震災復興の政治経済学 津波被災と原発危機の分離と交錯

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  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535558298

感想・レビュー・書評

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    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/688101

  • 過大に広げ過ぎた震災復興政策と、小さく構え過ぎた原発事故対応について、対応決定時から記録をもとに振り返る。
    特に、東電が事故時に参照すべき事故時運転操作手順書と、政府事故調調査報告を基に振り返った、第7章、福島原発事故のレビューは圧巻。まるで映画を見るような迫力。
    それにしても、事故時に、東電自ら作成した操作手順書を放棄してしまい事故拡大に至ってしまったとは。
    しかも政府事故調報告にしっかり書かれていたとは。
    うーむ、自分は読んでいるはずなのだが気付かなかった。
    要再読だな。

  • 東日本大震災

  • 東日本大震災について分析や提言を行うことは、非常に負担の大きな行為であると思う。震災から7年目に入っていながらまだ現在進行形の出来事であり、その内容以前にどのような立場で発言をするのかということを強く問われる課題であるからである。

    その中で、本書は必ずしも現在の一般的な通説として捉えられていない方向性であっても、客観的な資料にあたり、冷静に分析し、真摯に主張をしている。

    いくつか印象に残ったが、1点目として、復興のための予算づけの根拠となった被害総額は、様々な政治的な背景を受けて肥大化し、結果として実態にそぐわない多くの公共事業が実施されたということを、経済学者として多くの定量的な指標にあたりながら示している。

    このことは、公共事業や予算の合理的な決定という観点からも問題であるが、それ以上に、東北地方の将来像がこのことによってゆがめられ、また今後数十年にわたって今回の公共事業で作られたインフラを支えていくことを強いられるという点で、問題があるのではないかと感じた。

    充実したインフラが整えられえた地域が必ずしも発展するわけではないことは、被災地に限らず地域経済について一般的にいえることでもあり、また外からの資本投下を必要とする産業(ハイテク産業、製造業など)一本槍の地域振興策が長期的に持続可能なのかには疑問を感じる。

    本来であれば、そうではない産業を振興するために予算が割かれるべきだったのではないかと思うが、過大な被害想定に基づいた土木・産業インフラ重視の予算措置が、今後の東北地方の将来の方向性を決めてしまったことについて、冷静に見直す必要があると思う。

    また、2点目に印象に残ったこととして、福島第一原子力発電所の事故についての分析が挙げられる。政府の事故調査委員会の報告書や東京電力のマニュアルを徹底的に読み込み、福島第一原子力発電所の事故は、津波が想定外の大きさであったがゆえに起こったことではなく、その後の全電源喪失という事態に対して、マニュアルに基づく適切な対応がとられなかったことの方が大きな要因であるということを述べている。逆に言えば、適切な対応がとられていれば、これほどの大規模な放射能汚染は起こらなかったということでもある。

    このことにしっかり目を向けないままに原子力発電所の再稼働などの議論をすることは、非常に危険であると思う。本来、原子力発電所を守るために必要なのは、電源喪失などの事態に至った場合でも核燃料を効果的に冷却し、冷温停止に持っていくための機能を維持することである。

    しかし、津波が主要因だという理解に立てば、津波を防ぐことにだけ注意が向けられてしまう。現在の再稼働に関する議論を見ても、津波や地震の想定が適切かということは議論されているが、炉心を冷温停止状態に持っていくためにとられるべき原子力発電所の操作・危機管理体制については、どの程度議論がされているのかあまり報道がなされていない。

    社会の中での論調に左右されることなく、客観的な資料の分析を積み重ねることで議論をするということがどのようなことか、形で示してくれる本であると感じた。

  • 東日本大震災の復興、原発事故の対処について、客観的なデータに基づいて分析した良書。
    「東北の復興なくして日本の再生なし」。キャッチフレーズとしてはよかったかもしれない。被災者や被害地域を思えば情緒的になるのはもっとも。
    しかし、その場の空気に包まれ、集団催眠にかかりがちな我々日本人に対し、エビデンスベースで客観的な分析、判断こそが必要なのだと本書は訴える。

  • 震災復興予算の過大見積もり。
    原発事故発生時のマニュアルを無視した対応。
    こうした事実をもっと一般に認識してもらう事が、本当にこの震災の教訓を次に活かす事に繋がるのだと思う。震災の被害ばかり追いかけるマスコミもレベルが低いし、われわれ市民ももっと何が起き、どうすべきであったのかについて、真剣に向き合うべきである。被災者に寄り添う事も大事だが、だからと言ってタブー視してはならない。

  • 意見に同意するかどうかは別として、一つ一つの出典にあたりなおしてこの本と格闘するひとがいたら、かなりだと思う。追っかけられる状態になっていること自体がすごい。科研費なくてはここまではできないのだろうなあ。

  • 369.31||Sa

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著者プロフィール

1960年愛知県生まれ。1983年京都大学経済学部卒業。1992年マサチューセッツ工科大学経済学部博士課程修了(Ph.D.)。住友信託銀行調査部、ブリティッシュコロンビア大学経済学部助教授、京都大学経済学部助教授、大阪大学経済学研究科助教授、一橋大学経済学研究科教授などを経て、2019年より名古屋大学大学院経済学研究科教授。
日本経済学会・石川賞(2007年)、全国銀行学術研究振興財団賞(2010年)、紫綬褒章(2014年春)。

著書
『新しいマクロ経済学』(有斐閣、1996年、新版2006年)
『金融技術の考え方・使い方』(有斐閣、2000年、日経・経済図書文化賞)
『資産価値とマクロ経済』(日本経済新聞出版社、2007年、毎日新聞社エコノミスト賞)
『原発危機の経済学』(日本評論社、2011年、石橋湛山賞)
『震災復興の政治経済学』(日本評論社、2015年)
『危機の領域』(勁草書房、2018年)
Strong Money Demand in Financing War and Peace(Springer, 2021年)他

「2023年 『財政規律とマクロ経済』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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