- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532167981
作品紹介・あらすじ
動物に焦点をあて、俳句、短歌、詩をジャンルを越えて眺望しながら、動物がいかに日本の詩歌と美意識に大切な役割を果たしてきたかをスケッチ。機知に富み滋味深き珠玉のコラム105篇。巻末に詩歌作者の人名索引収録。
感想・レビュー・書評
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何気なく手に取ったのですが、おもしろかったです!
日本経済新聞日曜版での連載をまとめた1冊です。
毎回、1種類の動物をテーマに選び、その動物が詠みこまれた俳句や短歌、詩を紹介しています。
まず驚かされるのは、日本人はなんと多くの動物たちを歌に詠んできたのか、ということ。
猫や犬、ニワトリ、スズメなどの日本人の生活に寄り添った動物から、コアラやゴリラ、キリンや獅子(ライオン)などの外国からやってきた動物。
はては蚊やミミズ、ノミにボウフラ、ゴキブリまで、あんまり歓迎されないような生き物も詠まれているのだからびっくりです。
万葉の時代から現代まで、日本人が動物たちの営みから季節を感じたり、心を動かされてきたことがわかります。
詩歌の味わいをひきたてる小池光さんの文章が快いのです。
ユーモアを交えつつ、時に哀愁を感じさせ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大好きな動物の蘊蓄と纏わる歌や俳句を並べるエッセイ。
好著じゃない訳はない。日経日曜欄の連載は名エッセイが多く、これもその一つ。
何回でも読むぞ。 -
うたは良いけど、この著者好きじゃない。
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ちりぼへる文【ふみ】の上ゆく小鼠を寝たるふりしてしばしまもりぬ
森 鴎外
新年の季語を眺めていたら、「嫁が君」という動物に目が止まった。はて、そんな動物いたかしらん? 調べてみると、なんと「ネズミ」の異称。かつてはどの家でも天井裏を走り回っていたネズミだが、正月三が日は、新年を寿ぐために「嫁が君」と言い換えられていたらしい。
昭和の中ごろまでの短歌にも、家ネズミは登場していた。掲出歌は、文豪森鴎外が明治末期に「鼠」の題で詠んだ10首連作から。時間は夜。机上に、手紙か原稿をばらばらに広げていたのだろう。その上を小走りにゆく小ネズミを、寝たふりをしながら見守っている。あたたかな表情だ。
その表情と対照的なのが、次の歌。
壁のなかに鼠の児【こ】らの育つをば日ごと夜ごとにわれ悪【にく】みけり
斎藤茂吉
親憎ければ子も憎しのように、徹底的にネズミを嫌悪する厳しい顔が思い浮かぶ。
小池光は著書「うたの動物記」で右の歌を引き、「すさまじい。どんな動物だって子供はかわいらしさを感ずるのが人情というものだろうが」と、微苦笑で解説している。ただ、その「過剰さ」こそが茂吉一流のものであり、余人とは一線を画す部分と言えるのだろう。
「うたの動物記」は、動物の登場する詩歌、俳句をとりあげた軽快なコラム集。「馬」に始まり、「犬」「ナマケモノ」から「金魚」「オウム」、さらに「天道虫」など105編が収められている。動物は確かに、人間そして詩歌の友。
(2012年1月15日掲載) -
表紙がラブリー。さまざまな動物に関する短歌、俳句、詩、物語を紹介している。
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面白かったです!
ムササビの和歌に見覚えがあるなあ、と思ったら、日経新聞の日曜日付けの朝刊で連載されていたそうです。 -
馬、カメレオン、オウムなど105の動物に焦点をあて、詩歌を引きつつ日本人の心の風景と、その詩的世界を探った随筆集。
動物の歌が突出して多いのは茂吉である。偏執的な性格で、3日に1回は鰻重を食べていたことがあった。「これまでに吾(われ)に食(く)はれし鰻らは仏となりてかがよふらむか」と骨太の歌が残る。ナマケモノを詠んだのは岡井隆。週に1度、地上に降りて排便をすませるほかは、樹の枝から逆さにぶら下がっている可笑しさを、「枝々(えだえだ)に数かぎりなくぶらさがる天(あま)つ陰嚢(いんのう)と思はざらめや」と昇華させた。ゴキブリさえもが島田修三にかかると、「さんざ騒ぎ果ててしばらく居残ればゴキブリだらけの穴ぞこの酒場(バー)」となにやら抒情がかもしだされる。
何度も吹き出してしまうのは、著者の機知のなせる業。芥川の「蜘蛛の糸」を引き合いに、彼はニュートンの法則を知っていたのかしら、と洒落るあたりもいい。
(「週刊朝日」 2011/9/9 西條博子)