日本「再創造」 ― 「プラチナ社会」実現に向けて

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  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492395516

感想・レビュー・書評

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  • この人の問題のとらえ方の視点は本当に面白い。工学出身の人なので、社会を語るデータが物流を基本にしているのも、新鮮で説得力がある。

    例えば、

    ・中国は13億の人口を抱えているからまだまだ大丈夫、というが本当だろうか。社会インフラで人工物の飽和を図る指標は難しいが、重く価格も安いセメントはほとんど地産地消される。そのため、セメントの生産が道路、港湾、ダム、ビルといった社会インフラを代表する指標となる。1920年あたりからとられている人口一人当たりの総セメント量はアメリカで1人16t、日本で29t、フランスで22t。中国はすでに14t近くストックしており、近年の顕著な増加率を勘案すると、2012年にアメリカ、2016年にフランス、2020年には日本に追いつく。

    ・車両に関しては、先進国では人口100人に対し、50台保有する。平均12年で廃車になるとすると、50÷12でおよそ4.2台になる。毎年これが続くのが飽和期の需要だが、先進国では人口100人あたり1台の水準から5年ほどかけて100人当たり3~5台の水準に達して頭打ちになっている(それからは波線を描きながら同水準で推移する)。中国は2009年で100人当たり1台の水準に達しており、日本や韓国より規模は大きいとは言え、7~10年で飽和の水準に達すると思われる。

    ・アメリカは移民政策のおかげで高齢化による労働力不足には困らないと思っているが、中国の高速な高齢化はアメリカ移民にも高齢化の影響をもたらす。

    ここまで抜粋してきた文章から限界と現状認識に著者の造詣の深さを感じるが、解決策に関してはさすがにこれからの事なので広がりと鋭さが現状分析と比べると鈍く感じる。ただ日本は、公害、資源不足を始めアジアの課題先進国であった。今また先駆けて、高齢化時代の社会インフラのあり方という課題を得ている。これからは、課題《解決》先進国となれる力を持っているはずだという語りかけには力を感じる。

  • 約7年前に発行された書籍だが、今の時代にも大変示唆に富んだ提言が多く含まれた一冊。勉強になりますね。

  • 東大の学長だった人が日本のエネルギーの課題と解決策を述べている本

    この著者の本は何冊か読んだ事があるので、日本が課題先進国から課題解決先進国になるべきというフレーズが心に残る

    日本に対するイメージがマイナスな人に読んで欲しい

  • ・日本は「課題先進国」。
    ・韓国では2020年、中国では2030年ごろには高齢社会を迎える。
    ・人工物(家、車など)は必ず飽和する。中国の経済成長が世界経済を牽引できるのも、今後5~10年ほど。
    ・21世紀のパラダイム。「爆発する知識」「有限の地球」「高齢化する社会」の3つ。
    ・幸せな加齢。栄養、運動、交流、新しい概念の受容、前向きな思考。
    ・社会を変革していくにあたって、みんなでやろうと言っても無理。最初はフロントランナーが前面に出て、徐々に仲間が増え、活動が臨界点に達するとやがて全体が動き出す。

  • 知識のない私には
    最後まで読む前に
    身近な問題と捉えきれなくなってしまい
    自分の力不足を実感した。

    この本を読んで
    自分は日本人であり
    日本をもっと良くしていく
    そんな展望をもっと自分なりに考え
    このような素晴らしい本とすり合わせられるくらいになれればいいなと思った。

    小宮山宏さんに試しに日本のトップに立ってもらうことはできないのだろうか。

    すでに動き出しているというのが興味深い。

  • 会社の仲間の紹介で読んだが、予想以上に学びの深い本だった。まず、恥ずかしながら、少子高齢化という問題は日本だけでなく世界の先進国の共通の課題であるということを理解していなかった。そのため、「日本は課題先進国であり、様々な課題を解決していけば課題解決先進国になれる」という著者の考え方がとても新鮮だった。また、「イノベーションの余地とは「理論」と「現実」の差であり、技術者との対話が必要である」という指摘もとても共感できた。確かに会社で開発シナリオや商品企画考えるときには、割と顧客ニーズとか精神論でスペックを決めてしまいがちになる。やはり判断軸の一つとして、「理論上到達できる数値」をしっかりと示し議論するということを、経営陣も技術者(CTO)もやっていく必要があると感じた。この本を読むと日本の未来に希望が持てると思う。僕にとってはいろんな角度から楽しめる本でした。

  • さすが東大の学長を勤めたこともあって、俯瞰的に日本を捉えている。
    また、リーダーとして強い危機感を持つだけでなく、日本の強さや潜在的なチャンスを信じており、読んでいて前向きな気持ちになれる。
    2050年までにどんな国になっているか注目したいとともに、少しでもその過程に自分が関われたら幸せだと思う。

  • 震災から立ち直り、新たな社会と産業を創り上げて行こうとしている今の日本にこそ必要な視点がこの一冊に詰まっていると思えた。

    著者は元東京大学総長で現三菱総研理事長の小宮山先生。工学系出身で、エネルギー環境領域が専門であり、日本の再生の一路として「環境技術」を提案している部分では、流石にデータに裏付いた主張がしっかりしており、納得できた。自らの家を小宮山ハウス呼び、省エネハウスの実証をしてメディア公開しているのを以前テレビで目にしたが、そういう姿勢も面白い。以前から話に説得力があり、惹きつけられると思っていたが、本になってもそれは変わらず、一気に読むことがてきた。

    まず導入の視点が新鮮だった。
    「日本は課題先進国」である。なぜなら、天然資源に乏しく、環境汚染被害を受けやすく、少子高齢化、過密過疎、食料自給率問題を抱えているが、これらは世界が今後直面する課題であり、それを日本が先取りしていると言える訳だ。
    つまり、この状況をうまく活かせば、日本はまだ成長出来る余地があるということだ。

    一般論として、今の世界経済は新興国の高度成長に支えられているが、それは有限である。現在の新興国の需要は「普及型需要」であり、それは住宅や自動車などの「人工物の飽和」により頭打ちになる。よって、今後「創造型需要」にシフトする必要がある。もはや欧米の技術を小型高性能化して輸出する「坂の上の雲」型のビジネスモデルは成立しない。
    (新興国成長の飽和度を図るのにセメントの消費量を用いる手法は新鮮だった。セメントは基本地産地消なので、社会インフラの飽和度が正確にわかるという。それによると、例えば中国は今後5〜10年で飽和する、という結論になる。)

    これからの21世紀のパラダイムは、以下の3点
    ①爆発する知識
    ②有限の地球
    ③高齢化する社会=人類共通の課題
    実は欧米も新興国も③の高齢化課題をきちんと認識していないが、今後数年で人類共通の課題をとなる。

    ①知の爆発
    現在は知の爆発により、知が細分化されている。研究が進み、深く細かい事実がわかるようになり、さらにITの普及で誰でも情報にアクセスできるようになったが、それをどう使い社会に役立てていくかがわかっていない。そこで知の構造化が必要である。
    知を構造化し、全体像を描いて共有し、その中で自分の役割を認識する。今後研究者の半分はこの知の構造化を研究対象としていく必要がある。

    ②有限の地球
    本著のなかで、ビジョン2050が提案されている。
    前提としては途上国の成長、先進国の生活水準維持した上で、
    ・エネルギー効率3倍
    ・物質循環システム
    ・非化石エネルギー2倍
    を目指す。

    一つのアプローチは環境規制。理論と現実の差がイノベーションを生み、その余地を合理的に予測した上で、環境政策を立案する。そういう意味で日本は政策当局者と技術者の議論が不足していると言える。
    また環境技術での創造型需要。環境技術で日本の太陽電池はかつて世界トップを走っていたが、DRAMしかり、世界的な大量生産の渦に飲み込まれて世界に置いてきぼりをくっている。
    日本の技術は基本的にガラパゴスであり、性能は高いが価格も高い。そうなると、性能面で多少劣るが、価格が半分の中国や韓国製品が休息に普及する。
    現在日本がトップを走る技術として、エコキュート、エネファームといった家庭用発電給湯システムを挙げている。エコキュートはヒートポンプ、エネファームは燃料電池を用いて、共にエネルギー変換効率が8割りを超える。これらを安く世界に売りだす方法を考えなれば、太陽電池の二の舞となる。確実に今後伸びる分野であるから。

    最後に③高齢化については、プラチナ社会構想がある。
    これは各自治体に最適な体制をとりながらも、街の機能を集約化し、その周囲をITで繋いで効率、便利な環境構築を目指す。既にプラチナ構想スクールという形で、実現を目指しプロジェクトが走っている。

    一冊の中に多様で、かつ大変重要なテーマが詰まっており、納得の出来る一冊だと思います。今後の日本をいかに導くか、その行き先が示唆されています。後はいかに具体的なアクションに落とし込んでいくか、各人が取り組むべき課題はたくさんありそうです。

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著者プロフィール

前東大

「1990年 『速度論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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