- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488481216
作品紹介・あらすじ
慶応三年、新政府と旧幕府の対立に揺れる幕末の京都で、若き尾張藩士・鹿野師光は一人の男と邂逅する。名は江藤新平――後に初代司法卿となり、近代日本の司法制度の礎を築く人物である。二人の前には、時代の転換点ゆえに起きる事件が次々に待ち受ける。維新志士の怪死、密室状況で発見される刺殺体、処刑直前に毒殺された囚人――動乱の陰で生まれた不可解な謎から、論理の糸は名もなき人々の悲哀を手繰り寄せる。破格の評価をもって迎えられた第十二回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む、連作時代本格推理。第十九回本格ミステリ大賞受賞。
感想・レビュー・書評
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20代らしからぬ文章にちょっとびっくり。考証がしっかりしていて虚実の織り交ぜ方は巧み、謎解きのツボも得ている。幕末維新期ならではのホワイダニットがなかなかのものだった。傲岸不遜な江藤新平が探偵役というのもユニークで面白い。デビュー作が本格ミステリ大賞。前日譚となる2作目の「雨と短銃」も読んでみたくなった。
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まさに堂々たる歴史本格ミステリ! という連作短編集でした。
舞台となる時代は、幕末から明治という日本の激動期。維新の志士の密室殺人から始まり、明治の日本の雰囲気を湛えた、風格あふれる短編がその後も続いていきます。
史実やこの時代ならではの設定、そして人間感情を巧みに織り込みつつも、一方で本格ミステリとしての論理もおろそかにしない。本格ミステリの楽しみどころ王道は、だれが犯人か?のフーダニットと、どうやって犯行におよんだかのハウダニットだと思うけど、
この小説ではそれに加え、この時代ならではの人の感情の機微や史実を織り込んだホワイダニットが、ミステリとしても、そして小説としても、話を深化させていきます。
そして犯人当てだけでなく、倒叙ものであったり、探偵が陥れられるパターンであったりと、パターンの多さも、作者である伊吹亜門さんの実力の確かさを裏付けしていると思います。どのパターンもいずれもスキがないと感じました。
ミステリとしての完成度はもちろんのことだけど、幕末、明治と日本の激動期の雰囲気を感じさせる筆力も素晴らしかった。時代の雰囲気の描き方や文体が相まって、新人賞受賞作を含むデビュー作と思えない雰囲気や、オーラをまとった作品だと思います。
そして探偵役となる江藤新平と、ワトソン役となる鹿野師光の関係性の変化も見ものだったと思います。抜群の名コンビとして物語全編で活躍するのかと思いきや、お互いの正義の価値観のズレから、徐々にすれ違いが生じ袂を分かつにいたり、そして…
特殊設定ならではのミステリというのは、他にもいろいろ作品はあると思いますが、幕末、明治という実際にあった時代を特殊設定として活用することで、本格ミステリのパズラー的部分に深みが増し、独自の輝きを放つ作品だと思いました。
今後もミステリー系の作品はもちろんだけど、個人的にはミステリーの枠にとどまらない、近代が舞台の超骨太な小説も書いていただきたいと思ったりします。とにかく今後の伊吹さんのご活躍が楽しみになる作品でした! -
明治維新前後の京都は、おそらくここで描かれているように、世情不安定でどろりと陰鬱な雰囲気であっただろう。江藤新平をメインキャラで据えるとは変わっているな、と思う。ミステリ界隈では人気キャラだったのか? 本当の江藤新平がここまでロジカルモンスターであったなら(そうだったのかもしれないけれど)、そりゃ誰も本当に味方するような盟友と呼べるような者はおらんだろうし、破滅するしかなかったであろう。
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ますらおの 涙を袖にしぼりつつ 迷う心はただ君がため
「監獄舎の殺人」に惹かれてエンタメ推理小説のつもりで読み始めたので、本格時代小説でもあったことに驚いた。連作短編として読んでくると、「監獄舎」が終わったあたりで腰の据え方が変わってくる。江藤新平と鹿野師光というふたりの探偵役が、どうしてここに至り、どこへ行くのか。
しかし史実上の人物とオリジナルの探偵、という対比が非常に巧みで、師光を通して見る江藤新平の姿は傲岸不遜でありながら所々に感情的な綻びを見せ、当に「迷い」を体現するかのよう。司法制度の成立に生涯を掛けた人物だからこそ、その迷いが魅力的に響く。
にしても重かった…本格時代小説としても、新本格推理小説としても。密室あり、倒叙ミステリあり、推理合戦ありに政争あり。未だ幕末の動乱残る明治初期を舞台にしていることが、これでもかと活きている。
大満足でした。 -
今までも、歴史上の人物が探偵役の小説は、いくつか読んだけど、この作品は、事件を解決するのが、単なる正義感のためではなく、自らの理想を達成するための手段だというのが、逆に現実味があって面白い。
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日本の司法制度の礎を築いた江藤新平(実在の人物)と尾張藩出身の武士・鹿野師光のバディが京都で発生する殺人事件の謎を解き明かす連作ミステリー短編集。所謂【本格ミステリ】と呼ばれる作品は犯行動機が説得力を欠くイメージが強いのだが、動乱渦巻く幕末~明治時代が舞台となると、決して有り得なくはないかと思わせる設定の妙がある。全編を通して、江藤と鹿野の関係性が変化してゆくのも面白い。後半になるにつれて物語の筋書きがパワーダウンしているのが惜しまれるが、悲哀に満ちた最終回の余韻といい、他の作品も読みたいと思わせる作家。
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謎解きとしてもナルホド~って感じなんですけど、
なにより、江藤さんと鹿野さん、一筋縄ではいかない二人の男の間にあるBIG感情案件だった……!
互いに信念は曲げない、でも確かに相手を想っている男たちの生き様よ。 -
幕末から明治の初頭に至る時期の京都を舞台にした、時代ミステリの連作集。探偵役二人の反発と友情を描いた長編としても読める。トリック、ロジックともおざなりではなくミステリとしても佇まいは端正だが、やはりミステリとしてだけ評価するには少し弱いか。例えば、死刑囚が処刑寸前に殺されるという「監獄舎の殺人」も、法月綸太郎氏の「死刑囚パズル」のようなホワイダニットを期待すると、多分違うなと感じるのではないかな。