一流の狂気 : 心の病がリーダーを強くする

  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535984264

感想・レビュー・書評

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  • 不安神経症(全般性不安障碍)持ちとしては、とにかく全編が「あるある」の連続だった。
    …と書くと、「既知外が驕りやがって」と憤慨する健常者の方がいらっしゃるかもしれないから言っておく。私が本書で「あるある」と膝を打ったのは、チャーチルやリンカーンは精神病患者だったからこそ「成功した」ではなく、チャーチルやリンカーンは精神病患者だったからこそ「残酷な現実を現実として捉えていた」という部分である。成功はその結果として、彼らの認識・判断と外的条件がたまたまうまく噛み合ったからにすぎない。
    というか、本書は「狂人を持ち上げる本」では断じてない。精神疾患にロマンティシズムを見るような態度には、私は全力で反対するものである(なんせ実害を蒙る)。本書が言うのは、「チャーチルやリンカーンは鬱病患者で、(異常時の残酷な)現実を現実としてありのままに見る『ことしかできなかった』(健康的な楽観や逃避ができなかった)から、現実に即した判断を下した」という、ただそれだけのことである。「躁病のゆえに濫費した」と「鬱病のゆえに現実をそのまま見ていた」というのは、文脈においてまったく同一である。

    鬱とは妄想ではない。現実を現実として、(健康的な)逃避をいっさい排してありのまま見るからこそ、人は鬱に陥るのである。たとえば、鬱の人間は常に死の影に囚われているが、では死なない人間というものがいまだかつてひとりでもありえただろうか?
    人はみな、ひとりの例外もなく、死ぬのである。ならば、その「当然の未来」が本当の間近に迫るまで、あたかも無きものがごとくにあえて振る舞っている健常人は、その精神がより鬱的でない(健康である)という点では確かに紛れもないが、その認知は数学的な意味で「正しい」と言いえるであろうか?
    そのほうがより健全に、幸福に、活気に満ちて過ごせるという意味では、のべつまくなし死についてくよくよ考えないという態度は「正しい」。しかし、死はいずれ万人に必ず訪れるという厳然たる事実を観点に置くと、「私なんだか死なないような気がするんですよ」というような態度は、「正しい」とは言えないだろう。そういう意味で、鬱は妄想=第三者にはけして共有されない非合理的な想念ではないのである。

    誰それは鬱だからこそ成功したんだ、とか、だから精神疾患をひたすら悪のように見るのはよくない、とかいったことは、個人的には言ってみればどうでもいい。神経症的なパーソナリティ特質(3歳までに固まり、終生変わることのない性格上の傾向のうち、精神疾患と呼ぶほどではないもの)を持つ私としては、もの心ついてこのかた悩まされてきた「私なるもの」をこうまではっきりと明快に説明してくれた時点で、本書は万金にも優る。
    巷間のレビューを見ると、本書の論理には「賛否両論」があるらしい。世の多数を占める健常な人々には、腑に落ちないところがあるのだろうか。だとすれば、精神疾患やパーソナリティ特質を持った人たちにはどうなのか、ぜひとも聞いてみたいと思った。

    2016/4/20~4/26読了

  • 偉大なリーダーには、躁うつ病などのメンタルヘルス不調があったことが明らかになった。すなわち、メンタルヘルスが良好な人が優れたリーダーになるというよりは、メンタル不調を抱えながらもそれを抱えながらも職務に取り組んだ人間こそが、偉大なリーダとなったのだ。

    本書では人間誰しも精神的な異常さは抱えており、その程度の問題である。
    メンタルヘルス不調であることにレッテルを貼るのではなく、メンタルヘルス不調が優れたリーダーの素質を産むこともある。

  • 全て読み終わる前に2020年4月20日にメルカリにて売却。もう一度読みたいと思わせるような内容だが、少々学術的であり、かつ文章も難解。 障害を社会構築主義(Socially Constructed Disability)として見る観点や、安定期でない現在において平時の運営を望むリーダーよりも何かしらのマイナスからスタートして改善を望むリーダーの方が良い、というのがメインの内容だと推測した。

  • ふむ

  • 訳者あとがきを読み、本書では躁鬱とうつが同列に扱われていることを知り、まずは、イントロのうつの部分とエンパシーで扱われているガンディとキングのみ読む。二人の人物の発言は、鬱の私にとっては迫真すぎて言葉を失う。鬱が生み出した偉人と捉えるとあまりに合点がいく。

    ・抑うつリアリズム仮説
    ・empathy という単語は1910年に作られた
    ・うつ病の重症度とエンパシー尺度は比例する
    ・不正義に対して暴力をもって報復するのは自然な反応

  • 心理

  • 一流の狂気:心の病がリーダーを強くする。ナシア・ガミー先生の著書。歴史上の偉大なリーダーたちは必ずしも正常ではなく、鬱病や躁病といった精神の病を抱え、精神疾患と闘いながら人々を導いていたなんて驚き。心の病、精神疾患は強い武器や長所になることもある。平穏時と危機時ではリーダーに求められる能力は異なり、危機時には一流の狂気を持つリーダーならではの決断力や行動力が要求される。今の日本は平穏時と危機時、どちらなのでしょうね。

  • 受験がラストスパートはいる前に読み終えたい
    →読み終わった!!

    比較的信用できる本だと思う。
    全てが事実ではなくても、そのような傾向はあるだろうな

    リアリズム
    クリエイティブ
    レジリエンス
    エンパシー

    私も精神病だからそういうの持ってるのかな、少しでも
    だとしたらちょっと嬉しいなあ

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:493.7||G
    資料ID:95160340

  • 400ページ余りの大著ではあるが、面白く読める本である。訳もこなれていて読みやすい。危機の時代には精神疾患を持つものが、偉大なリーダーシップを発揮するとして、例として、シャーマン、リンカン、ガンディー、チャーチル、ケネディ、ヒトラーを挙げる。一方、ホモクリット(平凡人)は危機の時にリーダーとしての能力を発揮できないとして、例としてブッシュとブレアを挙げる。気分障害の薬理学が専門の著者であることもあり、精神疾患は気分障害に限定されるのは少し残念。またその立場は気分障害をスペクトラムとして捉える立場のため、少し違和感を感じる部分もある。偉大なリーダーが精神疾患を持つということが有利に働くということを示すことが偏見克服にも繋がる事も含めて述べている。ただ精神疾患への対処法が間違っていると、社会に対する影響は大きくなる例として、ケネディとヒトラーについて書いているのは本書の最も面白く読めた部分だった。

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著者プロフィール

イラン生まれ。タフツ医療センター精神医学教室教授。医学博士。双極性障害(躁うつ病)、不安障害の臨床研究を専門とするが、哲学、公衆衛生学にも造詣が深い。2001年には哲学の修士号(タフツ大学)を取得。

「2020年 『現代精神医学原論 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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