鉱山のビッグバンド

著者 :
  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560092606

作品紹介・あらすじ

廃墟から聞こえる幻の楽団の響き
 梶田隆章のノーベル物理学賞受賞で湧く、岐阜県飛騨市神岡町にあるスーパーカミオカンデ。その1000メートル上には、かつて東洋一の採掘規模を誇り、同時に「イタイイタイ病」の原因企業ともなった三井金属神岡鉱山の集落が、廃墟となって静かに眠っている。
 昭和30年代、鉱山が好景気に沸き返っていたころ、この地区には約800世帯、4000人が暮らしていた。社宅にはテレビ、冷蔵庫、洗濯機はもちろん、水洗トイレまで完備されており、まさに「天空の楽園」だったという。
 あるときそこに、「音楽は好きだけれど、楽器もない、譜面も読めない」鉱山労働者たちが集まり、「神岡マイン・ニュー・アンサンブル」なるビッグバンドが結成された。三交代制のなか猛練習を重ね、彼らは集落の人々を楽しませるばかりでなく、企業の音楽部等がその実力を競う産業音楽祭中部大会で13回連続優秀賞受賞という大記録を打ち立て、東京でも公演を行う玄人はだしの集団となっていった。
 本書は廃墟の風景から聞こえてくる幻の音楽と彼らの熱い思いを、生存者への取材等から浮かび上がらせる、「昭和」のドキュメントである。

感想・レビュー・書評

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  • 昔、「神岡マイン・ニュー・アンサンブル」というバンドが、中部地方の音楽祭で13年連続優秀賞を獲得した。

    メンバーは鉱山で命の危険と背中合わせの中、真っ黒になって働く抗夫たち。

    自然発生的に坑内から出た「文化の芽」を、会社が水をやり、肥料を与え、やがて大きな花が咲いた。

    そして愛しく咲き誇る花が家族や地域の希望となり、「誇り」となった。

  • ビッグバンドのサウンドが、頭の中で鳴り響くよ。
    鉱山での重労働のあと各々でまた全体でも練習して厳しく音楽を作りあげ、クリスマスパーティやコンクールなどのここぞという時に白いスーツでバシッと決める。

    生まれ育った環境や時代、夢、仕事、怪我、日々の練習、恋愛…というそれぞれの人生が鳴り響く。
    これ映画に出来そう!したい!と思いながら読み進めると、最後になって、光だけでなく影についても言及され、筆の真摯を感じる。

    かつての栄華はなく今はもう寂れた静かな風景。
    でもそこには人々の喜びや情熱が確かにあったことが伝わってくる。

  • 読み終わって少し複雑な気持ち。光と影。国の繁栄とともに皆、懸命に働き、わずかな時間を惜しんで音楽を紡いてきた。アマチュアの世界でありながらプロの音楽家を驚かせるようなレベルの楽団に成長した。
     どっしりとした大企業がその活動を支えてきたのであった。それが思いもよらぬ、不幸な病を生みだしていたことに誰も気が付かなかったのである。
     厳しいヤマの仕事と心を潤す音楽活動。バランスのとれた社会生活であったはずなのに、 
     ビッグバンドの栄えある歴史とそのメンバーたちが土台とした鉱山の衰退は経済成長期の日本の綾なす紋様でもある。
     後半に不幸な公害が述べられてはいるが、ドキュメントは素晴らしく、読ませられた。

  • 書名を見たときに、すぐに
    イギリス映画「ブラス」を
    思い起こした

    もっと 炭鉱の生活に密着した
    もっと 一人一人を徹底して取材した
    もっと その時代のことを盛り込んだ
    もっと 人間の喜怒哀楽に添った
    一編の「昭和史」になっている

    いっとき 栄えたものが
    時代の波に飲み込まれて衰退していく
    その 有り様は 儚く美しい

    「ブラス」は映画として好きな作品の一つである
    そのモデルとなった炭鉱バンドは今も在る
    ここに書かれた
    ビッグバンド「神岡マイン・ニューアンサンブル」はもう無い
    それだけに
    その在りし日の栄光の姿が記憶に留められている
    貴重な労作である

    初めを「カミオカンデ」で書き出され
    栄光の「鉱山ビッグバンド」の軌跡が綴られ
    終わりに「イタイタイタ病」が紹介される
    その「光と影」の妙が胸に迫ってくる





     

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著者プロフィール

小田豊二(おだ・とよじ)
1945年、旧満州ハルビン生まれ。早稲田大学第一政経学部卒業。出版社、デザイン会社勤務を経て、故井上ひさし率いる劇団「こまつ座」創立に参加。機関誌「the座」元編集長。著書に『フォートンの国』(そしえて)、『聞く技術・書く技術』(PHP研究所)、『日曜日のハローワーク』(東京書籍)、『鉱山(ヤマ)のビックバンド』『初代「君が代」』(以上白水社)など。聞き書き作品に『勘九郎芝居ばなし』(朝日新聞社)、『のり平のパーッといきましょう』(小学館)、『どこかで誰かが見ていてくれる 日本一の斬られ役・福本清三』(集英社)など。

「2019年 『歌舞伎さんぽ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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