- Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560083819
感想・レビュー・書評
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35年間、アスター子爵の夫人に仕えたメイドの手記。
面白すぎてビックリするぐらい。
時代色たっぷりで、貴重な証言ともなっています。
「ダウントン・アビー」がお好きなら、楽しめますよ。
ローズは、石工の父と洗濯メイドの母との間に生まれた。
旅行をしたいという夢があり、それを聞いた母がお屋敷の奥様付きのメイドになるように勧め、そのために普通の庶民の女の子よりも長く教育を受けさせる。
当時の召使の仕事は完全な分業で、屋敷には多くの人々がまるでホテルの従業員のように働いていた。
奥様付きになるには縫い物や服の手入れから、フランス語や上品な立ち居振る舞いなども必要だったのですね。
ローズは働き者で、縫い物の腕も確か。
女主人のレディ・アスターは社交界の花形で、なんとイギリス初の女性議員という有名人。
アメリカ生まれで才気煥発、気まぐれで次々にメイドを首にしていました。かなりやりにくい女主人だったのです。
最初は振り回されてローズも一度はやめそうになりますが、黙って言いなりになっているのが悪かったと気づきます。
そこから、女主人との(いちおうの礼儀は守りつつも)丁々発止のやり取りをする関係に。
気の強いレディ・アスターは、じつは言い返してくるぐらいの相手のほうが好きだったんですね。
夫の子爵も実はアメリカ生まれだけどイギリスで教育を受けた穏やかで完璧なイギリス紳士。その旦那さまが隣室の壁際で二人のやり取りを面白がって聞いていたという。
好敵手のようだった二人は互いに理解しあい、家族のような関係に。
仕事に誇りを持つローズはかっこいい。
最後はほろっとさせられます。
このレディ・アスターが毎週末に盛大なパーティを開いていたのはクリヴデンという屋敷。
屋敷を取り仕切る執事も、すばらしい執事として有名だったという。
クリヴデンって、ひそかにナチス・ドイツに共感している人物が集まっているのではないかと新聞に書きたてられたこともある歴史上有名な建物。実際どうだったのか証明はされていないようで濡れ衣説もあり、アメリカ生まれで歯に衣着せぬレディ・アスターへの反感からのような気もしますね。
そこの高名な執事って、つまり「日の名残り」のモデルって事じゃないですか!
これにはびっくりでした。
お屋敷の階級性などは伝統が大事にされ、おそらくずいぶん昔からあまり変わっていなかったと思われます。
20世紀前半の話というのに驚きますね。
戦勝国イギリスでも、戦後にもろもろの事情や法律が変わっていくという時代の流れはあったのですね。
今でも王制はあり、貴族もいるけれど‥
こんな昔かたぎのメイドさんはなかなか、いないんでしょうね☆詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本、とってもとっても面白くって
せっせせっせと読んでしまった。
発売当初、新聞の書評かどこかで
「へぇ~、面白そうな本がでたんだね」と思ったのに、
そのままになってしまっていた。
この度、何かの拍子にAmazonさんが、
「あなたこんな本、好きでしょう」と教えてくれたので
図書館で取り寄せて読んでみた。
そうしたら、おお!、監修をしてくださっている方は
私が愛してやまない
「ジェイン・オースティンの手紙」を翻訳してくださった
恩人ではないですか!
その節は有難う存じます。
さてさて、内容はアスター子爵家の夫人の
お付きメイドとして35年間つとめた女性の
回想録。
とにかく辛辣でわがままで
自分勝手なアスター夫人、
なのでお付きのメイドが長続きしなかった、のに、
35年、ですから!
主従や雇用関係をこえた女主人とメイドの
丁々発止がたまらない!
言い合いと言っても、ユーモアと皮肉を織り交ぜて
いるから普通の喧嘩と違って
周りの人も面白かったんじゃないかな。
アスター子爵も二人が言い合いを始めると
隠れて聞いていて大笑いしていたとか。
そしてちょいちょい現れる執事のリー氏は
カズオイシグロの「日の名残り」の主人公の
モデルだそうで…。
リー氏その他アスター家に仕えた執事へ
こちらの筆者がインタビューした本も
最近出版されており(「わたしはこうして執事になった」)…。
とにかく次から次へ読みたい本があふれてきてとまりません!
筆者が冷静で、女主人をベタベタに褒めたり、
妙に良い話に持って行ったりしないから良かった。
また、アスター子爵をはじめ、子供たち、
お屋敷で働く同僚も、素敵なキャラクターが揃っている。
これを読んでいたら、「ハイジ」のなかで
クララのとこのゼバスチャンが
ハイジを助けてくれるところが
思い出されて、本をひっぱりだして読んだよ! -
実際のメイドの回想記ですから、見聞したところは間違いないのでしょうが、その場その場でメモを取っていたわけではなく、晩年になってからの執筆ですから、恐らく多分に思い込みや記憶違いも含まれているのではないでしょうか? ですから、歴史資料として読むぶんには注意が必要なのかもしれません。ですが、諸説として読めば、抜群に面白いです。気まぐれな主人に仕え、丁々発止やり合うメイドのローズ。この二人の絶妙な関係性が、とにもかくにも楽しいです。それにしても、こんな世界がつい数十年前まで存在していたとは。決してジェイン・オースティンの時代ではなく20世紀の話だというところが驚きです。
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俺(私)は従僕(メイド)じゃないんだから関係ない、という人は従僕やメイドを蔑視しています。彼ら彼女らは「正直と勤勉」で評価が決まる世界に生きた先達です。一度、この従僕やメイドの世界を読んでご覧になるとよろしい。仕事に誇りを持って働く人は美しいです。
で、パワハラ上司を持っている人には特にお奨めです。
「おだまり、ローズ」を連発するレディ・アスターに、ローズはどうして美点や愛情を見出せたのでしょう。そこが読みどころです。
美点も部下への愛情も全くない上司なら戦うか逃げるか早く決めた方が身のため。ローズの人間観察眼は現代でも時代遅れになっていないと思います。
念のため付け加えますが、ローズはおだまり、と言われて黙ってばかりいません。ローズが従順だけを善しとしていたなら「おだまり」は何回も発せられるはずがないのです。 -
イギリスの階級社会の一端を味わえる。大富豪アスター家に対する知識があればもっと理解できるのではないか。テレビ「ダウントン・アビー」をみているとイメージがわきやすい。
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子爵夫人付きのメイドのローズさんのクレバーでプロフェッショナルな活躍ぶりと、私にはまったく遠い遠いヨーロッパのお金持ちの世界に、ひたすら感心いたしました!
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旅行がしたい、とお付きメイドになったローズの回想録。目的意識があって、そのための準備も怠りない姿は、その後の、気まぐれで行動力ある強烈な個性のレディ・アスターとの丁々発止のやり取りにつながっている。仕事へのプライドが小気味好い。それはともに働いていた執事や従僕らにも見えて、そういった使用人に支えられて貴族の屋敷は回っていたことがよく分かる。
それにしても、仕事も社交もあり、旅行をして、屋敷をいくつも持ち、それぞれにいる使用人を使う貴族の姿は、目を見張らされる。