ガラスの海を渡る舟

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569850122

感想・レビュー・書評

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  • 燃えるような海を、自分を信じて進む。
    夜明けに息を吹きこんで、記憶を形に残す。
    これは、ガラスのようにきらめく美しい物語。

    主人公の二人の兄妹は、日々ぶつかり合って、長い歳月の中で、どこが強くてどこが脆いのか、互いに認め合いながら絆を深めていく。

    二人の関係性に入っていたヒビですら、光を受ければ、それはまるで美しい要素のひとつのように愛おしく思う。

    沈んだ心を掬いあげてくれる言葉の数々が、自分の欠けた部分を包むように反射して、なんにも上手くいかない自分を、そのまんま受け入れられるような気がしました。

    海を彷徨うような日々で、思うような場所にたどり着けなくても、心のままにくり返して積み重ねて、いつだって前を向いて自分を信じてあげよう。
    そんな風に思えました。

  • 「愛すべき、だって兄妹なんだから」
    舟を漕ぎだした兄とガラスの中に佇む妹。

    祖父のガラス工房を継ぐことになった兄の道は発達障害(未診断)で人の気持ちが分からず、人とのやり取りが下手、実生活でも様々な困難がある、妹のことが苦手。でも才能に恵まれる。妹の羽衣子はしっかりしているところと純真なところが混じった普通の子、そして兄のことが大嫌い。

    道と羽衣子は言い争ったり折り合いをつけたりしながら寄り添うことを覚えていく。家族の中での自分をそれぞれ見つけてこのままで大丈夫と、さらなる未来に向かっていく。

    難しい話ではなかったので10代の子にも読んでほしい。

    初めて#NetGalleyJPを利用しました。

    https://www.netgalley.jp/book/232419/review/798056

  • ホッとした優しい気持ちが伝わってくる内容でした。
    それぞれの生き方を受け入れて認め合うことで、皆が幸せになれるのだと思いました

  • 人と違っているという道の個性の話は、道の才能と羽衣子の努力であったり、まことくんと茂木くんは別人であることであったり、葉山さんの知人と道も別人であることだったりと、1人として同じ人はいないと色々な箇所で書かれている。羽衣子の悩みを道が勇気づけてくれたように、道の背中を羽衣子が押したのは素敵だった。

    わたしたちは広い海に浮かぶちっぽけな一艘の舟のように頼りない。それでもまずは漕ぎ出さねば、海を渡り切ることはできない。

  • 兄の道と、妹の羽衣子。
    特別になりたい羽衣子、普通がわからない道。
    そんな2人がガラス工房を営み、そこに訪れるお客様からの要望に、それぞれの価値観を持つ。
    はじめはお互いの考えこそ理解できずに反発してしまう様子も描かれている。
    しかし、羽衣子と道の親戚、それぞれの友人、恋人など、本人を取り巻く関係性で生み出された絶望的な感情から、救いの手を差し伸べるのは、やっぱりお互いの兄妹だった。

    作中で、“普通がわからない”道は、羽衣子の“含みのある”表現に対し、言葉通りに受け取る。多様な児童生徒がいる教育現場で起こりうるような噛み合わなさがしっかり表現されているような気もした。“特別”とは何かも考えさせられた。

    個人的に、“世間の当たり前”に疑問符がつけられる道の発言に、羽衣子が憤ったり、呆れたり、またある場面で救われたりするたびに、お互いの立場が変化して行く様子を見取るのが楽しかった。

    心地よく読み進める作品。

  • 発達障害の兄と妹。兄の衝動的な行動で学校で恥ずかしい思いをしたり、自分と親との時間や愛情を奪われた気になっていた子供時代を過ごし、兄の行動全てに反発する妹。何かと言えば突っ掛かってくる妹が苦手な兄。祖父のガラス工房を継ぐことになった二人。骨壷を作って売ることでも対立しつつ、祖父の影響もあり、アーティストとして特別でありたい妹が、兄の作る骨壷が、死に向き合っている人達の気持ちを変えていくことや、才能でも敵わない自分に悶々としている時、兄の言葉に救われていく。良い意味でも、悪い意味でも使われる、人とは違う特別という言葉が表裏一体で、他人と較べたり、ラベル付けに意味はないのだと気づかされます。マイナスを打ち消すプラスがあるから存在価値があるみたいな考え方も気持ち悪い。うむ、その通りだと、バイアスに重ねて気付かされたりもして、多様性は認めて理解するものではなく、自分の事も含めて受け入れるもの、ということかな。

  • 泣かないでとか、いつまでも泣くなとか言うのは、弱いからです。泣いている貴方を受け止める体力がないからです。

  • 何も持っていなくとも、全ての人に生きる権利があると教えてくれる作品。

  • 妹の閉塞感もわかるし、兄の思いもわかる。ゆっくりとゆっくりと、ふたりの関係が出来上がるまでの物語。避けて通れない家族の物語は、シチュエーションは違えど自分と重なる思いを抱きながら読んでしまう。おすすめ。

  • 購入してから1年以上積んでいた本ですが、もっと早く読めば良かったと思うほどの傑作でした。
    発達障害のある兄と、特別な人間になりたいと思っても特別にはなれない妹が、祖父の吹きガラスの工房を継いでいく話です。
    話の中心になる工房の商品は、骨壺です。
    ガラスでオーダーメイドの骨壺を作るのです。
    オーダーメイドの骨壺を注文するお客のほとんどは身近な人などを亡くしているわけで、物語では、死と向き合わざるを得ない場面も少なくありません。そうした場面で、発達障害のある兄の言葉をはじめ、心にとどめておきたい名セリフがところどころに登場します。
    一般的に、発達障害の人は他者の気持ちに共感する力が弱いと言われることがありますが、思ったことをそのまま言ってしまう兄の言葉が、時として物事の真理を突いてくるのが、すごく良かったです。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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