水俣病の科学 増補版

  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535584556

作品紹介・あらすじ

水俣病は、20世紀に起きた世界でも最大・最悪の公害事件です。水俣病事件に関する成書は数多く出版されています。その原因に関する研究は既に終わっていると思っていた方も多いかもしれませんが、事実は決してそうではないのです。何が原因でこの大惨事が起こったのか、その原因と連鎖の関係が科学的レベルでは全く未解明、謎に包まれたままなのです。著者たちは、この歴史的惨事を後世の教訓にするためには、事件の原因と因果の関係について、あいまいさやあやふやさのない科学的説明を残さねばと決心しました。昭電論文の虚偽を証明した補論を付す水俣病科学研究の記念碑的書。第55回毎日出版文化賞受賞作を改訂・増補。

感想・レビュー・書評

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  • 2009/05/29読了

  • 化学の素地はないけどとても面白かった。サスペンス映画を見ているよう

  •  名著だと思います。システム工学の研究者が、無機水銀の有機化について、素人にもわかる、少々難しいですが、解説を書ききった功績は、大きいと思います。水俣汚染の真相を「サイエンス」と「日本近代史」の二つの局面から鮮やかに描いています。
     朝鮮支配の構造を、自国でやればこんなことが起こる。朝鮮でやったことは「ほったらかし」ですが、現地ではきっと被害者がいるに違いないと予想させます。
     追記2022・06・28
     原一雄監督の「水俣曼荼羅」を見て思い出しました。映画では「病像論」の新しい展開がスリリングに描かれていましたが、本書のような研究も大切だと実感しました。

  • 図書館

  • 519.2-ニシ  300158557

  • (2011.09.01読了)(2011.08.07借入)
    先日読んだ「ほんとうの復興」池田清彦・養老孟司著、の中で紹介されていたので、興味を持ち、図書館で検索したらあったので、借りて読んでみました。
    大学の教科書のサイズで、380頁ほどあるので、持ち歩いて読むにはちょっと重たい本でしたが、通勤の行き帰りで読みました。
    かつて公害問題というのがあり、環境を扱う役所ができ、公害問題がだいぶ下火になったように思います。公害問題華やかなりしころ、もっと公害に関する本を読むべきだったかもしれませんが、ほとんど読まずに来てしまいました。遅ればせながらの公害に関する本ということになります。

    水俣病の原因は、チッソ水俣工場から排出されたメチル水銀による中毒によるもの、ということで、裁判は終わったのですが、どうしてメチル水銀が発生したのか、アセトアルデヒドを生産していたのは、チッソだけではないのに、なぜチッソでだけ問題が発生したのか、というところは明確になっていなかった、ということです。
    この本は、これらの謎を解いたということです。
    いわば、ノンフィクション・ミステリーの本ということになります。
    事実は、小説よりも奇なり、という言葉がありますが、ノンフィクションのすごさは、世の中に実際にあったことであり、自然現象の不思議、化学現象の不思議、未知のことが解明される感動であったり、というところにあるのかもしれません。
    正当な学者は、企業犯罪がらみの研究には手を出さないのが不文律なのだそうで、この本の著者も、定年を過ぎてから、メチル水銀発生のメカニズムの解明に挑んだということです。
    自由主義経済というのも、不自由主義経済というのも、お金をたくさん扱う人たちの不利益になることには、風当たりが強い、場合によっては、地位を追われたり、命の保証がないということのようです。

    章立ては以下の通りです。
    序章、解かれなかった謎
    第一章、水俣のチッソのアセトアルデヒド工場
    第二章、海のメチル水銀汚染
    第三章、メチル水銀の生成から排出まで

    ●奇怪な病気(13頁)
    最初の急性激症型患者が発生したのは1953年末です。そして、これが全く新しい「奇怪な病気」と医者に認知されたのは56年4月です。
    発見された奇病は伝染病ではないかと疑われ、患者の一部は、1956年7月、水俣市伝染病隔離病舎に収容されました。
    1956年11月には、熊本大学医学部水俣病研究班によって、伝染病患者ではなく、ある種の重金属中毒であり、人体への侵入は水俣湾の魚介類によることが確認されました。
    1959年7月、熊本大学の研究者たちは、メチル水銀中毒に間違いないと確信し、公表に踏み切りました。(有機水銀という言葉を使ったそうです)
    1963年2月、熊本大学研究班は「原因は水俣湾産魚介類を摂取して発症、毒物はメチル水銀化合物」と正式に発表しました。
    1968年9月26日、政府は水俣病についての正式見解を発表、熊本地方で発生した水俣病の原因は、チッソ水俣工場アセトアルデヒド設備内で生成されたメチル水銀化合物と断定したのです。
    ●未解明な謎(19頁)
    無機水銀を触媒として用い、アセチレンからアセトアルデヒドを合成する際に、メチル水銀が副成する「生成機構」が未解明です。どのような中間の反応を経て無機水銀がメチル水銀になるのが、という仕組みが全く分かっていません。
    1932年から水俣でアセトアルデヒドをつくってきたのに「なぜ1954年に至って」水俣病が多発したのか、アセトアルデヒドをつくっている工場はたくさんあるのに「なぜ水俣だけが」という疑問が解明されないまま謎として残りました。
    ●高価な水銀を工場外に排出することはない(72頁)
    1959年にアセトアルデヒド工場で使われた水銀量は132トンで、そのうち回収されたのは100トンでした。差引32トンもの大量の水銀が工場から流出したのです。
    ●メチル水銀だけがなぜ(226頁)
    水銀自身も水銀を含んだ化合物もたとえ摂取しても脳血液関門でチェックされて脳の中に入れません。メチル水銀だけは、この関門をすり抜けて脳の内部に入り込みます。メチル水銀は、母体に入ると、胎盤を通過して胎児の脳に蓄積されていきます。
    ●メチル水銀が脳神経を損傷する(226頁)
    細胞にはタンパク質が多量にあります。そのうちでもとくに大事なのはタンパク質をつくる機械にあたるリポゾームというタンパク質分子です。メチル水銀はこのリポゾームに取り付いて、タンパク質を作る機能を損傷し、タンパク質の生産を止めてしまうのです。
    特に視覚、聴覚、感覚、運動などに関係する部位が損傷を受けます。
    ●新潟水俣病(293頁)
    1965年6月、新潟大学医学部は、阿賀野川下流域に第二の水俣病である新潟水俣病が発生していると発表しました。阿賀野川の川魚を多食したことによるもので、犯人は上流にある昭和電工鹿瀬工場のアセトアルデヒド製造プラントであることが、裁判で争われたすえ確定しました。
    ●証拠湮滅(293頁)
    新潟大学医学部の発表後、昭和電工は素早く行動し、1965年1月に操業を停止したアセトアルデヒド製造プラントを直ちに解体撤去し、同時に全資料を焼却しました。そのやり方は、製造工程図すら残さないという徹底したもので、本社が指示したことが判明しています。
    ●武谷三男博士の「安全性の考え方」(323頁)
    「危険が証明されないものは安全」という考えは正しくなく、「安全が証明されないものは危険」
    ●わけを知りたい(330頁)
    「私の子供は、私の親は、私の連れ合いは、そして私自身は、チッソ水俣工場のどういう仕組みで水俣病にされ、殺されたり、これほどの苦しみを味わわされたりしなければならないのか。せめて、そのわけを知りたい」。
    (2011年9月3日・記)

  • 基礎プロジェクト 教科書

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