チボー家の人々 第1巻

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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560042014

感想・レビュー・書評

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  • いきなりのわたくしごとですが、先月、父の容体が悪いと連絡があり、ワクチンも無事打ち終わったので今年初めて帰省しました。幸い父は今すぐどうこうということはなく、実家でヒマだったので母の本棚から、ずっと読もうと思いながらも長編なので手を出せずにいたチボー家を引っ張り出しチャレンジすることに。私が生まれる前の刊行、すっかり黄ばんだ5冊組。箱入り単行本だけど1964年の何刷目かで1冊350円。2021年現在、文庫本ですら350円ではほぼ買えないよなあと物価の違いにしみじみしつつ。

    さてチボー家。「~人々」とタイトルにあるくらいなので大勢いるのかと思いきや、意外にも父チボー氏、長男アントワーヌ、次男ジャックの三人のみ。父チボー氏は地元の有力者で敬虔なカトリック。アントワーヌは物語開始時点では23歳くらい、小児科のお医者さん。ジャックはアントワーヌより9歳年下の14歳。母はジャックを産んだときに亡くなり、家事は《おばさん》と呼ばれている母を育てた女性が取り仕切っており、この《おばさん》は姪っ子ジゼールを養育中。

    第一部『灰色のノート』は、次男ジャックの家出からスタート。中2まっさかりのジャックは感受性の強い繊細で芸術家気質の少年で、大人たちは彼に手を焼いている。ジャックにはダニエルという親友がおり、ジャックはタイトルにもなっている「灰色のノート(=ダニエルとの交換日記的なもの)」を所持していたが、これが教師にみつかり、二人はどうやら同性愛を疑われてしまう。自棄を起こしたジャックとダニエルは一緒に家出。マルセイユから船に乗ってアフリカに渡る計画を立てるが、いかんせん子供二人、宿泊場所にも四苦八苦し、計画は頓挫。

    ちなみにジャックとダニエルは、ギムナジウム的親密さはあるものの、読み進めていくにつれて全然そういう関係ではないことがわかってくる(ちぇっ、期待したのに←こら)。二人の関係はあくまであの年頃にありがちな親友依存で、精神的なもの。それが証拠に、マルセイユではぐれた隙にダニエルのほうは女性経験をさっさとすませてしまう(笑)

    さてその頃、チボー家では、ジャックの非行と家出を知らされた兄アントワーヌが、弟のツレであるところのダニエルの家を訪問。このダニエル一家が実はチボー家以上に複雑。ダニエルの母フォンタナン夫人テレーズは大変聡明な女性で、アントワーヌとも意気投合するが、彼女の良人でありダニエルの父であるジェロームという男がとんでもない女好き。どうやらこれまでにもさんざん浮気、テレーズは苦労してきたが、今回はなんと妻のいとこであるノエミという女性とデキてしまいもう何週間も帰ってこない。その間にダニエルの妹であるジェンニーが病気になり、テレーズは恥を忍んで夫を取り返しにノエミのもとに乗り込むが、なんと、すでにノエミすら捨てて夫はその女中と行方をくらました後。ジェンニーも寝込んだまま、ダニエルまで家出して、フォンタナン夫人は途方に暮れていたところへアントワーヌの訪問となったわけですね。

    まあそんなこんなで色々ありつつ、結局ジャックとダニエルは警官に見つかり補導されて、アントワーヌが迎えに行き、パリに連れ戻す。チボー氏は、ダニエルのフォンタナン家がプロテスタントであることも気に入らず、ジャックに二度とダニエルと連絡を取らないよう言い渡す。

    そして第二部『少年園』では、なんとジャックは父の経営する感化院に放り込まれており、すでに九か月が過ぎている。アントワーヌは弟が心配になり、父に内緒で感化院を訪問。ジャックは、監視された生活、意地汚い大人たちに囲まれて洗脳されたような状態になっており、すっかり無気力に。アントワーヌは父を説得し、自分が責任を持ってジャックと一緒に暮らすという条件で、ジャックを感化院から救出する。お兄ちゃん…!!

    その頃ダニエルのフォンタナン家には、ニコルという少女が転がり込んでくる。このニコル、ジェロームの浮気相手だったノエミの前夫との娘で、ノエミが新しい男とあちこち旅に出かけ、さらにジェロームともよりを戻したりと奔放な生活を続けることに愛想をつかし逃げてきたという。フォンタナン夫人は夫の浮気相手の娘であるにも関わらず、ニコルを家に置いてやることにする。そしてダニエルは、このニコルに夢中に。

    パリの家に戻りアントワーヌと暮らし始めたジャックはしかしまだ無気力で心を閉ざしたまま。アントワーヌは父に内緒で、ジャックをフォンタナン家に連れてゆき、ダニエルとジャックは再会するが、どうもしっくりいかない。ジャックは、家政婦のフリューリンクばあさんの孫娘リスベットに恋をする。

    第三部『美しい季節』(1巻では途中まで)では、6年ばかりワープ、二十歳になったジャックは、高等師範学校に合格し、すっかり更生したように見える。ダニエルとの友情も復活、一緒に飲み歩いたりしているが、ダニエルは父親の女好きの血を引いたのか、どうも女性関係にだらしがない。ニコルには振られて諦めたが、今度はいきつけの「パクメルの店」のリネットという女性に夢中に。しかし相手はつれない(のちに、なんとこのリネットもまた、かつてダニエルの父ジェロームの愛人だったことが判明。ジェローム…)

    アントワーヌは、父の秘書であるシャール氏の家にいるデデットという少女が交通事故にあったため治療に駆けつけるが、そのとき手伝いに来てくれた近所のラシェルという女性と知り合う。アントワーヌはまあ大人なのでそれなりに色んな女性と経験もしているが決まった恋人はいなかったのだけど、このラシェルにすっかり夢中になってしまう。

    一方ジャックは、妹のようなジゼールの無邪気さに癒されたりしつつ、ダニエルの妹ジェンニーが気になって仕方ない。しかしジェンニーはなんというかちょっと難しい娘さんで、なかなか素直になってくれない。それぞれの恋模様は…(つづく)

    全体的に、チボー一家の三人はけして不仲ではないけれど、強く結びついた家族ではない。絶対的支配者である父親に対して兄弟は冷淡だし、万年反抗期のジャックに較べて優等生キャラのアントワーヌですら、父親を心から尊敬はしていない。アントワーヌは弟には優しいが、かといって兄弟ラブラブというわけではなく、アントワーヌはそういう自分に満足を覚えるタイプとして描かれているし、ジャックはジャックで、兄に全面的な信頼を寄せているわけではない。全員がそれぞれちぐはぐ。

    一方ダニエルのほうはわりと陽気だけど、いかんせん父親がとんでもないダメンズで、ある意味この父ジェロームが一番強烈なキャラ(笑)どんだけあちこちに愛人いるんだよという。そしてダニエルもそんな父親にちょっと似て来てるし、妹ジェンニーは、そんな父と兄を傍目に育ってもしかして男性不信なのかもと思ってしまう。さてこの先どうなることやら。

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