「履修履歴」面接─導入、質問、評価のすべて

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  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492223673

作品紹介・あらすじ

この面接は、嘘をつけない、脚色できない、準備できない。
だから、学生の素顔がわかる!

成績表を活用する全く新しい採用手法、唯一の解説書。

単なる「成績重視」に陥ることなく、学生の内面に迫る
面接手法のすべてを、これ一冊で解説する。

【「履修履歴」面接からわかる、ビジネスに必須の素養】
・低モチベーション化での行動特性
・セルフモチベーション能力
・適応力
・責任感
・協調性
・リスクに対する行動特性
・脚色や準備によらない、素の話し方
・物事を構造的に把握し、適切に説明する力 など

感想・レビュー・書評

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  • 良い視点もありながら大学教育の仕組みを十分に理解していない、または誤解している内容も記載されている。履修履歴面接を実施するには、このテーマの科学的な検証・研究が必要になり、面接者のトレーニングも必要になると考える。

  • <【懇願】企業にぜひ取り入れていただきたい画期的な採用選考・面接手法>


    僕は大学内にて、書籍・キャリア事業部という部署に勤務している。

    その中で感じている大きな矛盾として、「読書・勉学」と「就職」が、ほとんど無関係なものになっているという問題がある(ただし理系や一部学部は除く)。

    書籍事業部の仕事としては一般書店のような店舗販売の他、教科書販売がある(他に大学・教職員向けの販売もある)。

    教科書販売は、大学の講義と連動しているため、学生の講義に対する態度が非常によく分かる業務だ。
    当然ながら、ほぼ全員の学生がなんらかの教科書の購入をするが、その購入行動の形は幅広い(業務内なので詳しくは書けないが)。

    かたや「キャリア事業」は就職活動やその他進路に関わる様々なものが含まれる(これも詳しくは書けない)が、例えば就活・資格対策本のようなものはともかく、教養・学術的な本は就職活動とは無縁な本のように思われているし、その認識は実態と合っているだろう。

    つまり「書籍・キャリア事業部」といいながら、2つの事業で行っている業務はそれほど重なっていないのだ。

    なぜ学生はせっかく教養・学術的な勉学を中心に大学生活を過ごしているにも関わらず、それが就職活動とは無縁なのか。
    その理由は企業側の「大学の成績では仕事で必要な能力は見分けられない」、もっとダイレクトにいうと「大学の勉強は仕事では直接は役に立たない」という「思い込み」が支配的だからだろう。

    (もし大学生の中心的活動は勉学でない、と考えている方がいるならば、まずは最低卒業用件の124単位×15コマ×90分がどれほどの時間になるか計算してみていただきたい。
    また「思い込み」ではないという方は、大学の学業と仕事の成果がどのように無関係なのかをデータで示していただきたい)

    さて、そういった態度の企業と大学は、対立を続けてきた。

    大学側は「早期化する就職活動が学業を阻害している」とした。
    一方、少しでも他社に先駆けて優秀な社員を確保したい企業は、そういった本音ではなく「大学の学業」の方を批判し、キャリア教育が全大学で実施中されるなどした。

    さらに「新卒採用そのものを廃止すべきだ。欧米にはそもそも新卒採用はない」という意見も現れた。
    しかし、これについては大学、企業、学生とも望むところではないだろうし、逆に新卒採用の利点が強調されるほうに作用したように感じている。
    現在では(少なくとも僕が知る範囲では)新卒採用廃止という意見はめっきり聞かれなくなった。

    そして数年前から、両者の対立は「就職活動の時期」という論点に(少なくとも表面上は)絞られた。
    企業が採用活動の時期を遅らせることによって「学業を妨げないようにする」という紳士協定が結ばれた。

    しかし、就職活動が遅くなったからといって学生がよりいっそう勉学に取り組むようになるわけではないことは、それが実施される前から指摘されていたことだ。
    もし学生が勉学に励むようになったのであれば教科書販売の量も増えるはずだが、そういった事実はない。

    しかも、その選考時期も毎年のように変わり、結果的に、大学も、企業も、学生も、(そして僕も)振り回され、疲弊している。


    大学は、就職活動の時期が遅くなったことで、特に理系・ゼミなどにおいて以前よりさらに学業を阻害された面がある。

    企業は、インターンシップまたは業界セミナーのような形で採用と直結しないとしながらも学生との早期接触を続け、またリクルーターによる個別接触なども増えたようだ。
    つまり目に見えない探り合いという、手間がかかり成果が分かりにくいことに労力が費やされている。
    さらに新入社員教育と新卒採用の時期が重なるなど、業務的な組み立ても変えざるを得なかったろう。

    学生は、志望する大企業の選考が遅くとなったことで、既に内定を得た会社から、他社の選考を受けることを辞めるよう迫る「オワハラ(就活終われハラスメント)」と呼ばれる行為を受け、社会問題となった。

    そして今も就職活動の時期に関する論争は続いているが、解決する様子は見られない。


    さて、前置きが長くなったが、以上のような泥沼化の中で、一筋の光明となり得るように思えるのが、本書で提案されている「履修履歴面接」である。

    その提案内容が就職・採用活動に与えるであろう効果と、そのメリットに対して手法が極めてシンプルであることを賞賛したい。

    (なお、本書では「履修履歴面接」の略称として「リシュ面」と表記されているが、ここでは「リシュ面」という言葉は使わない。
    「広島」と「ヒロシマ」で想起されるイメージが違う、あるいは「就職活動」と「シューカツ」から異なる印象を受けるように、履修履歴面接も、少なくともその正確な意味が浸透するまでは安易に略称を用いないほうが良いのではないか、と思うからだ)


    さて、履修履歴面接とは何か。これは大学の成績表を元にした選考のことだ。
    ただし「成績が良い」ことを単純に採用に繋げるわけではない。
    成績表はツールであり、着目するのはその過程、つまり履修履歴である。

    実は、成績表を採用選考で提出させるといったことは、2013年頃から行われていた。
    一方、履修履歴面接は、単に成績表を提出させる、ということとは全くことなる選考手法だ。

    例えば、倫理学を履修した学生に対して「倫理学について教えてください」と質問をする。
    または「財務会計と管理会計の違いは何ですか?」と質問する。
    「なぜロシア語を履修しようと思ったのですか?」と質問する。
    「日本文学概論」で学んだことを2分くらいで説明してください、と質問する。

    あるいは「この科目はなぜ成績が悪かったの?」という質問でも良い。
    それをきちんと論理的に説明できる学生であれば、採用面接としてはクリアしていることになる。


    履修履歴面接のメリットとして挙げられているのは主に以下のような点である。


    第1に、成績表という動かせない客観的事実を元に選考をするので、学生はウソをつきにくい。

    例えば、財務会計と管理会計の違いについて知らないのに適当なことを言えばすぐにバレる。
    「学生時代に力を入れたこと」、通称「ガクチカ」などよりはるかに事実を回答してもらえる可能性が高いだろう。

    違いを説明できないならできないで、なぜ単位取得しているのに違いを説明できないのか質問したり、会計について知っている範囲でいいので教えてもらう、といった質問を加えれば、その学生のことをより理解することができる。


    第2に、履修履歴面接を受ける学生は事前対策はほぼ不可能であり、かつ不要である。

    履修履歴を元にした質問は無限にあるので想定できない。
    逆に言うと、自己PRやガクチカのような「作文」をする必要はないので、学生の負担は軽減されるだろう。


    第3に学生の「低モチベーション状態」における行動を知ることができる。

    自己PRやガクチカは、高いモチベーションで取り組んだことが語られるが、実際の仕事では「やりたいこと」と「やらなければならないこと」で構成されている。

    一方、大学生にとって、全ての履修講義がやりたいことであったことは、ほとんどないだろう。
    場合によっては、逆にほとんどの講義を嫌々ながら履修していたかもしれない。
    しかし、嫌々でもキチンとやった、という事実は採用選考においては評価できる点になるだろう。


    第4に、企業が大学についての知識を得ることができる点が挙げられている。

    「採用ターゲット大学」「学歴フィルター」と呼ばれるものは、もはや、ほぼ公に知られているが、大学名を基準にせざるを得ないのは、他に適切な指標がないからだろう。

    しかし、履修履歴から行われる質問により、各大学がどのような取り組みをしているかなどを知ることができるので、大学名よりもさらに深い情報を得ることができる。
    あるいは知的財産に関わる講義を履修した学生、といった条件をつけることで、大学名以外の絞り込みを行うこともできる。


    そして第5に、以上のような仕組みにより、大学は本来の目的である学問教育に力を入れ、学生に勉学に対するモチベーションをつけさせ、それを適正に評価するようになる。

    なぜなら、それが就職活動における学生のメリットになり、企業・社会のメリットとなることで、大学自身の評価も高まるからだ。
    逆に講義や評価がいい加減な大学は社会的評価も落ちることになる。


    以上のメリットは僕がまとめたものであり、本書ではより丁寧に説明されている、


    また、履修履歴面接は、これまでの面接手法を否定するものではないことを著者は強調している。
    あくまで多面的評価のための一工夫として取り入れることを提案しているに過ぎないことは留意する必要がある。


    ところで、履修履歴面接は、あくまで選考手法であり、選考開始時期という問題とは無関係に思える。

    しかし、もともと選考開始時期の問題は、大学側の「就職活動が学業を阻害している」という指摘から始まっており、「企業が学業の過程や結果、つまり履修履歴を選考において用いる」となれば、自ずと企業側も、大学・学生の学業に対して配慮をするようになると思われる。

    また、最近話題のブラックバイトと呼ばれるものでは、学生がアルバイトに拘束されて学業に支障をきたしている、アルバイトを辞めさせてもらえない、といった問題が指摘されている。
    学業が選考の要素となるとなれば、学生側も講義への出席や退職を主張しやすくなるだろう。

    そもそもブラックバイトのようなケースでは、学生バイトを雇っている側が学業を軽視している可能性も高く、履修履歴面接が広まれば、そういった事業主は社会的な信頼を失うことになる。


    さて、以上のように本書で書かれていること、そして僕が感じたメリットを挙げてきたが、当然、履修履歴面接だけで何もかもが解決するわけがない。
    選考時期についても「企業側の本当の意味での配慮が期待できるかもしれない」といった程度で、そもそも在学中に就職を決めるのであれば、どうしても学生生活と就職活動は重ならざるを得ない。


    とはいえ、履修履歴面接が広まれば、これまでの大学と企業の対立は緩和され、大学生がさらに大学生らしく大学生活を過ごすことができるのではないか、と思う。

    本書ができるだけ多くの採用担当者を含む社会人や、大学関係者に読まれることを望む。

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著者プロフィール

履修データセンター代表取締役社長。1959年生まれ。京都大学工学部卒業。リクルートで全国採用責任者として活躍後、アイジャスト創業。リンクアンドモチベーションと資本統合、同社取締役に就任。2011年、NPO法人DSS設立。大学成績センター(現・履修データセンター)設立。著書に『なぜ日本の大学生は、世界でいちばん勉強しないのか?』(東洋経済新報社)などがある。

「2021年 『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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