ものつくり敗戦: 「匠の呪縛」が日本を衰退させる
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2009年3月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532260361
作品紹介・あらすじ
「ものつくり」こそお家芸、この路線さえ貫けば安泰という思いが強くなっている日本。しかし、システム思考を軽視し敗北した戦前の日本軍と同じ過ちを繰り返そうとしているのだ!日本型「ものつくり」の限界を明らかにし、普遍性を追求せず、暗黙知ばかり重視する「匠の呪縛」の危険性を明らかにする警告の書。
感想・レビュー・書評
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著者は、制御理論の工学博士。著者によると、日本の工学の世界では論理系研究者は肩身の狭い思いをさせられるらしい。若いころの苦労は、ヒガミ根性を生み出すことがある。この著者もその類。自分の苦労を元に、日本自体が理論に弱いと断言し、第二次世界大戦もこれにより負け、昨今の製造業不振(といっても、この業界の競争力は世界第二位)もこのためと主張する。こういう根拠の無いような持論を堂々と本にしてしまうのだから、論理系学者は頭でっかちで役に立たないといわれてしまう。 なお、その他にも突っ込みどころ満載である。ソフト開発における日本の問題など、反論する気にもならないほどである。一々彼の誤った認識をあげつらったら、きっと一冊の本が書ける。
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最近、著者の講演を聞く機会があった。本書のような過激なタイトルの本を書いた人とは思えない穏やかで腰の低い人だった。しかし、その主張にブレは見られない。
本書が世に出たのは2009年であり、当時ずい分話題になったように思うが、それから6年を経ても、あまり状況は変わっていないように見える。未だ「ものつくり」の匠が尊重され、その傾向は強まっているようでさえある。
もちろん、ものつくりが大切であることは否定できない。しかし、世界的に見て、付加価値の重要部分は「もの」から「システム」に移行しているらしい。言われてみれば、例えば、東京都水道局の水道技術は素晴らしいと思うのだが、こういう優れた要素技術を持っていても、どこかの国・地域に水道を作るとなると、フランスのヴォエリアに叶わないらしい。なぜだろうと思っていたが、本書を読んで、その理由が少し分かった気がする。
最近はやりの「インダストリー4.0」とも絡めて、システムの本を少し読み漁ってみたいという気持ちになった。 -
正直残念である。
前半の科学史・技術史は非常に読み応えがあった。理論・システム・ソフトウェアで本当に一概に日本が負けた(負けていた)とは思えない。この3つの要素が重要なことはわかるが、著者自らが指摘しているようにオートメーションの分野・新幹線などは突出している技術な訳だし、すでに亡くなった技術とはいえi-modeなどの成功例もある。
暗黙知を形式知化する試みは指摘されているし、どう技術を伝承していくかということも多くの企業が試みている。
結局筆者が何を言いたいのかよくわからなかった。数学教育の重要性や学際的分野の拡充などの各論は理解できるが、「ものつくりの敗戦」が、誰に対して負けて、負けると日本がどうなるのかわからない。IBMが世界を牛耳っているわけではなかろう。
また、アメリカばかりをベンチマークしているが、日本と製造業の構造が似ているのはドイツではないかと思う。ドイツ人は何をやっているのか?と。それほどドイツの産業に詳しくはないが、やはり完成車・部品・製造機械ともに自動車産業につよく(BMW, VW, Melcedes, Boshなど)、化学などの素材もつよい(BASFなど)、重電も強い(Siemens)。ソフトウェア産業も隠れて強い(SAP, 生産管理の延長からERPが生まれてきたと考えればそれほど違和感はない)。その辺りを個人的には知りたい。 -
昔ながらの「ものづくり」だけではまた敗戦してしまうという主張はわかりやすかったけど、「理論」「システム」「ソフトウェア」で解決するわけでもないとも思う。研究者が予算獲得のため科学技術政策担当役人に自分の専門分野の重要性を説得しているという感じで、ちょっとおおげさかも。
でも1930~40年代に情報に関する理論がまとまって確立したというのは知らなかったので読んでよかった。そして、これらが自然科学でなく人工物を対象とする科学というのも、今まで気がつかなかった。確かに別物。 -
「工学」を自然科学を対象にしたもの (電気, 化学, 機械, etc) と人工的なシステムを対象にしたもの (制御, 設計, ネットワーク, 最適化, 計算機, etc) に分け, 複雑さ・不確かさが増してきた現代の技術的課題に対処するためには後者にもっと力を入れなければならないと説いている. 本書の 9 割近くは課題の説明に費やされ, 非常に納得できるのだが, 解決策についてはシンプルで, 少し肩透かしを食らった感じもする. しかしこのことは, 安易な解などないという, 問題の本質を反映しているのかもしれない.
私も学生の頃は「最適化」とか「設計論」, 「制御理論」などという授業を受けていたが, 正直言うと「意義」が良く分からなかった. しかし本書のように工学の分野を整理し, 制御や設計の位置付けが明確になっていれば, 何かが違っていたかもしれない (と他人のせいにしてみる)
今年の 4 月に MT システムに関する本を読んだ http://booklog.jp/users/masahironezumi/archives/1/4526068918 が, ひょっとしたら, 本書に書かれていたような話題に関して何らかの問題を感じいたのかもしれない. 自然科学に関する知識を増やす一方で, 人工的なシステムに関する勉強も忘れないようにしたい. -
本書は匠の技や美意識などに支えられた日本のものつくり神話の限界を指摘する。ものつくりの戦いの舞台は、日本の特徴である労働集約的に蓄積された技術の延長線上にはなく、日本が苦手とする理論に裏打ちされたシステム思考に移行している。おそらく現場力の向上や勤勉一辺倒では太刀打ちできないだろう。本書にある「全体性」を志向する、複数の知から新しい知を創造する「知の統合」が急務に思われる。
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ものつくり神話に捕われた日本の技術評価を戦前から敗戦を経て分析。過度にものつくりにこだわる日本の技術分析は新鮮。しかし筆者の専門分野の制御技術が革命、とする分析には違和感。日本にシステム技術、理論が弱い、と言うのは分野ごとにはあるかもしれないが、日本の技術全体の傾向とすこと、それが今後の世界をリードする技術か?ソフトは確かにそうだか、システム、制御工学を知らないからかもしれないが、知らないものにとっては納得感を得られない。
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タイトルからして、日本の技術がアジアの生産力に負けた、という話かと思って読んだのだけど、科学史を下敷きにした欧米との比較論だった。こういう比較論にあたったのは初めてだったこともあって、面白かった。科学と技術の歴史観としても面白い。
日本が誇りとしている「匠」「現場力」「技能」、それらが示すのは日本が本当の産業革命を迎えておらず、家内制手工業を引きずっているということ。それは生産がシステム化されていないということ。それがソフトウエア主体の生産システム開発の時代になって優位性を失わせている。
ただ、この手の分析的な本の常として、「処方箋」には不満。やはり、欧米の後を追え、と言っているだけの感は否めない。あと、タイトルが内容を示していないのも、ちょっと不満。