会社法・租税法からアプローチする 非上場株式評価の実務

著者 :
  • 日本法令
4.33
  • (2)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 20
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784539726105

作品紹介・あらすじ

非上場株式の評価は、会計士・税理士業務の中でも最難関の実務だ。
相続・贈与時の評価なのか、譲渡時の評価なのか、株式の取得者は同族株主か、
それとも少数株主なのか、あるいは発行会社による自己株式取得なのか。
株式が移転する原因や目的によって、評価は変動する。

本書では、会社法を中心とした場面と租税法を中心とした場面から、
取引パターンごとの非上場株式評価の基礎理論と多くの実例から
評価実務のエッセンスを抽出し、評価のメカニズムを解明していく。


目次

第1章 企業価値評価ガイドライン
第2章 会社法における非上場株式の評価
第3章 租税法における非上場株式の評価
第4章 会社法と租税法の両面からの実務的検討
第5章 その他の論点

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 体系的に整理されており、非常に参考になります。

  • 本書は佐藤会計士が博士号を取得した際の論文を元に書籍化されている。世の中に出回る会社法該当判例、株式評価、M &A、事業承継がらみの文献を引用・参考書籍としており、大変な意欲作と感じた。本書を読めば、税務上、民事上の株価算定に関する論点を網羅的に理解できそうだ。資産税実務に携わる方には一読をお勧めしたい。
    P30
    (3)国税庁方式の問題点
    後述するように、かつては国税庁方式を採用した裁判例も多かったが、現在ではほとんど採用されていない。そして、M&AやFASの専門家の中でも、財産評価基本通達で適正な評価額が算定できると考えている者はほとんどいないと思われる。特に、特例的評価方式は実際配当還元法に近い評価方法となっているが、配当をほとんど行っていない場合には、1株当たりの資本金等の額の2分の1の金額というきわめて低い評価額になるという問題がある※21。
    それでは、原則的評価方式であれば、支配株主にとっての株式価値を算定するための合理的な手法と認められるのかといえば、純資産価額方式において、不良債権であっても、法的整理等に至らない場合には、券面額で評価がなされたり (財基通204, 205)、賞与引当金、退職給付引当金、債務保証損失引当金のような負債性引当金の計上が認められなかったりするため(財基通186、相基通14-3)、そもそも合理的な時価であると考えることはできない。
    そして、類似業種比準方式についても、江頭憲治郎教授が、①類似業種を上場会社の中から選定することには相当な困難性がある、②簿価純資産価額を比較することに実質的な意味はないとして批判されている。このうち、前者の批判については、類似上場会社法にも存在する問題である。さらに、関俊彦教授も、簿価純資産価額の計算で時価を考慮していないことや、期間損益思考に基づく分類がされていないことを批判されている。そのほか、筆者の博士論文でも、①株式価値の引下げの容易性、②単体ベースの評価、③株価上昇時の歪みという問題を指摘させていただいた。
    このように、国税庁方式により会社法上の時価を算定することは困難であり、裁判例の傾向からしても、学説の傾向からしても、認められない可能性が高いと考えられる。

    ※21 久保田安彦「判批」商事法務2071号20頁(平成27年)参照。そのほか、江頭憲治「取引相場のない株式の評価」「会社法の基本問題」138-139頁(有斐閣、平成23年)では、①直前期末以前2年間という期間の根拠に必然性がない、②無配の期間につき2円50銭の配当を行ったものとする根拠も不明である、③割引率は経済情勢や会社の状態により異なるはずであるのに画一的に10%としているといった問題点を挙げられている。
    P143
    ③評釈
    このように、国側は、訴外B社及びC社が有するA社の議決権につきA社又は原告の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していたと主張した。そして、B社及びC社を法人税法施行令4条に規定する同族関係者に含めることにより、原告が取得した株式が「同族株主以外の株主等が取得した株式」に該当しなくなるため、それを理由として、原則的評価方式を適用しようとしたが、裁判所は国側の主張を認めなかった。
    「同一の内容の議決権を行使することに同意している者」という概念は、平成18年度税制改正及び平成17年会社法制定により、法人税法施行令4条6項及び会社法施行規則3条の2第3項2号イ(3)に導入された概念であるが、それよりも先に連結会計における連結の範囲の考え方において導入されていた(連結財務諸表に関する会計基準73), しかし、実際の運用としては、連結会計においても曖昧な概念であることから、実務でも悩ましい論点である。
    これに対し、本事件における国側の主張はかなり乱暴であり、原告どころか、発行法人であるA社の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していたという主張までしている。
    本事件は、本書校了段階における最新の事例であることから紹介せざるを得ない事件であったが、正直なところ、国側のオウンゴールの印象も あり、今後の実務での参考にすることはできないと思われる。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

公認会計士、税理士、博士(法学)。公認会計士・税理士佐藤信祐事務所所長。
平成11年朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入社。
平成13年公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現デロイトトーマツ税理士法人)入所。
平成17年税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業。
平成29年慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(博士(法学))

「2022年 『改訂版 みなし配当の税務』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐藤信祐の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×