アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
4.18
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本棚登録 : 445
感想 : 38
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  • Amazon.co.jp ・本 (422ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488428129

作品紹介・あらすじ

児童養護施設・七海学園に勤めて三年目の保育士・北沢春菜は、仕事に追われながらも、学園の日常に起きる不可思議な事件の解明に励んでいる。そんな慌ただしい日々に、学園の少年少女が通う高校の文化祭の日に起きた、校舎屋上からの転落事件が影を落とす。これは単なる「不慮の事故」なのか? だが、この件に先立つ春から晩秋にかけて春菜が奔走した、学園の子どもたちに関わる四つの事件に、意外な真相に繋がる重要な手掛かりが隠されていた。鮎川哲也賞受賞作『七つの海を照らす星』に続く、清新な本格ミステリ、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 前回の『七つの海を照らす星』の続編的作品。
    文化祭で起きた転落事故が縦軸となり、季節毎に起きた七海学園での事件と交錯しながら物語が進んでいく。
    母子家庭や施設内暴力など様々な問題を抱えた硬派な所と、本格ミステリーが融合していてとても面白かったです。硬派な中にある、海王さんの優しさが響いてとても良いコントラストだと思いました。
    そして、縦軸の事件の真相には度肝を抜いたなぁと。
    語り部が春菜では無く友達の佳音だったのは本当に驚いた。一人称が「わたし」で統一されているせいか、全く違和感を感じなかったです。
    前回の読書から長い時間が経ってしまったので真相がわかった瞬間はあまり驚きを感じることが出来ずスゴく悔しかったです。
    今度は、2作連続で時間を空けて読んでいきたいです。

    この作品をアニメ化した際の声優陣を自分なりのキャスティングしてみたので読む際に参考にしてください(敬称略)。
    北沢春菜:花澤香菜
    田後佐奈加:黒沢ともよ
    鷺宮瞭:鬼頭明里
    海王:安元洋貴
    一ノ瀬界:種崎敦美
    高村駆:石川界人
    松平士朗:日野聡
    芦田将:山下大輝
    西野香澄美:伊瀬茉莉也
    野中佳音:茅野愛衣

  • 児童養護施設・七海学園が舞台の続編。4つの短編を含みつつ、高校屋上からの墜落事件を追う長編となっています。
    初読時と同じく、「ある一行」に衝撃。
    超激推しの傑作ミステリです!

    初読は10年以上前、図書館本で読み、今回文庫版を買って読みました。
    あくまで個人体験として、「十角館の殺人」以上の衝撃で(読んだ順番や年齢にもよると思います)、オールタイム日本ミステリベストを選ぶなら、絶対に入れます。

  • 近所の図書館になく、見つけたときは嬉しくていっきに読んだ。
    いつも推理しながら読むのだが、冬の章の校舎や階段の位置関係が何度読んでもわからず、ドアの音の推理などを放棄せざる終えなくて、本当に悔しかった。見取図が欲しかった。
    カフェと望ちゃんの事件はわかった。
    夏の章は途中でなるほど〜となった。
    冬の章では、違和感が何箇所も気になり、親友が怪しいとずっと思っていたので、入れ替わりにはあまり驚かなかった。でも、まさか落ちたのが春菜さんだとは思わず、びっくりした!冬の章だけ読み直した。
    児童養護施設の話だったので、どの子の話も辛くなった。リアリティあり。本当にこんな良い施設がいっぱいあれば良いなと思う。

  • 春夏秋の出来事も一つ一つが濃厚かつ爽やかな後味で、しかも冬に繋がる伏線もあり一冊で何度も美味しい。夏の事件が特に好き。施設ごとに対立してるのが少し寂しいと感じていたので、短期間でも一緒にいた仲間のための演出だと分かってグッときた。兄より先に少し大人になったウランちゃんのこれからを見てみたい。初秋のエリカの不器用な優しさもいじらしくて好き。
    冬の章になんとなく違和感があったので、どんでん返しの驚きよりは「ああそうだったのか」という納得が強かった。「死ぬ資格なんかない、生き続けなさい」という罰はとても厳しく残酷で、それでいて優しさに溢れている。

  • 総合評価 ★★★★★
     前作,「七つの海を照らす星」を読んでから読んでほしい逸品。「七つの星を照らす星」を読まずに,この作品から読んでも十分楽しめるが,最後の衝撃は★2つほど下がってしまうだろう。この作品のキモは,メインとなる物語の語り手である「私」が前作「七つの海を照らす星」の語り手であった「北沢春菜」ではなく,北沢春菜友人の「野中佳音」であるという叙述トリックが使われている点である。そして,七海西高校の屋上から転落して意識不明の重体となっている女性が「鷺宮瞭」ではなく「北沢春菜」なのである。屋上から墜落した女性を「鷺宮瞭」だと誤信させる叙述トリックが仕掛けられている。確かに,読んでいる途中で「何かおかしい」と感じる部分がある。結構あからさまにメインの物語の語り手が「北沢春奈」ではないと感じさせる伏線が張られている。しかし,七海西高校の屋上から墜落したのが「北沢春奈」で,その犯人が「鷺宮瞭」かどうかを「野中佳音」が探っている話とまで見抜くことは容易ではない。春の章,夏の章,秋の章 冬の章として描かれる作品の語り手は「北沢春奈」。前作「七つの海を照らす星」の語り手も「北沢春奈」であり,仮に語り手が「北沢春奈」でなかったとしても,まさか屋上から墜落して意識不明の重体となっているのが「北沢春奈」とはなかなか思えない。可能性から無意識のうちに削除してしまう。しかし,あとでそう分かってから読むと,十分な伏線が張られているのに気付く。人間が書けているからこそ存在する本当の驚きがある。もっとも,「驚かす」ための技術を駆使していないとここまでの「どんでんがえし」は演出できない。ミステリ作家としての実力も非常に高い。春の章から冬の章までの作品のデキも及第点以上。総合的に見て,控えめに言っても傑作。文句なしに★5を付けることができる作品。こういう作品を年に1回くらいは読みたいものだ。
     
    サプライズ ★★★★★
     語り手が野中佳音であることもサプライズだが,屋上から落ちて意識不明の重体となっているのが北沢春奈だと分かったときの衝撃が凄すぎる。ただ,驚かそうとして書かれている作品ではないのに,この衝撃。もちろん,驚かそうと思って書かれているのは間違いないのだが,見事に全てが上手くはまっている。伏線も十二分に張られており,納得のサプライズ。文句なしに★5

    熱中度   ★★★☆☆
     熱中度はそれほどでもない。春の章,夏の章,初秋の章,晩秋の章といった個々の短編のデキは十分面白い。しかし,「七つの海を照らす星」に収録されていた短編同様,いずれもよくできた作品であり,先が気になって読むのをやめられない,という作品でない。むしろ,じっくり楽しみたい作品といえる。そういった作品と冬の章という核となる作品を関連付け,個々の短編に冬の章で捜査をしているのが北沢春奈ではなく野中佳音であり,屋上から墜落したのが鷺宮瞭ではなく北沢春奈であるということが分かる伏線をちりばめているという構成が見事という作品である。熱中度としては★3で。

    インパクト ★★★★☆
     最後の最後でそれまで読み,頭の中で思い描いていた構造が一変する構成は見事としかいいようがない。このどんでん返しは相当なインパクトがある。残念なのは冬の章のどんでん返しのインパクトが強すぎて個々の短編のインパクトが落ちてしまうことか。個々の短編も十分楽しめるデキなので,その点が惜しい。ここの短編が持つ雰囲気と冬の章のどんでん返しのギャップが魅力なのだが,そのせいで冬の章しか頭に残らない。インパクトは★4か。  

    キャラクター★★★★★
     北沢春奈だけでなく,冬の章の語り手である野中佳音の考えていることが分かるという構成が面白い。北沢春奈は非常に魅力的なキャラクターであるが,野中佳音も負けないくらい魅力的なキャラクターである。ただ,野中佳音を北沢春奈と誤信させる叙述トリックを使っており,非常に効果的であることから,野中佳音の心中はそこまで掘り下げられていない。北沢春奈から見た野中佳音と冬の章の野中佳音の心の中は相当ギャップがあり,そのギャップが意外性につながっている。それは北沢春奈から見た章での野中佳音が完全なモブキャラとなっているということにつながる。そういった意味では★5までは付けにくい。★4か。
     
    読後感   ★★☆☆☆
     北沢春奈が屋上から墜落しており,意識不明の重体であるという展開は,どうやっても読後感がよくならない。北沢春奈が意識を取り戻すだろうという描写がされているが,結局この作品では意識は戻らない。七海学園の生徒が北沢春奈を慕っている点が書かれるほど,この点がつらくなる。人間が書けているだけに読後感にはうら寂しさがあるということだろう。結構読後感はつらい,物寂しい作品である。その分心に残るということでもあるのだが。★2で。 

    希少価値  ★☆☆☆☆
     傑作であり,ネットなどでも評価が高い。あまり売れている様子がないのが残念だが,大きな本屋では間違いなく置いてある。ただし,七つの海を照らす星が置いていないことも多い。この作品は七つの海を照らす星を読んでから読んでほしいのだが。将来的には隠れた名作といった位置付けになってしまうかもしれないが,創元推理文庫に入っているので,これだけの作品であれば細々とながら手に入るだろう。希少価値は付かないと思う。★1で。

    メモ
    〇「北沢春奈です」と答えるとああ,とあちらも納得した顔で手近なソファに案内してくれた。
    →「北沢春奈です」は名前ではなく,事案の対象として「北沢春奈の件です」の意味。あとで読むと納得がいく。見事な書き方
    〇 表現に抵抗はあったが,ええ,とうなずく。
    →野中佳音は臨時で教えているだけで勤めてすらいないので,「先生」という表現に抵抗があるのは納得。これは北沢春奈が主体でも違和感がないのが上手い。
    〇 去年は,七海学園の子どもたちをめぐるたくさんの小さな事件があった。その多くに私と海王さん,そして私の親友が深く関わっていた。
    →私と私の親友のどちらが「北沢春奈」で「野中佳音」でも意味が通じる。見事な叙述トリック
    〇 「瞭さんが屋上にいるのを見た」という茜の話。最初は「瞭のほかに誰が屋上にいたのか」を「北沢春奈」が探している話かと思うのだが,真相は「瞭のほかに北沢春奈を殺害できる人物が屋上にいたのか」を探す野中佳音の話だったことが分かる。
    〇 高村くんとの関係。北沢春奈だけでなく野中佳音も高村と旧知の仲だった。これも綺麗なミスリードとなっている。
    〇 「そういえば前にも北沢にCDのこと訊かれたな」,「そうか,そういえばそうだったよね。」結構微妙な伏線。「前にも」は「北沢」ではなく「CDのことを訊かれたという点にかかっている。」「そうか,そういえばそうだったよね」は,北沢の答えとしては違和感がある。伏線として違和感を感じることができる点
    〇 「ショーヘイ」として短編に出てくる少年が「松平士朗」であることが分かる。これもちょっとした叙述トリック
    〇 「つい1ヶ月ほど前,晩秋の激しい雨が降った夜に起きた事件のことを,その時の海王さんの厳しい言葉を,思い出しながら,私はそう考えた」という一文。これも「誰に対することば」がはっきり書いていないので,北沢春奈の言葉とも,野中佳音の言葉ともとれる。
    〇 茜は文化祭の日,眼鏡ではなくコンタクトだった。しかし,「冬の章」の主体の人物は茜がコンタクトをしていることを知らない。この点も「冬の章」の主体が北沢春奈ではないという伏線となっている。
    〇 冬の章のミスディレクションその1。西野香澄美。西野は女性しか愛せず,織裳や鷺宮を好きだった。鷺宮に拒否された西野は鷺宮にヴァーミリオン・サンズというカフェを利用した売春を教える。しかし,香澄美は高所恐怖症であり,犯人(ここでは一見鷺宮瞭を突き落とした犯人に思える。)ではない。
    〇 冬の章のミスディレクションその2。茜。茜が眼鏡をかけていなくて,瞭が屋上にいることを知っていたのは茜も屋上にいたから。茜が瞭を突き落とした犯人なのか(この段階では瞭を突き落とした犯人を捜しているように読める。)。しかし,茜はコンタクトをしている。そのことは北沢春奈は当然知っている。しかし,野中佳音は知らなかった。ここで直接,茜に確認する。
    〇 冬の章のミスディレクションその3。高村。高村は文化祭の日,七海西高校に来ていた。高村と北沢春奈とのサッカー大会での再会は偶然ではなく,高村が仕組んだことだった。屋上は西校舎以外にはいない。屋上からテニスボールを当てて鷺宮瞭を突き落とすといった(ちょっとバカミスチックな)トリックは成立しない。
    〇 結局,鷺宮瞭を突き落とすことができる人はいなかった。ここで真相が明かされる。鷺宮瞭が屋上にいたことは分かっていた。突き落とされたのは北沢春奈だった。野中佳音は,鷺宮瞭以外の人物が犯人でないことを願って別の人物が犯人でないかを探っていたのだ。
    〇 春の章
     母親に殺されそうになったと思っている一ノ瀬界という少年の話。母親は自分自身が小さい頃にいてよい思い出のある「七海学園」に界を入所させるために,あえて住居不定になった上で,飛び地である灯台のある当たり界を突き落としたという話。伏線としては茜がコンタクトをしていること,野中佳音がハイキングに行っていたことなどが描かれる。話としては一ノ瀬界の母「真知」という女性の話が心に残る。ミステリとしての面白さはそれほどでもないが,なかなかインパクトのある話。★3で。
    〇 夏の章
     城青学園の生徒がサッカーの試合で会場から姿を消す話。ミステリとしてのトリックも上々で,そもそも延長選で試合をしていたのが城青学園ではなく女子の選抜チームだったというオチ。いくらなんでも延長選で男子チームが女子チームに代わっていたら気付くだろうとも思うが,話としては面白い。ミステリの古典,ホームズやチェスタトンにありそうな話。★3で。伏線として,高村駆と再会する。高村駆と北沢春奈が高校時代の同級生であったことが書かれているが,高村駆と野中佳音が面識があることもそれとなく描かれている。ヴァーミリアン・サンズというカフェが登場
    〇 初秋の章
     鷺宮瞭が偶然出会ったモーリと呼ばれる織裳莉央という女子高生からCD-Rをもらう。しかし,再生できない。また,樹里亜という七海学園の新入生が転校前にもらった寄せ書きが無くなる。犯人はエリカという少女だった。寄せ書きは縦読みで樹里亜に対する悪口が書かれていた。過去に同様の手紙をもらったことがあるエリカが気付き,樹里亜が気付く前に隠し,処分した。鷺宮瞭がもらったCD-Rは表と裏が逆になっており,表面だと思われる方にデータが入っていた。日常の謎的なミステリ。二つの小さな謎が描かれる。チェスタトン風の謎解き。話はテンポよく進み読みやすいが謎としては平均点程度。★3で。
    〇 晩秋の章
     望という少女が七海学園に預けられる。刑務所に入っていた望の父が出所し,望を連れ戻そうとする話。望の父は宅配屋を装って侵入するが,そこに,娘に会わせろとすごむ酒に酔った別の男がいた。その男は職員の小泉の父親だったというオチ。小泉の父親を望の父親と思わせる叙述トリックが使われている。ちょい役で出ていた小泉の父が登場するという展開はちょっとしたサプライズ。宅配屋が望の父だったというオチもうまい。4つの短編の中ではこれが秀逸。★4で。ここでは「あなたは子どもたちのことを思うばかりにだんだん危険を顧みなくなっていませんか」という海王さんの言葉が伏線になっている。

  • 大オチには騙されたが、冬の章だけ読み直すとかなりアンフェアな気が。
    名前の言い切り(冬の章Iの「北沢春菜です」とか)や、瞭の話をしている最中にあえて主語を省略していてその主語が春菜だとか、瞭が誰かに恨まれてなかったかを聞くところとか(春菜が恨まれていなかったかはなぜ聞かないのか)、瞭が屋上で誰と話していたのかわかってないとか(状況から見て春菜と話していた蓋然性が限りなく高いが、なぜその検証はしないのか)。

  • 「七つの海を照らす星」が素晴らしい作品でしたので、続編も気になり手に取った本書。
    最終章でのあの1行で、まさか叙述トリックによるどんでん返しが使われていたとは思わず驚愕しました。この本に出会えた事に感謝を。

  • 最終章、そうきたかーと声が出ました。
    途中まで構成や文体になかなか馴染めず、少し停滞していた時もありましたが、中盤からは惹き込まれて楽しめました。続編期待します。3.5

  • 前作(7つの〜)から連続して読みました。評判良かったので期待してましたが…完全にやられました!このどんでん返しは、自分の中では、『葉桜の〜』、『イニシエーション〜』並の衝撃でした。しかも、まさかの主人公の勘違いというあり得ない結末。それも、あまりいい方向ではないはずなのに、何故か読後感は悪くない。あとがきにもありますが、これは前作から読むとその衝撃度が倍増すること間違いなしですね。でも、面白い!作者の緻密さに完敗です。

  • まあ分かるんだが

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