- Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560090824
作品紹介・あらすじ
語り手は古書店主の家に棲みついたヤモリ(前世はボルヘス)。アンゴラの名手による、インディペンデント紙外国小説最優秀作品賞受賞作
感想・レビュー・書評
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舞台はアフリカのアンゴラの首都ルアンダ。語り手はなんと前世が人間の一匹のヤモリである。
ヤモリは過去を売る男ーアルビノの黒人、フェリックス・ヴェントゥーラの家に住みつき、彼とは親友だった。フェリックスもヤモリに話しかけながら暮らしていた。そこにジョゼ・ブッフマンという白人の男が自分の過去を作って欲しいとやって来て…
時折ヤモリの夢の内容が挿入されたり、ユーモアたっぷりで、なんだかうっすら夢見心地でアンゴラの様子をヤモリの目を通してみているような感じだが、事態は急展開を迎える。その瞬間から、まるで目が覚めたようだ。
急に革命や内戦などの血生臭さと痛みを突きつけられ、ハッとさせられる。
不可思議ながらも読みやすく、心地よく読めた。
読み返すと考察のしがいのある作品かもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
内戦終結直後のアンゴラの首都ルアンダを舞台にした「記憶」を巡る物語。
語り手は一匹のヤモリ。前世は人間で、その記憶がある。新興富裕層に過去を作る仕事をしているフェリックスの家に棲みつき、彼の生活を観察している。
軽妙なユーモア(といっていいだろうか)が魅力的。哲学するヤモリがいい。
そして、終盤では、登場人物の抱える過去、その関係があきらかになり、内戦の傷跡、重みがぐっとくる。
「忘却についての一般論」もよかったし、他の作品もぜひ読みたい。 -
夢と現実の境い目、うそとまことのさかいめ
人だけでなく、国も町も草花さえも……。
物語はフェリックスの家にいる一匹のヤモリの視点で語られる。また、ヤモリの一人称でも語る章もある。その様子は、どうやらタダのヤモリではなさそう……。
過去を新たに構成して物語のように作り欲する人に与えるフェリックスのもとへ、自分の名前と過去を新たに作ってもらった男が、ウソの過去を現実にたどる旅を語りにくる。
それを見つめるヤモリとフェリックスたちは、夢の中で対話する。
そして結末は……。
「夢を持つことと、夢を作ることは、少し違う。
そう、ぼくは夢を作ったんだ」
平凡な人間なんてひとりもいない。 -
「幸福とは、たいていの場合、無責任だ。わたしたちは、目を閉じているほんの数秒間は、いつも幸福なのだ。」
わたしの見た、もっとも美しい夢はなんだったろう。わたしの夢には言葉はほとんどでてこない。頭のなかや心にしばらく留まってくれるような素敵な言葉はなにも。もしかしたら、くすんだ桃色をした巨大な惑星がここ(あるいは地球?)にいまにも落ちてくる、というあの夢だったかもしれない。
口に出されて、表情で(あるいはわたしの心のなかで)、つねに叱咤されていたように覚えているのは、わたしの記憶のつくりだした幻影なのだろうか。ときどき夢で見たのか小説で読んだのか映画で見たことだったのか誰かの話だったのか実際に自分で見て聞いて体験したことなのか、よくわからなくなってしまうことがある。わたしはあの拒絶の記憶を、なにかちがうもので塗り替えたいのだろうか。日々新しい残酷な言葉が、またキャンバスを真っ黒に染めてゆく。わたしはじぶんでは描けないから。
もしも生まれ変われたとしたら、わたしもヤモリや蜥蜴になれたらとてもうれしい。暗がりを愛しぺったりと壁にはりついて、その定点から赤い日の入りをじっくりと眺める。アフリカの甘くねっとりとした陽光。いろんな場所の光の色彩と味。この本は、まさにそんなかんじ。奇妙でさびしくて、けれどとてもあったかい。
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書館の新着で見つけて何気に借りた本。アンゴラ文学を読むのは初めてだ。……というより、アンゴラってどこ?(笑)
そのアンゴラを舞台に、依頼者にまったく新しい“過去”を創り上げる商売をしているアルビノの黒人と、彼の家に棲み着いた1匹のヤモリが語る奇想天外な物語だ。
このヤモリ、人語を解するうえ笑うこともできる。あまつさえ、人の姿をとって夢の中に現れることもある。その正体は実は……。
アンゴラの地理や歴史をまったく知らないのでストーリーを追うことしかできなかったが、なんともいえない奇妙な世界を堪能した。 -
良かった。同じ作者の本を図書館で予約する位に良かった。(既読だった)
職業が過去(戸籍?)を売る男(アルビノの黒人)の家に暮らすヤモリが前世の人間の記憶を持っていて、そのヤモリが語り手。奇想天外な設定だが、特に本編には関係なく。
要するにあらすじとかどうでもいいんだよね。読者へのもてなし方なんだと思う。別に何か目玉になるような謳い文句があるわけじゃないけど、ふらっと入った店や宿が、理由もなく心地よく、ぜひまた来たい。そう思わせる力があるんだよねえ -
文学ラジオ第120回https://open.spotify.com/episode/6P8w7vobXMsXjcjBEdujmd?si=1491087b74d843a5
ユーモアが散りばめられているし、長い作品でもないので、海外文学を読みなれていない人でも読みやすい一冊だと思う。読んでいるとはっとさせられる文章も多く、この短い文章の中に、よくこんなにもウィットを詰め込むことができるなと驚嘆した。
アグアルーザは注目の作家。「忘却についての一般論」もよかったので今後も彼の作品が翻訳され続けて欲しい。
アグアルーザのストーリーは魅力的。戦争があって、貧しくて、ろくでもない世界かもしれないが、そこにユーモアが溢れていて、人物がやたらいきいきしている。アンゴラの作家というと日本から程遠く感じるかもしれないが、妙に愛着を持てる作品を書いているので、物語が好きな人は好きになると思う。 -
人は自分の過去を盛りがちだ。話しているうちに「盛った」内容が自分でも真実となり、過去の記憶が本当にあったことなのか、そうではないのかだんだんわからなくなってくる。
そういった「記憶」の曖昧さと、「記憶」と生活の相互作用がテーマなのかな、という感想を持った。
長い長い内戦終了後のアンゴラで新興富裕層のために過去や家系を「作成」するのを生業とするフェリックス。その家に住むヤモリが語り手だ。
「過去を作る」仕事とそれをヤモリの目から語る?その設定だけで面白そうと読み始めた。
とにかくリーダビリティが高い。どんどん話に引き込まれる。登場人物は4人と一匹。当初は互いに無関係そうだった4人の関係が最後にあきらかになる展開には息を呑む。そして誰かの転生後らしいヤモリの正体は、夢の中でのフェリックスとの会話や回想でなんとなくわかってくる(そうきたか!)。
最後まで一気に読んだ後、もう1度最初から読み直したくなる1冊。