労働時間の経済分析: 超高齢社会の働き方を展望する

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532134518

作品紹介・あらすじ

「効率的に非効率なことをする」慣習は改まるか?高齢化が進むなか、グローバル競争に勝ち抜くには何が必要か。現代日本人の働き方に関する事実や問題を個票データを用いた緻密な分析によって幅広く検証し、「長時間労働には一定の経済合理性が存在する」「多くの仕事に過度なサービスを要求する非効率が常態化している」「周囲の環境次第で働き方は変えられる」などの知見を導いた労作。

感想・レビュー・書評

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  • 労働時間についての研究書で、極めて正確、精緻なデータと分析手順を踏んでおり、説得力ある学術書である。中には、理解が難しい箇所もあるが、結論には同意できる。
    「日本人は効率的に非効率なことをする」p ii
    「OECDの統計によれば、1970年代に2100時間を超えていた日本人1人当たりの年間平均労働時間は、1990年代から趨勢的に減少し、現在では1800時間を下回るようになった。しかし、この平均労働時間の減少は、労働時間の短い非正規労働者が増加したことに大きく起因しており、正社員として働く多くの労働者は現在も長時間労働をしていると言われる。たとえば週60時間以上労働する男性労働者の比率は、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツなどでは4~7%であるのに対して、日本は18%と突出して高い(OECD(2010))」p1
    「平日1日当たり10時間以上働くフルタイム雇用者の割合を計算すると、1976年には13.3%であったが、1991年に25.2%、2001年に29.4%と趨勢的に増加しており、2011年には35.2%と、フルタイム雇用者の3人に1人が平日に10時間以上働くようになったことがわかる」p25
    「ホワイトカラーとブルーカラーの対比では、2時点(1988年と2004年)ともホワイトカラーに方が長時間労働だったが、2004年にはその差がさらに拡大していることがみてとれる」p35
    「国際的にみて日本の労働時間が長いとしても、それに見合った付加価値を作り出せていれば問題ないかもしれない。しかし、時間当たりの生産性を国際比較すると、日本人の生産性はOECD加盟国中19位とかなり低く、非効率な長時間労働になっている可能性も認められた。また、長時間働くことは必ずしも多くの日本人が希望しているわけでもないことや、週60時間以上の長時間労働が続くと心身の不調を感じる人が多い可能性も示唆された。こうしたいくつかの切り口から考えると、日本人は「働きすぎ」という指摘がある程度当てはまるといえる」p108
    「(ホワイトカラー職の正規雇用者の平均労働時間)男性については、週当たり労働時間が50時間以上の労働者比率が日本では40%程度であるのに対して、イギリスは16%、ドイツは21%と低くなっている。週当たり労働時間が60時間以上の労働者比率についても、日本の10%程度に対して、英独はともに5%と低い」p119
    「(仕事帰りに飲みに行く比率が高いイギリスについて)イギリスでは、残業をせずに定時に仕事を終え、そのまま同僚と飲みに行ってコミュニケーションを図るスタイルが定着しているのかもしれない」p193
    「(よい長時間労働)他国の企業では気付かないような便利な機能を製品に付けたり、故障しにくいよう質の高い製品を供給し続けることが日本の売りであり、そのためにはどうしても長い労働時間の投入が必要になる。顧客ニーズに24時間体制できめ細かく対応することやメンテナンスを手厚く行うこと、無理な発注にも残業して応じることが日本企業の存在意義」p210
    「(悪い長時間労働)日本人は真面目すぎるため、付加価値に見合わないことにも過度な労力をかけてしまう傾向がある。すなわち、たいていの仕事は2割の労力で8割程度の完成度に仕上がるものであり、欧州の労働者はその段階までしか仕事をしない。これに対して日本人は、残りの8割の労力をかけて10割の完成度を目指そうとするが、そこまでしても結果は大きく変わらないとの見方である」p211
    「(メンタルヘルス)労働時間は有意に正になっており、長時間労働によってメンタルヘルス休職者比率が上昇することが示されている」p311
    「長時間労働、とりわけサービス残業が労働者のメンタルヘルスを毀損する可能性が示唆され、またメンタルヘルスを毀損した労働者が多い企業ほど、中長期的にみると企業業績が悪くなる傾向にあることが示唆された」p318
    「日本人のフルタイム雇用者の平均労働時間はアメリカ人に比べてはるかに長く、時間当たりのGDPでみた労働生産性は米国の2/3程度、OECD34ヶ国中19位という低さにある。この生産性の低さは、働き方の非効率性が習慣化された結果とも解釈できよう」p334

  • ワークライフバランスの卒論を書くにあたり、仕事と睡眠時間、など生活と仕事について様々な分析があり、普段知ることが難しいような実態を知ることができて、文章も読みやすく、良かったです。

  • 手堅い実証の本。

    【書誌情報】
    著者:山本勲
    著者:黒田祥子
    定価:本体4,600円+税
    発売日:2014年04月25日
    ISBN:978-4-532-13451-8
    上製/A5判
    頁数:366

    現代日本人の働き方に関する事実や問題を、個票データを用いた緻密な分析によって幅広く検討した上で、今後の働き方はどうあるべきかを論じる労作。わが国労働市場分析の本格的決定版。
    https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/13451

    【簡易目次】
    序章 本書の目的と概要

      第I部 日本人の働き方

    第1章 日本人の労働時間はどのように推移してきたか――長期時系列データを用いた労働時間の検証 

    第2章 労働時間規制と正社員の働き方――柔軟な働き方と労働時間の関係

    第3章 長時間労働と非正規雇用問題――就業時間帯からみた日本人の働き方の変化

    第4章 日本人は働きすぎか――国際比較や健康問題等からの視点

      第II部 労働時間の決定メカニズム
    第5章 日本人は働くことが好きなのか

    第6章 労働時間は周囲の環境の影響を受けて変わるのか――グローバル企業における欧州転勤者に焦点を当てた分析

    第7章 長時間労働は日本の企業にとって必要なものか――企業=従業員のマッチデータに基づく労働需要メカニズムの特定

      第III部 日本人の望ましい働き方の方向性
    第8章 ワーク・ライフ・バランス施策は企業の生産性を高めるか――企業パネルデータを用いたWLB施策の効果測定

    第9章 ワーク・ライフ・バランス施策に対する賃金プレミアムは存在するか――企業=労働者マッチデータを用いた補償賃金仮説の検証

    第10章 メンタルヘルスと働き方・企業業績の関係――従業員および企業のパネルデータを用いた検証

    統計データ

  • 書評には「現代日本人の働き方に関する事実や問題を、個票データを用いた緻密な分析によって幅広く検討した上で、今後の働き方はどうあるべきかを論じる労作」「計量経済学を駆使して今日の日本の労働時間問題に斬り込んだ意欲作」「わが国労働市場分析の本格的決定版」との文句が並ぶ。

    著者は、「日本人の働き方について労働時間を切り口に分析した。非効率な働き方の問題に知見を使ってもらえれば」「日本人や日本市場に知見をもたらすのが使命と思ってやってきた」と研究・執筆動機を語っている。

    「労働時間の全体は減っているが、正社員に絞って動向を見ると長時間労働傾向は増長している」「日本では長時間労働であった管理職も海外赴任をすると労働時間が減少する」など、一般的に指摘されている項目も、計量分析によって実証している。

    個人的には、下記の切り口が印象に残った。
    ・海外赴任によって長時間労働慣行を見直す管理職は少なくないが、そうした労働時間減少の多くが「ピア(同僚)効果」によるものである(6章)
    ・労働固定費が大きいために、雇用者数よりも労働時間を多く需要することが合理的となる。その結果、平時に長時間労働を求め、景気後退期に労働時間の削減で人件費調整を行う、これは日本の慣行的な労働調整手法である。とくに労働固定費の大きい労働者ほど、企業が長時間労働を要請する傾向がある(7章)
    ・上記の場合でも、職場管理の工夫次第で非効率な長時間労働が削減できることも示された(7章)
    ・WLB施策は全ての企業で生産性上昇に寄与するわけではないが、大企業や労働の固定費の大きい企業では生産性改善の例が多い(8章)

    「グローバル競争を勝ち抜くため」として日本式の「TEINEI」と長時間労働をセットで求める兆候もあるなか、「良い長時間労働と悪い長時間労働をみきわめよ」との指摘にも納得である。

  • 読了

  • 山本勲・黒田祥子"労働時間の経済分析"

    著者はともに慶応大から日銀マンへ。のち経済学者に転じる。

    日銀におけるガチガチの日本的ワークスタイルから学者としての裁量労働へと180度の変化を経験したことをきっかけに、各種統計を用いて本書の労働時間の経済分析の研究へと至る。

    【まえがきより】
    ○誰がきめたというわけではないが、資料を留めるホッチキスの角度まで決まっていたり、内部の人間しか読まない資料もフォントやレイアウトを変えたりして時間をかけて美しく仕上げたり、当時の職場では、とにかく、いかなる仕事にも徹底して手を抜かない慣習や風土があった。

    ○欧州で働く日本人管理職の方が「日本人は効率的に非効率なことをする」と、日本の職場での典型的な働き方を揶揄していたが、筆者らの当時の仕事の仕方も、まさにその状況そのものであったと思う。

    ○日本銀行に勤務していた時代に、海外の中央銀行の方々と話す機会がたびたびあったが、働き方や労働時間について聞くと、18時過ぎにオフィスに残っている人はほとんどいないという答えが決まって返ってきていた。同じ中央銀行業務をしながらも、労働時間が日本と海外で異なることは印象深く(略)

    【第2部 労働時間の決定メカニズム】
    ○Alesina et al.[2006]は、何らかの協調政策が取られ、多くの人の労働時間が短くなる環境がひとたび整備されれば、余暇に関する正の補完性が働くことにより、さらに多くの労働者が労働時間を削減するようになり、社会全体で労働時間が短くなる均衡が実現し得ると指摘している。

    ○仕事内容が明確化されており、上司が残業を評価せず、仕事を適切に割り振り、部下と交流を図ったり、部下の仕事以外の生活や家庭にも配慮したりしている場合には、労働時間が有意に短くなっていることもわかった。これらのことは、残業時間への評価の見直しや職場管理の工夫次第で、非効率な長時間労働は削減できることを示唆する。(212)

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著者プロフィール

慶應義塾大学商学部教授。

「2023年 『検証・コロナ期日本の働き方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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