木皿食堂

著者 :
  • 双葉社
3.50
  • (23)
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本棚登録 : 457
感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575305296

作品紹介・あらすじ

「すいか」「野ブタ。をプロデュース」「セクシーボイスアンドロボ」「Q10」夫婦脚本家が語る、日常の「奇跡」。この一冊に"絶品の言葉"がぎっしり詰まっています。名代「木皿食堂」へようこそ。

感想・レビュー・書評

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  • 関東在住になってからずっと、朝日新聞を読んでいるのだけれど
    この本を読んだら、神戸新聞に浮気したくなってしまいました。
    (関東にいても買えるのかしら?ムリですよねえ?)
    2年間神戸新聞に掲載されたという、冒頭の木皿さんのエッセイが
    なんだかもう、いちいち心に沁みてきて。

    音大を卒業したのに、その頃付き合っていた彼と離れたくない一心で
    東京の教育関係の出版社でコピーライターの真似事をしていた時期があります。
    そんな不純な動機で入社して、終電まで仕事と向き合う生活に耐えられるはずもなく
    (というより、こんな長ったらしい文章しか書けないのにコピーライターが務まるわけもなく)
    身体を壊して、たった半年で故郷の北海道にしおしおと帰るしかなくて。

    「親の猛反対を押し切って我儘を通したのに、私って思ってた以上にダメダメだー!」
    と落ち込みつつ、ひたすら安静にしているしかなかったその頃。
    カサカサに乾いた心を潤してくれたのは、「人はこうあるべきだ!」と
    大上段に振りかぶった啓蒙書やリアリズムにのっとった映画ではなく
    ありえない設定で繰り広げられる、ちょっと浮世離れした本やドラマや映画でした。

    『野ブタ。をプロデュース』にしろ、『Q10』にしろ、木皿さん脚本のドラマが
    トンデモ設定なのにどうしようもなく心に響くのは
    「現実に傷ついている人を救うのは、フィクションだ!」という
    揺るぎない信念のもとに、絞り出されているからなのだなぁ、と、しみじみ。

    博学で、奇想天外なアイデアを提示し、細部はおおらかに見守る、夫の大福さん。
    夫のアイデアに素直に感動し、演じる役者さんの思わぬ解釈もなるほど!と受け入れ
    時に号泣しながら、物語をかたち作っていく、妻のかっぱさん。

    ドラマ『すいか』で、「私みたいなもの、いてもいいんでしょうか?」と悩むヒロインに
    浅丘ルリ子さんがかけた「いてよしッ!」というひと言。
    出てくるのが横領犯だろうが、殺し屋だろうが、探偵だろうが
    いじめられっ子をプロデュースしちゃう高校生だろうがロボットだろうが
    木皿さんが描く世界には、いつも
    「役に立ってようが立っていまいが、溌剌としてようがぐうたらしてようが、
    とにかく、いてよしッ!」
    という力強いエールが鳴り響いているのです。

    • 九月猫さん
      まろんさん、おはようございます♪

      体調はいかがですか?
      今年の暑さは尋常じゃないですよね。わたしもバテてしばらく
      ブクログをお休み...
      まろんさん、おはようございます♪

      体調はいかがですか?
      今年の暑さは尋常じゃないですよね。わたしもバテてしばらく
      ブクログをお休みしていたのであまり偉そうにいえないのですが、
      ご無理なさらず、お大事にしてくださいね。

      神戸新聞、取れる環境なのに(しかも支社ビルが家から見える)
      まろんさんと同じ朝日購読で・・・なんだか申し訳ない気分です(笑)

      小さいときから内向的だったせいか、
      心を癒してもらったり、満たしてもらった本や映画は、わたしもやっぱり
      ふわふわしたものや、がっつりエンタメ系、いろんな意味でファンタジーの世界でした。
      今でもそういう本ばかり好むので、なんだか年齢なりのものが
      読めてないなぁ、とちょっぴり悩んでいたのですが、
      この本を読んで、それでもいいのかな?と思えてうれしくなりました。
      かっぱさんに「いてよし!」って言ってもらえたようで。

      まろんさんのレビューを読んで、今また胸があったかくなって
      なんだか少しほろりともしました。
      ステキなステキなレビューをありがとうございますっ!
      2013/08/18
    • まろんさん
      九月猫さん♪

      いえいえ、こちらこそ、いつも優しいお気遣いをありがとうございます。
      北海道育ちなもので、関東での暮らしが長くなっても
      いまだ...
      九月猫さん♪

      いえいえ、こちらこそ、いつも優しいお気遣いをありがとうございます。
      北海道育ちなもので、関東での暮らしが長くなっても
      いまだに夏のサウナ状態には身体が悲鳴をあげてしまう、ひ弱な私です。
      九月猫さんも夏バテのお仲間だったとは。
      なかよく一緒にこの猛暑を乗り切りましょうね!

      なんと神戸新聞の支社ビルが見えるところにお住まいなんですね。いいなぁ♪
      でも、朝日新聞も三谷さんのコラムとか、映画評とか、充実しているので捨てがたいですよね。

      私も、幼稚園でも小学校でも、「お人形さんみたい」
      (けっして可愛らしいということではなく、黙ってじ~っと座っているだけだったので)
      と言われ続け、通信簿には「わかっているならもっと発言しましょう!」
      と書かれるこどもだったので、九月猫さんも同じようなこども時代を過ごされたと知って
      赤毛のアンじゃないけど、「おお!腹心の友よ!」と叫びたい気持ちです。
      もしその頃、九月猫さんと同じクラスだったりしたら
      おずおずと近づいて、お友達になって、お気に入りの本を貸したり借りたりできたかしら?
      なんて楽しい想像がふくらんでしまいます。

      かっぱさんの「いてよし!」に背中を押してもらって
      歳なんて関係なく、胸を張って、「ふわふわ」や「わくわく」や「しみじみ」テイストの本や映画を
      これからも一緒に楽しんでくださったらうれしいです!
      2013/08/18
  • ブクログでいろんな方が書かれている「昨夜のカレー、明日のパン」の、ステキなレビューを読ませていただいて興味を持つ――ものの、人が亡くなるようなのでちょっと敬遠。でも優しいお話のようだし読んでみたいかもーと葛藤中(←大げさ)。
    ミステリとかなら、人が死んでもヘイキなのに……。

    けっきょく大好きな羽海野チカさんとの対談につられて、先にこちらを読むことに。

    神戸新聞での連載2年分。
    脚本を書かれたドラマについてのインタビュー4本。
    羽海野さんとの対談。
    他に、解説と書評・シナリオ講座のまとめ・シナリオ2本が収録されている。

    だいたい奥様の妻鹿(かっぱ)さんが語ったり書いたりしておられるのだけれど、インタビューなどでたまに差し挟まれる和泉(大福)さんの一言が良いアクセントになっていて、お二人の共同作業を垣間見たような気持ちに。
    入力する人の大福さんと、出力する人のかっぱさん。なんてぴったりな二人なんだろう。

    「ラブ」がニガテとおっしゃるかっぱさんだけれど、どの文章を読んでも大福さんのことを話す箇所にはラブと尊敬が溢れているように感じた。
    大福さんの入院生活や退院後の介護など、たいへんなことは想像をはるかに超えるのだろうけれど、あえて「やっぱりラブですねっ!」と言いたくなるほど。

    かっぱさんの書かれている文章や話されていることは、わたしにとってはすごく、なんというかリアルな人間の感情で、それだけに反発してしまったり、えーなんか違う……と思ったり、反面、すごくすごく共感したり、ひとつの言葉や表現がツボにはまりまくったり、好きなのか嫌いなのかよくわからないまま読んだ。
    人間どうしなんて全部わかりあえなくて当然、と書かれている文章を読んでしみじみその通りだよなぁ。と思う。
    どんなに気の合う人にでも受け入れられない部分は必ずあるし、どんなにニガテだと思った人にでも嫌いになれない、むしろ好きとさえ思う部分が必ずある。
    当たり前なのだけれど、そんなことを思い、とてもリアルにかっぱさんという一人の人間がいることを感じた。

    そして、リアルな人間を感じながらも、一番共感した部分が「人って、物語が絶対に必要だと思う」ということ。
    いろんなところに出てくるけれど印象深いのは、羽海野さんとの対談での、
     現実の世界がだんだんキツくなっているから、お話の世界だけは甘いものを。
     だけれど、甘いだけじゃなく確固たる理想があるフィクションでないと。
    という、お二人と、やはり同じように考え、
     甘いものも書くけれど、「現実は現実でたくさん!」と思われるより、
     「いいな」「ここに行きたいな」と思ってくれるよう願う。
    という羽海野さん。
    近頃、自分でも、好むお話がそういうものだと気付いたところだったので、すごく共感したし、なんとなく嬉しかった。
    子どもや動物や大事な人が難病だったり亡くなったり、大人の恋愛や不倫、救いのない結末の重い話……そういうものがニガテで、年相応のものがあまり読めていなかったりすることに悩んだりもしたけれど、「読み終わった人が元気をなくすものはイヤ」とか「いてよし!」と言ってあげられるものを書く、と言ってくださる書き手の方たちがいて、その作品に勇気づけられたり、ただただ楽しむわたしのような読み手がいたり、でもいいのかなって。


    レビューを書いたものには、もれなく☆をつけることにしているのだけれど、この本はわたしにとって、本であると同時に人間かっぱさんでもあるので、☆がつけられそうにない。
    ということで、初の☆なし評価で。

    • 九月猫さん
      あやさん、こんばんは~♪

      そうなんですよぉ、悲しいお話にも大切なことがあるんだって
      わかっているんですけれど、どうにもニガテで(≧д...
      あやさん、こんばんは~♪

      そうなんですよぉ、悲しいお話にも大切なことがあるんだって
      わかっているんですけれど、どうにもニガテで(≧д≦)
      猫ちゃんだとさらにさらに死なないでっ!!感が強くなりますよね。
      もう、リアリティなんて後からついてくる!!
      いや、むしろついてこなくていい!!
      いっそファンタジーということでっ!!
      とか、ファンタジーであってもなくても、作家さんに失礼なことを思ったり(笑)
      お話のなかだけは、多少のムリがあっても「オールハッピー♪」なのが
      やっぱりいいですね(´∀`*)

      木皿さんの本、たくさん積んでらっしゃるんですね。
      「二度寝で番茶」も気になってます。エッセイなんですよね?
      あやさんは、まずは「昨夜のカレー、明日のパン」お読みになるのでしょうか?
      レビュー楽しみ~♪にしています(*´∇`*)むふふー♪
      2013/06/29
    • 九月猫さん
      vilureefさん、こんばんは♪
      こちらにもコメントありがとうございます!

      わあ、この本、vilureefさんもお読みになるご予定...
      vilureefさん、こんばんは♪
      こちらにもコメントありがとうございます!

      わあ、この本、vilureefさんもお読みになるご予定なんですね。
      レビュー、すごく楽しみです!

      「昨夜のカレー、明日のパン」、だいじょうぶですか?!
      勇気づけられましたっ!近いうちに読むことにしますね♪

      >普段はきっと趣味の違うブクログ仲間さんと
      >1冊の本を通じて共感できるっていいな
      本当に本当に、わたしもそう思います。
      同じ本を同じように好きだというかたと知り合えるのは、すごい喜びですし、
      同じ本でも印象に残る部分・好きな部分が違うレビューや、
      自分が好きな本に「おもしろくなかった」というレビューがついていても
      どういうところがダメだったとちゃんと書かれていると、
      そんな見方・読み方がっ!と視野が広がるし・・・楽しいですよね♪

      こちらこそ、これからもよろしくお願いします♪

      あっ、ミステリもですが、ハリウッドの娯楽大作で、ばーん!ぼーん!と、
      人が死ぬのはわりとヘイキなんです(笑)なんででしょうねぇ(^-^;)
      2013/06/29
    • vilureefさん
      こんにちは。

      ハリウッド大作って無駄に人が死にますよね(^_^;)
      ここだけの話ですが(笑)、私ゾンビ映画が大好きなのです(≧∇≦)
      いず...
      こんにちは。

      ハリウッド大作って無駄に人が死にますよね(^_^;)
      ここだけの話ですが(笑)、私ゾンビ映画が大好きなのです(≧∇≦)
      いずれはブクログでもレビュー書いちゃおうかな、ふふふ。
      2013/06/29
  • 『昨夜のカレー、明日のパン』がよかったのでこの本も続けて手に取った。
    小説の世界はどこか浮世離れしていてほのぼのとした雰囲気が漂っていたけれど、メインでこの本を語るかっぱさん(奥様)は意外にも現実的な感じの印象を受けた。って、当たり前か・・・。

    私は木皿さん脚本のドラマをまともに見たことがない。
    木皿さんのドラマのファンだったらもっとこの本を楽しめたんだろう。
    どうしてもドラマの脚本の話が中心になっているので。

    それでもリアルな世界を創るには、現実をそのまま切り取ってもだめだというかっぱさんの言葉にいたく共感した。
    この時代、現実をそのまま映し出したドラマなんて見たくない。
    リアリティはあるけれど現実ではない。
    そのギリギリのところを見せてほしい。
    木皿さんはそのあたりを描くのが巧い脚本家なのだと思う。
    見てもいないので偉そうなことは言えないが・・・。

    それにしても脚本家が〆切間際にじたばたする様子が面白かった。
    本当にプロデューサーなしには脚本て書けないんだなとか。
    脚本が出来上がってないのにドラマの撮影が進んでいくなんてすごい。
    本当に間に合わなかったらどうするんだろうと心配になってしまった。

    なんだかとりとめのないレビューになってしまった。
    木皿ファンのみなさんが読んだら申し訳ないな。

    • vilureefさん
      九月猫さん、こんにちは♪

      「すいか」は初回は見た記憶があります。
      「野ブタ・・・」もチラ見した事はあります。
      「Q10」、全く見て...
      九月猫さん、こんにちは♪

      「すいか」は初回は見た記憶があります。
      「野ブタ・・・」もチラ見した事はあります。
      「Q10」、全く見てません(-_-;)
      おそらくAKBと言う事で拒否反応を示したんだと思います(笑)

      かっぱさんがどの役者さんについても巧い巧いって誉めてるのが印象的でした。
      本当かよって半信半疑ですが(^_^;)

      プロデューサーの河野さんが東京から飛んでくる様子が何ともいえず良かったです。
      プロデューサー業って大変ですね!
      2013/07/23
    • 九月猫さん
      vilureefさん、こんにちは♪

      「Q10」に関して、

      >AKBと言う事で拒否反応を示したんだと思います(笑)

      まったく...
      vilureefさん、こんにちは♪

      「Q10」に関して、

      >AKBと言う事で拒否反応を示したんだと思います(笑)

      まったく同じでございます(笑)
      (別にAKBはキライではないのですが)
      そして、

      >本当かよって半信半疑ですが(^_^;)

      これに笑ってしまいました!
      vilureefさんらしいツッコミだなぁって♪
      vilureefさんのそういうところ、すごく好きなんです(* ̄∇ ̄*)
      2013/07/23
    • vilureefさん
      九月猫さん、こんにちは!

      お褒め頂いて(?)恐縮です♪

      わたくし、ブクログでは猫かぶっているつもりなんです。
      それなに、やっぱ...
      九月猫さん、こんにちは!

      お褒め頂いて(?)恐縮です♪

      わたくし、ブクログでは猫かぶっているつもりなんです。
      それなに、やっぱりぼろが出ちゃうんですね(^_^;)
      つい、本音が・・・。
      2013/07/24
  • 脚本家・木皿泉のエッセイや対談集。
    「すいか」「野ブタ。をプロデュース」「Q10」などで知られる夫婦の合作ペンネームです。
    小説の「昨夜のカレー、明日のパン」が面白かったので、読んでみました。

    全体としては、作品を書き上げるのに苦闘する様子が一番印象に残りました。
    脚本家というのは視聴率のプレッシャーがあって大変だろうとは思うものの、ここまでのたうち回る仕事だとは。
    ところどころにきらりと光る言葉があって、なるほど、そこまで言葉を大事にしているから、この文脈でこう出てくるのだろうと。
    人に何を届けたいのか。
    何が幸せなのか、そこにいていいのか‥
    どうやって伝えるのか。葛藤しつつ生み出しているんですね。

    漫画家の羽海野チカとの対談は微笑ましいです。
    羽海野さんが必死で書いている様子は内容からもあとがきからも以前から想像がついていたので、似たもの同士理解し会える人に出会えてよかったねー‥と。

    「Q10」は好きでしたねー。
    「すいか」はよく覚えていないし、「野ブタ」はちょっとしか見ていないので、細かいところとどう照らし合わせるような話なのかがはっきりわからなくて、残念。
    普通の恋愛物を書きたくないという人だというのは、言われてみれば、なるほど、です。
    美男美女の俳優が誰がやってもいい恋愛のプロセスをたどるだけ、という恋愛もの批判はちょっと謎でしたが。
    時期的にも、ちょうど恋愛ものが飽きられてきたタイミングだったようです。

    茫洋としていてたまに神様のような発言をするという木皿泉(男)という旦那さん。
    言葉数多く、どんどん書くのと同じようにどんどん話題にも食い込んでいく印象の木皿泉(女)さん。
    夫が大福、妻がかっぱというあだ名で載っている対談もあります。
    病に倒れた旦那さんを介護しながらの生活。
    受け止めてくれる、甘えてもらえることが幸せだという。
    性格はドライと言いつつ、ご夫婦のお互いをかけがえがない大事な存在としている様子が伝わってきて、じわじわ心温まりました。

  • 我らの行く道が
    あまりにも長くてしんどい…
    と、思わず腰を降ろしてしまった時。

    ふふ、と込み上げた謎の可笑しみが
    だんだんだんだんふくらんで
    結局、バカみたいに笑い転げている。
    もはや、何が可笑しいのか
    まるで不明なのに
    涙が出るほど笑って
    「あーぁ…」
    で終わる、あの切ない爽快感。

    エッセイを読み終えて感じたのは
    その「あーぁ…」同様の気持ち。

    羽海野チカさんとの対談や
    書評も大変面白かったので、
    夫婦で脚本家だという彼らの作品の評価を
    ドラマを見ていた息子に聞いてみたら
    (野ぶた。をプロデユースやQ10など。)
    「普通。」
    と、答えた。

  • 進む道に悩んでいるときに読んだ本。
    「すいか」の大ファンだし、ほっとする表紙が気になって購入。
    悩んでいる私に、どストライクな事がたくさん書かれてあって、安心した。
    作者が仰る通り、自分を大事にしたり認めたりすることが今足りないのかもしれない。作者の人生経験から出てきた言葉だと思うけど、その想いが作者の軸になっているような気がして、私が「すいか」を好きな理由がわかった。
    木皿泉さんの言葉は、深いところで納得できる。染み込んでいく。
    この本は、思い出の一冊になりそうだ。

  • 表紙の針金クリームソーダがすごいなあ…と思っていたら、本文でも触れられていたり、インタビューで「カレーは夕方でパンは朝」「明日のパン」というフレーズが出ていて、おっ?と思ったらやっぱりこれが『昨夜のカレー、明日のパン』の題名になっていたりだとか、いろいろなインタビューや神戸新聞で連載しているエッセイをまとめただけのはずなのに、やけに木皿さんについて知った気になれる1冊だった。
    羽海野チカさんとの対談やら『天然素材でいこう。』の解説までしていて、ちょっと嬉しい。
    残念ながら木皿さん(たち)のドラマを見たことはないのだけど、見てみたいと思った。
    (ところで、周知の事実のようだけど、「修二と彰」ってドラマからの派生ユニットだったのか…知らなかった…)

  • ー第2話で、人魚姫の話を呼んだQ10の台詞「どうしてウソを書くのですか?」がすごく印象的で、最後まで見ていくうちに、このドラマ全体がその言葉に対する答えなのかな、と思いました。
    妻鹿:そうですね、やっぱりずっとウソの力、物語の力というものについては考えていますね。河合隼雄さんが何かの本で引用していた、どこかの国の神話があってー
    和泉:アフリカやな。
    妻鹿:それはどうやって世界ができたかっていう話で、ウサギとワニが出てくるんです。ワニが寝ている間にウサギが世界の半分を作る。で、ワニは起きると「世界が半分できたね」って言って、また眠ってしまう。その間にウサギが世界の残り半分を作った。また、ワニが起きて「世界ができたね」って言う。それで世界はできたっていうお話。
    和泉:それってウサギだけやんか!って話です。
    妻鹿:この神話って、成果主義的な世界に対するアンチテーゼなんじゃないかと思うんです。眠っている人、そこで夢を見ている人がいるから、ウサギも世界を作れるんじゃないか。世界って本当はそういうものなんじゃないかなって。今って成果主義というか、現実的な部分ばかりがすべてみたいなところがありますよね。でも本当は世界はそれだけでは成り立っていない。実際に働いたウサギだけではなくて、そこで夢を見ている存在も不可欠なんだって。その夢というのは物語だったり、ウソのお話だったりするんじゃないかなと思うんですよね。だから、誰もが立ちすくんでいるような今の世の中を打ち破るのは、やはりフィクションなんじゃないかと。反対に、そういうものじゃないと現実はもう打ち破れないんじゃないかなという気がしているんです。
    ーそれこそが物語の力ですね。
    妻鹿:私たちはいろいろなルールを守って生活しているわけですけれど、それは、単に皆が便利だからそうしているだけです。じゃあ実際問題、そのルールが揺らぎのないものかといえば、実はそんなことはない。
    和泉:世界なんて、今、たまたまこんなふうなだけで、明日はまったく違っているかもしれない。少し視点をずらすだけで世界は変わります。
    妻鹿:ルールに縛られて、生きにくかったり、息苦しかったりすることも、少し視点を変えるだけで楽になることもある。今ある世界を揺さぶることになるので、それは少し怖いかもしれないけれど。私たちの書く物語がそのきっかけになればいいと思うんです。

  • 木皿食堂が好きです。
    日常の何気ないものを丁寧に見つめて、そこからきちんと考察を得てて、なるほど!と思うところが多いです。

    だけど、ドラマはアクがちょっと…という私には、半分以上がドラマについてのインタビューをまとめたこの本は残念でした。

  • ・人の痛みを共有することは本当に難しい。でも深くわかることが本当に必要なのだろうか、と思うようになってきた。他人にわからないことこそが、自分が自分である証、という見方もあるんじゃないか。

    ・もし、食べていかなくてもいいということになっても、私はやっぱり働くだろう、と思う。何のために、と聞かれると、それはたぶん、人生という長い時間を自分のために生きられるほど、人は強くないからだ。
     
    ・「やる気がない」と怒ってすっきりするのは、言ったほうだけである。
    結果を出したければ、一緒に地道に考えて、工夫するしかない。締め切りの度にそう思う。

    ・私の一件だけでなく、他にも問題があったらしいが、それにしても、この切り捨ての早さは何なんだろう。これが今の世の中の常識なのだろうか。というか、こうまでしないと生き残れないのかもしれない。
    昔、「バカが多いから」女優さんがぽつりと言うCMがあり、まもなく打ち切りとなった。苦情が入ったからだという。その苦情を言ったのは、たった4人だったそうだが。
    少しでも不安な要素があれば排除してしまい、それで終わりにするやり方に、私は慣れてしまって大丈夫なのだろうか?それは、また、後日、言い訳する時間も与えられず切り捨てられる、ということではないか?
    私はもう少し怒っていたいのだ。あるいは、悔しくてもう少し泣いていたいのだ。その時間は、ひとりひとり違うだろう。なのに、はい時間ですよ、先に進みましょう、と言われてしまう。

    ・力のある映像は、そんなコツコツしたものでできている
    私たち作家の仕事は、そんな映像を作るすべての人たちを納得させることである。膨大な時間とお金と手間をかけて、なぜこれをやらねばならないのかを、皆に納得させる。できれば有無を言わせずに納得させる。それが、私たちの仕事である。
    (セリフとト書きは地図である)

    ・私は、道が拓けるときって向こうからやってくるものだと思うんですよ。こっちから行こうとしてもそれだけでは絶対にムリ。一人でこじ開けようとするからそう思っちゃうんじゃないですかねね。
    基本的にこの世の中のことは自分だけではどうにもできません。できると思っているから、できないことにいじけるんですよ。
    ちゃんと生きていたら、3話のモグラの話みたいに、ポコッと出会うんですよ。他の誰かと。そこで初めて道が拓ける。でもそのことに気づかず、出会いをつかみ損ねている人は多いと思う。周りをちゃんと見るべきです。一人ではどうにもできないですから。
    ※モグラは普段土の中をたった一匹で行動している。だが、発情期になると暗い土の中から相手をちゃんと探し当てる。それはまさに奇跡のような確率だ・・・ 「今、この瞬間」は奇跡のような確率で生まれたものだということを示している。それは一瞬で終わるものかもしれない。しかしだからこそ、「入れ替え不可能性」を確保することができるのだ。

    ・人生の「終わり」を意識しないと、人間は周りの変化に鈍感になるし、物事を惜しむ気持ちもなくなるんじゃないかと思います。

    ・ネットで応援ブログを読んでいた人の中には厭世的な人が多いんですよ。ちょっといじけちゃってるというか、斜に構えるのがかっこいいと勘違いしているというか・・

    ・基本的にこの世のことは自分一人ではどうにもできません。できると思っているから、できないことにいじけるんですよ。
    人間関係も「完ぺきじゃなきゃいけない」と思いすぎなんですよ。自分のことを全部わかってほしいとか、まるごと承認してほしいとか、そういうのムリですから。逆に「相手のことを全部理解する」なんてこともありえない。

    ・周りの人間は基本的にそこまで他人のことを見ていません。みんな自分のことでいっぱいいっぱい。これは断言できます。誰もあなたのことは気にしていないし、あなたが不完全なことも誰も気にしていない。ダメな人間は山ほどいるし、自分の好きなところをひとつ見つけて、そこを頼りにやっていくしかないんじゃないでしょうか。
    ちゃんとなんかしなくていいし、筋道なんか立てなくてもいいんです。「どーせ」とか言ったらそこでおしまい。やりたいこと、やれることを自分の力を信じて、最後までやればいいんです。

    ・またどこかで救いの手があるかもっていう願いを残したいんです。
    「ホントはないのかも・・・」と思っていても、子供に聞かれたら「あるよ」って言いたいんですよ。
    (「3月のライオン」の作者 羽海野チカさん)

    ・Q10第6話で藤岡誠君の弟が、彼に「生きてて何かいいことあった?」と、泣きたくなるようなことを尋ねたり、第一話から「誰か助けてください!」と叫んでいたり。
    -実は「誰か助けてください」って一番言えない言葉なんですよね。

    ・「ロケみつ」というテレビ番組の女の子(稲垣早希さん?)
    「人の親切は底が知れん、知れんわ~」

    ・他者と関わったことがないから、人の親切を垣間見ることもなく、だから、まさか助けてもらえるなんて想像がつかないのかも

    ・担当編集者さんが壊れたレコード方式で「うみのさん、ひとはいがいにやさしいもんですよ」って、いま百万回ぐらいずっと言ってくれる(「3月のライオン」の作者 羽海野チカさん)

    ・人に「助けて」って言えないと、誰も頼ってくれないんだ

    ・後悔しないたった一つの方法は最後まで考えることよ

    ・何でしょう、いつも「この世にないもの」を描かないといけない、無い世界を生み出さなきゃいけないから、「今、すぐ出せ」と言われても、できないときはできないんですよね。
    (「3月のライオン」の作者 羽海野チカさん)

    ・そうして、ようやく、「かきあつめたもの」でできあがる

    ・そうなのだ。「オチビサン」を読みむたびに、私は沙悟浄と同じような気持ちになるのだ。心の奥に何かがともるような気持になって、ほっとするのである。それは、今はやりの「癒し」などというものではない。もっとゆるぎない安心感だ。
    彼らが愛でるのは、四季折々の風景だ・・・・・・・・・・それは、イコール、私たちの人生そのもののような気がする。生まれて、恋をして、子供を産んで、死んでゆく。なんともはかない私たちの一生を、彼らがいつくしんでくれている。・・・・・そんなふうに思うことで、私はどうしようもない虚しさから、いつの間にか抜け出している。
    昔の日本には、長い時間の中に自分というものが存在する、と思い返せる機会があった。仏壇には過去帳というものがあって、めくれば、自分が生まれる前にどれほどの人が生きて死んでいったのかを知ることができた。時折開かれる法要は、自分が死んでも人が集まって楽しんでくれるという安心を与えてくれた。道具類は長く使われ、同じようにそれらを使ってきた先代の思いを重ねたりしてきた。
    今、なにもかも使い捨ての、自分が死んだらそれでおしまいと思っている私たちは、長いスパンで時間を見るすべを持たない。そして、個人では処理しきれない孤独を抱えてしまった。
    何かを慈しむと、自分もまた誰かに慈しんでもらっているということを自覚する。

    ・学校ってずっと電車の中で生活してるようなもんだと思いませんか?
    知らない者どうし箱に入れられて、ずっと仲良くしなさいと言われてもねえ。
    ・・・・その仲良しが曲者なんですよ。グループが大きくなると、なぜか態度もでっかくなるでしょう?大声でしゃべったりして、他にお客さんがいるのに見えなくなる。

    ・昔はユーザに対して、なんも考えてない時代だったんです。
    今は、。すべて計算しつくされています。
    安くてほしくなるものとか、飼ってしまいたくなるデザインであるとか、そういう基準しかないんですよ。
    私たちは何でも選んでいるようだけど、イコール、私たちも選ばれているんじゃないかと思います。
    何でも選べる自由があるのに、誰かに選ばれている不自由があるということが、ワンセットになっている。今の世の中は息苦しさを伴う時代なのかなって思います。

    ・人は一人っきりだと、自分というカタチを認識できず、本当にいるのかどうかさえも、よくわからないままでいます。でも、大切な人に出会うと、自分が何をすべきか、何のために生きてゆくのかを、たちまち了解します。

    ・他人にはわからないことこそが自分が自分である証

    ・地球から夕焼けがなくなったら寂しいと思うな。昔を懐かしんだり、一緒に泣いたり、家に帰りたいって思ったりできなくなる。

    ・ロボの言う通り、私はずっと自分の味方でいようと思う。なぜなら、私を救えるのは、宇宙で私だけだから。

    ・お金を稼ぐのは尊いことだと思う。が、同時に、踏みつけにされることでもある。自由を得ることであり、不自由になることでもある。

    ・気持ちというものは、見せようとすればするほど、わざとらしい、胡散臭いものに成り下がってしまう。もしかしたら、気持ちは、伝えるものではないのかもしれない。人に見つけてもらうものではないだろうか。

    ・「---私にも、やるべき仕事と帰れる場所があるんですね」
    「---そうだよ。幸せなんだよ、私たちは」

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著者プロフィール

夫婦脚本家。ドラマ「すいか」で向田邦子賞、「Q10」「しあわせのカタチ~脚本家・木皿泉 創作の“世界”」で2年連続ギャラクシー賞優秀賞。他に「野ブタ。をプロデュース」等。著書『二度寝で番茶』など。

「2020年 『さざなみのよる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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