税務コストをへらす組織再編のストラクチャー選択

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  • 中央経済社
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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784502231612

感想・レビュー・書評

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  • 組織再編税制の専門家である佐藤会計士の最新書籍。購入後即座の読了。期待を裏切らない内容であった。単純な引用に頼らず、全編において筆者の深い経験から考察された見解が述べられており、好感が持てた。
    P167
    分割型分割による事業承継
    複数の子供がいる場合には、その子供たちが協力し合って事業を行ってほしいと思うのは親心であり、それがうまくいっている場合には、血のつながった兄弟姉妹であることから、期待以上の成果を上げることも少なくない。
    しかしながら、兄弟姉妹が必ずしも仲が良いとは限らず、また、事業を一緒に行うことにより、結果的に仲が悪くなるということは十分に考えられる。さらに、事業にまったく興味のない子供もいるであろうし、そうであっても、何
    らかの事業(例:不動産賃貸業)は残してあげたいという親心は存在し、すべての事業用資産を長男にという時代でもないように思われる。
    そのような場合には、分割型分割という手法が役に立つ。分割型分割とは、分割の日において当該分割に係る分割承継法人株式のすべてが分割法人の株主に交付される場合の当該分割をいう(法法2十二の九イ)。すなわち、分割法人の株主に対して、分割承継法人株式が交付されるため、分割法人と分割承継法人が兄弟会社の関係になる。このように、父親が分割法人と分割承継法人とに分けておけば、生前贈与または相続のタイミングで、分割法人は長男に、分割承継法人は次男にという分け方が可能になるため、別々に事業の承継が可能となる。また分割承継法人に不動産を移転させ、分割法人に対して当該不動産を賃貸させることにより、不動産賃貸業を営ませるということも可能である。
    このような会社分割は、分割法人と分割承継法人の発行済株式のすべてが同一の者である父親によって保有されており、かつ、分割後に、父親とその親族によって保有されることが見込まれていることから、適格分割型分割に該当する (法法2十二の十一、法令4の3⑥二)。なぜなら、税制適格要件の判定では、株主が個人である場合には、その親族等を含めて支配関係の判定を行うからである(法令4の2、4①)。これに対し、相続税法上は、分割型分割により、それぞれ引き継がれる事業会社が分かれてしまうと、財産評価基本通達における位置づけが、大会社から中会社、小会社に変わってしまうことがある。そのため、会社規模の縮小により、折衷方式を採用したとしても、純資産価額方式の折衷割合が高くなることが考えられる。一般的には、類似業種比準方式のほうが低い株価となることが多く、株価を引き下げる対策もやりやすいため、相続税対策という観点からは不利になることが多い。実務上の感覚としては、相続税の負担が増えたとしても、争続を避けるために、分割型分割を行いたいというニーズは少なくない。また、事業の承耄を受ける子供の立場としても、相続税の負担が増えることにより、税引後の相続財産が減ったとしても、他の兄弟姉妹とは別々に承継したいというニーズもある。事業承継対策といえば、相続税の引下げや納税資金の確保に目が行きがちであるが、経済合理性を超えた感情を理解した上で、事業承継対策を行っていく必要がある。
    P188
    債権放棄、債務引受、贈与
    単純な方法としては、会社の債務超過が5億円であり、個人財産が7億円である場合には、個人財産のうち5億円を債務超過会社に贈与すれば、個人財産は2億円まで減少する。これに対して、会社が贈与を受けたとしても、会社の純資産価額は△5億円から0円になるだけなので、株式の相続税評価額は0円のままである。
    このように、オーナーから債務超過会社に対する贈与を行った結果として、債務超過会社の債務超過部分と個人財産の資産超過部分とを相殺することができる。しかしながら、債務超過会社で発生した債務免除益が、法人税法上、益金の額に算入されるという問題がある。その結果、繰越欠損金の額を超える債務免除益がある場合には、当該超える部分の金額に対して、法人税、住民税及び事業税の負担が発生することになる。そのため、繰越欠損金の範囲内で贈与するようなやり方しか採用することができず、実務上、あまり現実的な手法であるとは言い難いと考えられる。
    P189
    DES (デット·エクイティ·スワップ)
    それでは、第三者割当増資により債務免除益を発生させないという手法はどうであろうか。この場合には、金銭を払い込む必要があることから、そのための資金を調達する必要がある。例えば、疑似DESのように、オーナーから債務超過会社に対して払い込んだ金銭をオーナーからの借入金の弁済に充てるのであれば、一時的に金融機関から資金を借り入れて第三者割当増資を行うという方法が考えられる。しかし、金融機関からすると、第三者割当増資により払い込んだ金銭が確実にオーナーからの借入金の弁済に充当されるとは限らないため、そのような資金調達が困難である場合が多いと考えられる。これに対し、DESであれば、どうであろうか。法人税法上、オーナーが保有する債権が債務超過会社に対して現物出資されるため、非適格現物出資に該当する。なぜなら、適格現物出資の制度は、法人から法人に対する現物出資に限定されているからである (法法2十二の十四)。 しかし、この方法を採用した場合には、債務超過会社において受け入れた債権の時価と債務の帳簿価額の差額に対して債務消滅益が生じるという問題がある。そのため、実務上、あまり現実的な手法であるとは言い難い。債権の時価が100であり、債務の帳簿価額を300とした場合における債務超過会社の仕訳は以下のとおりである。
    【現物出資の仕訳】
    (貸付金) 100  (資本金等の額)  100

    【混同による消滅(民法179)】
    (借入金)  300 (貸付金) 100
           (債務消滅益)200

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著者プロフィール

公認会計士、税理士、博士(法学)。公認会計士・税理士佐藤信祐事務所所長。
平成11年朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入社。
平成13年公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現デロイトトーマツ税理士法人)入所。
平成17年税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業。
平成29年慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(博士(法学))

「2022年 『改訂版 みなし配当の税務』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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