いまこそ税と社会保障の話をしよう!

著者 :
  • 東洋経済新報社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492701515

作品紹介・あらすじ

消費増税は悪ではない!
「貯蓄ゼロでも不安ゼロの社会」は実現できる
慶大人気教授による白熱討論を書籍化! 
 
【主な内容】

・「勤労国家」日本 ~行き過ぎた「自己責任社会」の形成
・「働かざる者食うべからず」の本当の意味
・90年代に大転換した日本社会 ~家族、会社、地域という共同体の喪失
・「成長」から「分配」に方向転換した安倍政権
・国民が優先すべきは「経済成長」よりも「将来不安の解消」
・2040年の社会保障給付は190兆円 ~ビビり過ぎのメディアと国民
・「頼りあえる社会」を実現するために、いくら必要なのか
・増税を「悪」と捉える左派・リベラルの限界
・なぜ消費増税が正しいのか ~所得税、法人税、相続税を上げても数千億円

感想・レビュー・書評

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  • 面白い。本書は消費税を大幅に上げることにより再分配を果たし、日本社会の破綻しかけた社会保障を再構築するそんな本である。感じる事が多すぎてまだ整理できていないがレビューする。また読み返したい。
    ポイントは3点。
    1、消費税の増税は公平な徴税感がある。
    2、弱者ではなくすべての人へのサービスの提供により、すべての階層の人に受けいられる。
    3、資本主義を突き詰めたために、社会は人間らしさを失ってしまっている。そんな社会を見つめ直すのは今しかない。

    筆者の主義主張は相容れない部分はいくつかある。さらに本書での対談形式は正直お人形遊び感が非常に強い。しかしそれらを差し引いたとしても本書は非常に優れた良書である。一般的に増税や社会保障と言うと非常につまらないテーマではあるが、本書では非常にわかりやすくかつドラマティックに表現している。


    良いと思った筆者の発言。
    「エリートになるための競争ならいいです。でも普通に生きるための競争強いられる社会。その競争から降りたくても降りられない人たちがいる。」
    感じた疑問
    「ヨーロッパの国々では付加価値税率が高く、社会保障が強い。との論調で語られているが、20年1月現在のブレグジットに代表されるようなヨーロッパの混迷はどのように説明すれば良いのか。」

  •  以前読んだ著者の本と内容はほぼ同じだったので、軽く読み流し。消費増税によって財源を確保し、ベーシック・インカムではなくベーシック・サービスとして再分配を訴えておられる。政府への不信をどう解消するかがネックだと思う。中立的第三者機関を作っても、今度はその機関が信じられるのかという議論になりそう。著者の主張が正しいかどうかはわからないが、今より少しでもマシになればいいなぁと思うだけなのは無責任になるのだろうか。

  • 本書ははどん詰まりに落ち込んでいる日本の政治と経済への処方箋となるのではないかとの感想を抱いた。
    本書の「勤労国家」という概念は実に秀逸な認識である。そう捉えるとここ数十年の日本社会の変化の多くの不可解な分析データの理由が納得できる。
    「消費税を上げて等しく配ると格差は縮小する」。少し考えると当然のことだが、やはり普通は富裕層にも配るモヤモヤ感の方に意識は向かってしまう。社会の分断線をつくらせないとの視点は目からウロコだった。
    本書では著者の少年時代の家庭事情や貧困にも言及しているが、それを原点とした論理には説得力と共に何としても実現したいとの政治性をも感じる。
    小生は政治的にはリベラルを自称しているが、現在の安倍政権の、言葉は「右」だが実施する政策は「左」の現状に「持続可能性への不満を語る」以外のアンチを打ち出せずにフラストレーションを高めていた。本書を読んで「次の社会への希望」が見えてきた思いをもつ。共感とともに本書を高く評価したい。

  • 消費税の必要性を強く訴えるリベラルな学者。
    納得できる所は多い。
    政治的には挫折した案であるらしいのは残念だ。

  • 長年日本が燻っている根本の原因が上手く言語化されており、読んでいてとてもすっきりした。租税や財政が存在する本来の理由を再認識し、現在の日本に合った税制や社会保障制度を考えていきたいと思う。

  • まだ途中だけど、読んでいる中で気付かされたことについて書いておきたい。
    1.自分一人で多少お金を貯めただけではできない共通利益を国が行うのが財政。
    日本人みんな(一人残らずみんな)の利益が、現在は外交、防衛、義務教育しかない。あとはお金を貯めて必要な人は購入しなさい、という話にされている。
    これを、安全な食や水、医療や介護、福祉、文化的に生きる権利など、広げていかないといけない。これは国の責任である。
    2.愉快に働ける環境を整えなければならない。その指標は、生活保護をもらっている人に対して「俺だってしんどい思いして働いてるんだからあいつらにも働かせろ」から「働けないなんてなんて可哀想なんだ。せめて映画を見たり、読書をするくらいの楽しみを持たせてあげよう」に世間の風潮が変わったら、それはみんなが働いて幸せになれてることだ。
    3.中間層は、必死で働いても昔のように家族を食わせ、マイホームを建て、子どもを大学に行かせるなんて叶わなくなっている。無力感を感じ、自分が苦しんでいるからこそ、他の誰かを責め立てることで鬱憤を晴らしている面がある。野党は貧困層にクローズアップするだけでなく、中間層(と自認しているだけで実際には生活が苦しい人々)に希望を持たせないといけない。

  • 魂の税と社会保障論。こういうのを読みたいんだよ。強烈な人生体験がつまらない論理に血を通わせる。

  • 著者の井手先生がビデオニュースドットコムに出演されているのを見て図書館で予約。忘れたころに確保の連絡が。
    大きく分けて,
    ・なぜ日本はこれほどまでに「自己責任」論が強い社会になっているのか。←現在の問題の原因の話
    ・経済成長を前提とせずに社会を暮らしよくするにはどうすればよいのか。←問題解決の提言
    といったことが書かれていたかと思います。

    「誰が悪い」とかそういう話ではなく,「なぜ今こうなっているのか」ということがわかりやすく整理されているのと,「ほかの方法ではなく,この方法であることの合理性」が説かれているので,とてもロジカルで説得力があるように思いました。
    著者は研究者ですが,難しい経済理論やデータ,統計分析などはいっさいなく,誰でも簡単に読み解けるような表やグラフ,事例などによってきちんとロジックを示してくれるので,私のような経済学の門外漢,社会保障のことなど何の知識もない人間でも最後まで読めるような内容でした。

    印象に残ったのは,実は「新自由主義」やアベノミクスの効果や正しさなどどうでもよくて,日本社会が,国民が求めていたのは,自己責任社会に変わる新たな社会モデルであり,そこにどう説得力を持たせるかであった,というところ。そしてそれは,最終的には,増税によりみんなで痛み分けをし,かわりにその対価としての社会サービスをみんなで分かち合うこと,それこそが倫理的に正しいのみならず,論理的にも合理的だということ。

    政権与党の方針転換を見るにつき,時間がかかったり,回り道をしたりしても,最終的に「そのような方向に行かざるを得ないだろう」ということが結論のようでしたが,まだまだそこに行くまでには時間と労力がかかりそうだとも思える。
    本書が書かれたのは2019年,そしてその後にコロナ禍がやってきて,8年近く続いた内閣が終わる。これはピンチなのか,チャンスなのか。

    この本の魅力のひとつは,著者のほとばしる情熱が散見される語り口ではないかと思います。多くの経験と学び,悩みの中に信念があり,信念を支える確かな知識と見識がある。消費税増税には批判が多いことは著者も認めているけれど,そこも含めて,多くの人を議論に巻き込んでゆく力を持った本だと思いました。

  • SNSでは年収マウントを取ったり、弱者を見下したり踏み台にする論調を展開する人が散見されて、悲しくなっていた。しかし日本は日本国憲法の「勤労の義務」、「納税の義務」のもとの自己責任社会、強者の理論がベースになっているので、「働かざる者食うべからず」の思想が根底にあり、不公平感に嫉妬するのは当然の感情なのだ。社会構造が要因であり、彼らを一概に否定できないと本書で気付かされた。そして人口減少と経済衰退が既定路線の日本では、助けを求めたくても求められず貧しさから絶望の淵に立たされる人がますます増える。この構造に本書で気付かされ、強い危機感を覚えた。

    「成長は成長でいいんだけれど、成長が止まったら絶望するしかない社会は変えるという発想がほしい。」足りないのはシンプルにこれだと感じる。年収制限を設けるなどして下流階級だけを救済するのではなく、中流階級も対象とすることで不公平感を与えないという論理には納得感があった。

    現に、幼児教育・保育の無償化やコロナ禍での特別定額給付金、持続化給付金など公平な政策も増えている。
    著者の井手先生はもともと民進党・前原氏のブレーンで、自民党はこの思想をパクったと批判しているが…(本書に感銘を受けて映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」を見た。井手先生本人がスピーチでそうはっきり言っている)

    民主党の経済政策の失敗によって、もう今後50年は政権交代は起きないと言われていた。しかし自民党の元でも経済衰退に歯止めがかからず、経済を立て直す見通しが立たなくなって貧しく暗い雰囲気が日本を覆う将来には、また野党リベラルに白羽の矢が立つのだろうと思った。それはもしかするとそんなに遠くない未来なのかもしれない。その際には経済成長だけを目指すのが解ではないという本書を思い出して再読したい。

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2022年 『財政社会学とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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