。18年、同書収録の「火事と標本」が第71回日本推理作家協会賞候補になった。21年、『蝉かえる』で第74回日本推理作家協会賞と第21回本格ミステリ大賞を受賞。

「2023年 『蝉かえる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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