ショーペンハウアー全集(全14巻別巻1・限定復刊・分売不可)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784560025581

感想・レビュー・書評

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  •  分売不可。初心者にとってもファンにとっても、この手の全集の購入は迷うところであろう。特にすでに全集以外でショーペンハウアーの著作を読んでいる読者にとっては、ダブるのを承知で高い買い物をする価値があるかどうか悩みどころである。だが結論から言えば、本全集は決して買って損はしない充実した内容であると思う。
     なるほど確かにショーペンハウアーの主著である『意志と表象としての世界(正篇)』は、西尾幹二の名訳が中公クラシックスで入手可能である。また『パルエルガ・ウント・パラリポメナ』の最大篇「処世術箴言」も、『幸福について』というタイトルで新潮文庫から出ておりこれまた橋本文夫による名訳である。だがそれを差し引いても、本全集にはファンにとって見逃せない著作が少なからず含まれている。
     例えば第5巻・第6巻・第7巻に収められている『意志と表象としての世界(続篇)』は、内容的には正篇とほとんど変わらないものの、晩年に書かれただけあってその成熟した文体はショーペンハウアーの哲学世界を正篇よりもはるかに明快に表現している。特に第7巻冒頭の「死について……」と題された章は、二十世紀の文豪トーマス・マンが『ブッデンブローク家の人びと』のクライマックスで取り上げた有名な箇所でもある。
     また第9巻『倫理学の二つの根本問題』に併録されている「意志の自由について」と「道徳の基礎について」は、ショーペンハウアーの全著作の中でも最も重要な論文であろう。「行為に自由はないが存在には自由がある」と説く前者と「道徳の根拠とは同情である」と結論づける後者には賛否両論あるだろうが、現代においてもその輝きを全く失っていない。ハイデッガーも『存在と時間』の中で、ショーペンハウアーの良心論をヘーゲル、カント、ニーチェのそれと並び注目すべきものの一つとして挙げている。
     さらに別巻も見逃せない。ショーペンハウアーに関する論文が収められている同巻の目玉は、やはりニーチェの『教育者としてのショーペンハウアー』とトーマス・マンの『ショーペンハウアー』であろう。またヴィルヘルム・グヴィナーによる『身近に接したショーパンハウアー』は、ショーペンハウアーの側近によって書かれた伝記として歴史的価値も高く、後年書かれた幾多のショーペンハウアー伝が足元にも及ばないリアリティにあふれている。
     ショーペンハウアー全集はドイツ本国を除けばロシアと日本以外にはない。大部であり高価でもあるので初心者にはお薦めできないものの、すでにショーペンハウアーの著作に親しんでおりもっと読みたいという読者に対しては自信を持ってお薦めできる。一生の宝物となる全集であり、白水社の偉業に拍手を送りたい。

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