脳はいかにして〈神〉を見るか: 宗教体験のブレイン・サイエンス

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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569626857

作品紹介・あらすじ

祈りと座禅のピーク、神話誕生の瞬間、厳粛な儀式がもたらす効果…宗教のリアリティーを脳神経学が究明する。

感想・レビュー・書評

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  •  神秘体験は人以外の存在による救済か。それとも幻覚や妄想の産物か。
     条件さえ揃えば誰もが神秘体験ができるのか。
     脳の研究者二人が脳の分析や資料を渉猟して実感した、神秘体験の正体とは。
     神秘体験を肯定的に、脳神経学での読み解きを試みた論考書。

     我々の知覚、気分、経験等は全て、脳神経学的機構を基礎にしている。体験者の脳が正常でかつ体験者の談が嘘偽りでないならば、神秘体験もまた脳神経学の観点から読み解けるのではないか――。
     この仮説を検証するために著者らは脳の実験や機械測定、様々な資料を渉猟した。その結果、「ヒトの脳にはたしかにリアルなスピリチュアル体験をする能力が備わっていると確信した」(二三頁)。だが脳科学は未だ発展途上の分野である。ついに著者らは「(現在の)科学の限界に突き当たった」(二一五頁)。
     そのため、本書は神秘体験を完璧に科学的に解説しているわけでなく、その点では不満を感じる読者がいるかもしれない。だが科学が神秘体験を解明するまでに至る、道の途中に立てられた“道標”と考えれば、サイエンティストもスピリチュアリストも読むに値する本だと、私は思う。

     本書の中で、瞑想時の脳の活動状態の観察実験でわかった、被験者が瞑想がピークに達したと感じた時、どこの部位の活動が盛んになっているのかを解説しているのだが、別の本で、見えないもの(お化けとか妖怪とか幽霊とか)を視覚化させている部位についても同じ所を指している。そしてそこは空間と時間、自身と世界との境界を自覚する所でもある。
     より多方面から分析を試みていけば、神秘体験の解明はより進むかもしれない。

    ※併せて読んでみてほしい書籍
    ・『奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)』
    ・『一年は、なぜ年々速くなるのか (青春新書INTELLIGENCE)』
    ・『永久保貴一の封じられた霊能力 (ダイトコミックス 338)』

  • wired・科学・第6位

    mmsn01-

    【要約】


    【ノート】
    神秘体験を脳神経学的に測定可能な具象ととらえ、祈り、座禅、宗教儀式といた宗教体験を脳科学によって説明を試みた冒険的著作。翻訳は茂木健一郎。

    ◆ユーザーからのコメント
    宗教と科学の溝がうまる?

  •  著者たち(ニューバーグとダギリ)は脳神経学者。チベット仏教の瞑想を実践する人たちの脳内を「SPECT」(単一光子放射断層撮影)で撮影するなど、宗教体験に際して脳の中で何が起きているかを、実験で検証してきた。
     本書はその研究成果を、ジャーナリストであるローズの手を借りて一般書としてまとめたものである。

     原著が米国で刊行されたのは2001年であり、日進月歩の脳科学の世界では「一昔前」の本といえる。そのせいもあって、内容にも仮説の段階にとどまっている点が多い。
     本書刊行後12年間の研究の進展をまとめた続編が読みたいところだが、少なくとも邦訳は出ていないようだ。

     著者たちが拠って立つ仮説は、「神秘体験は幻覚ではなく、脳神経学的に測定可能な現象であり、宗教的体験は、ヒトの脳だけに組み込まれた先天的機能である」というもの。この仮説に沿って、古今の宗教者の神秘体験の“謎解き”がなされていく。

     “謎解き”の鍵となるのは、脳の「方向定位連合野」(体の空間的な位置把握を司る領域)の役割だ。
     さまざまな宗教的瞑想によって極度の集中状態になったとき、この領域への感覚入力が遮断される(求心路遮断)。
     方向定位連合野は、自分を空間内に位置づけて「自己」の感覚を作り出す役割をもつから、そこに情報が入らなくなると、自己と非自己の境界があいまいになる。そのことが、自分と世界が一体化する「絶対的合一」の感覚をもたらし、神秘体験として感じられるのではないか……ごくかんたんに端折って説明すれば、そういうこと。

     というと、「神なんかいない。それはごく普通の脳機能から説明できる『脳内現象』にすぎない」と主張する宗教否定の書のように思われるかもしれない。

     だが、そうではない。著者たちは、「聖書の中の創造主たる人格神」が「もはや合理的な思考とは相容れなくなってしまった」ことは認めているが、つづけて次のように言っているのだ。

    《われわれはまだ、高次の神秘的なリアリティーの概念を否定する根拠を、科学や理性の中に見出すには至っていないのだ。》

     そして著者は、宗教が果たしてきた役割について、科学の眼で考察していく。
     宗教的体験が「ヒトの脳だけに組み込まれた先天的機能」であるなら、なぜそのような機能が進化の中でもたらされたのか? それは「信仰を持つことや、信仰に基づく行動パターンが、ヒトに実際的な利益を与えてきたからだろう」というのが、著者の見立てである。
     「利益」とは、宗教をもつことによってヒトという種の「生存確率」が高まったということ。以下に引くのは、著者が挙げているその論拠の一例だ。

    《主な宗教を信仰している男女は、平均的な男女に比べて、脳卒中を起こす確率や心臓病の罹患率が低く、免疫系の機能が良好で、血圧が低いという研究結果がまとめられている。また、信仰が健康に及ぼす影響に関する一◯◯◯件以上の研究を検証したデューク大学医療センターのハロルド・コーニグ博士は、最近、『ニュー・リパブリック』誌上で、「信仰を持たないことが死亡率に及ぼす影響は、四十年間にわたって一日にタバコを一箱ずつ吸い続けることに匹敵する」と結論づけている。
    (中略)
     多くの研究により、信仰と良好な健康との関係は、生理機能だけではなく、精神衛生にも認められることが明らかになっている。つまり、信仰を持ち、それに従って生きることは、精神的・情緒的健康に資するらしいのだ。例えば、信仰を持つ人がドラッグを濫用するようになったり、アルコール中毒になったり、離婚したり、自殺したりする率は、一般の集団のそれに比べてはるかに低いことが分かっている。また、信仰に従って生きる人々は、憂鬱な気分に沈んだり、不安に悩まされたりすることが一般の人々に比べて非常に少なく、たとえそうなっても回復が早いことが分かっている。
    (中略)
     現代の精神医学者の大半は、一連の報告を驚きをもって聞いた。彼らは基本的にフロイトの流れをくんでいて、宗教的な行動のことを、良くても一種の依存状態、最悪の場合には病的状態と見なしていたからである。》

     この引用部分からわかるとおり、本書は宗教否定の書どころか、科学のメスを入れることで宗教のプラス面を改めて浮き彫りにした書なのである。

     なぜヒトは宗教を必要としたのか? そして21世紀のいまも必要としているのか? その答えを探った第6章「宗教の起源」が、私にはいちばんスリリングで面白かった。

     また、神秘体験をもたらす脳の神経学的機構が、「交尾やセックスに関する神経回路から進化してきた」と見る著者の仮説は、たいへん興味深い。

    《何よりも、神秘家たちがみずからの体験を表現するために選んだ「至福」「恍惚」「エクスタシー」「高揚」などの言葉が、この起源を暗示している。「この上ない一体感に我を忘れた」「高揚の中に溶け去った」「すべての望みが満たされたと感じた」などという彼らの証言が、性的な快感を表現する言葉でもあることは、偶然の一致ではないし、意外でもない。なぜなら、超越体験に関与する興奮系、抑制系、大脳辺縁系などの神経学的構造や経路は、基本的に、性的な絶頂と強烈なオルガスムの感覚とを結びつけるために進化してきたものであるからだ。》

     そういえば「法悦」なんて言葉もあるし、麻原彰晃が昔書いた本には「神秘体験は性体験よりも甘美だ」という一節があったという。 

  • 「宗教的神秘体験」は、著者が「方向定位連合野」と呼ぶ
    三次元的な身体感覚を作り出し空間内での身体の位置づけを
    行っている脳の領域が、感覚入力を遮られることにより
    ある意味暴走し、自己の境界を定められなくなることによって
    巨大なリアリティーとの合一を体験することとする前半部分
    は、とてもエキサイティングで楽しめる内容だった。この
    現実世界のリアルさも経験している脳の中での話であるの
    だから、宗教的神秘体験も同程度のリアルさを持っていても
    おかしくない、というのも納得出来るところだ。

     だが、後半、何となく神概念を弁護するような話の流れに
    なってくるとどうもいただけない。言いたいことはわかるし
    そう言わざるを得ない立場だろうということもわかるのだが
    そこは科学者がコメントしなくてもいい領域なのではないだ
    ろうか。

     人間の脳はもともと宗教的神秘体験を感じることができる
    ようにできている。それを鳥の翼になぞらえて説明している
    あたりに大きな可能性を感じるのだが。

  • 宗教そのものを「洗脳乙」という形で全否定するつもりは毛頭ないのですが、それでも、人間を呪縛したり、精神の奴隷化として機能するものは宗教をおいて右にでるものはない事実を否定することはできない。

    ただ、単なる「カルト」というレッテル張りで「OK」とすることにも異論があるのは事実だが、人間がどのように「隷属への道」をたどっていくのか……という意味では示唆に富む一冊。

    隷属へ進む人間精神の構造論を、形而上学的推論によって根拠づけることは可能だが、やはり限界があるし、形而下を自認してやまない心理学的還元主義のアプローチの「解釈」にもゆれはばが広すぎる。

    そう。

    そろそろ「魂」という怪しい概念で全てが説明できると考えることをセーブする必要があるのかもしれない。現実をひねって「物語」的歪曲を是としてしまうのは、ある程度は「脳の機能」ということだ。

    見えないものを見、信じる必要のないものを信じてしまうという報告を受け止めることは必要だと思う。

    発想を新鮮にしてくれる一冊。特に人文諸学の人間に読んで欲しい。


    ※ 大分前に読んだほうがいいよとすすめてもらっていた一冊ですが、読んで正解。
    ※ 余談ですが、そろそろ「魂」還元主義(による説明)を一端留保し、脳科学(機能の問題)+ゲーデル(理性の問題)+量子論(存在の問題)のアプローチをそろそろ机上にあげるべきですね。

  • やや現在では古いという印象を与える本ではあるけれども、趣旨である「神秘体験は脳の誤作動ではなく、むしろ主要な能力である」というメッセージは今でも鮮烈。

  • 求心路遮断(ヒトが浮くような液体に視覚も聴覚も遮断すること)の環境にあると幻を体験したりします。そのような環境にあるとき、脳はどのような活動をするのでしょうか?長時間お経をとなえたり、繰り返し同じ動作を続けたりして、同様の体験が幻覚を体験し宗教を感じます。そんな、脳の活動を解説しています。某宗教集団は、とてもよくここのあたりをわかっていて、長時間踊らせたり、独房にいれたりしてました。あらためて、宗教と脳の働きについてわかったような気になりました。ちょっとむずかしかったけどね・・・

  •  宗教的な神秘体験が側頭葉で起こっていることは、既に多くの脳科学本で指摘されている。てんかん患者と似た状態らしい。LSDを服用すると同様の体験ができるとも言われている。トリップ、旅、「そうだあの世へ行こう」JR。

     <a href="http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20090113/p1" target="_blank">http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20090113/p1</a>

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著者プロフィール

アンドリュー・ニューバーグ(Andrew Newberg)
1966年生まれ。
ハーバード大学で化学の学士取得後,ペンシルバニア大学医学部を卒業。内科学会専門医,核医学専門医取得後,霊的・宗教的現象の神経学的研究に従事した。
現在,トーマス・ジェファーソン大学放射線医学教授,および統合医療・栄養科学部門教授,マーカス統合医療研究所研究部長。
〈著書〉
Why God Won't Go Away: Brain Science and the Biology of Belief. New York:Ballantine, 2001(邦訳:茂木健一郎(監訳)木村俊雄(訳)『脳はいかにして〈神〉を見るか─宗教体験のブレイン・サイエンス PHP 研究所 2003年)
Brain Weaver: Creating the Fabric for a Healthy Mind through Integrative Medicine.Kales Press, 2021

「2023年 『神経神学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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