あの子の秘密 (フレーベル館 文学の森)

著者 :
  • フレーベル館
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784577048504

作品紹介・あらすじ

第2回フレーベル館ものがたり新人賞大賞受賞作。
編みこみビーズの転校生・明來(あくる)が、友だちになろうと近づいた小夜子にはだれにもみえない秘密の友だち「黒猫」がいた。そして、 明來にもだれにも言えない秘密があって……。明來と小夜子、黒猫のはてしない心の旅がはじまる。

感想・レビュー・書評

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  • 第2回フレーベル館ものがたり新人賞大賞受賞作で、原題は「ハロー・マイ・フレンド」。

    序盤の、「小夜子」(小学六年生)の、他人を全く寄せつけない拒絶感は凄いものがあるが、そのピリピリした雰囲気を、「カシワイ」さんのニュートラルな絵が(各章の扉絵だけと、数こそ少ないが印象に残る)、そっと包み込んでいる、おそらくこの組み合わせが、本書の魅力をより高めているのだと感じました。

    内容はファンタジー色が強く、「明來(あくる)」の抱えた悲しみの動機が薄かったりと、気になる点もありましたが、それ以上に、グイグイ読み進めたくなる、ストーリーテリングの面白さが勝り、小夜子と明來以外にも、「優歌」や「巴」、「美咲」といった、個性的なキャラクターの描き方も魅力的でした。

    それから、小夜子の抱えた深い悲しみについて、おそらく想像力や感受性が豊かな彼女のことを、分かってあげることができなかったことが発端となり、以来、不信感でいっぱいになった彼女でしたが、その閉ざされた心を再び開かせようとしたのは、『友だちって何?』ということでした。

    『友だちって、なろうと思ってなるもんじゃないよう。困っているのを助けるから、友だちになってなんて、そんなのよくないよう』

    上記の言葉は、小夜子に向けたそれではないのだが、実は小夜子自身、大切なものへの想いが強すぎたことと、自分一人で抱えすぎたことが、無意識に答えを狭めており、がんじがらめとなっていたところに、ただ好きという理由だけで訪れた、その友だちは、まさに小夜子の心の扉を開く、大きな鍵だったのです。

    そして、その扉の先に待っていた大切なものの真意とは、なんだったのか。そこに待っていたのは、私の想像を上回った、その複雑な思いと、心の存在の不確かさでした。

    『心っていうのは、いまだに人知のおよばないものなんだ。大きくて、深くて豊かにいろんなものを秘めている』

    「心というものは確かに存在するのか」という問いに対して、実は誰も証明することができないらしい。

    しかし、それは逆に、どんなものにも心というものが、存在しているのかもしれない、ということにもなる。

    おそらく、私はどこかで、そんなことはないと、高をくくっていたのかもしれないし、その浅はかさの裏には、友だちのことも、そんなふうに考えたことがあるのではないかと、自らを戒める思いを抱かせてくれて、原題の通り、友だちの素晴らしさを、様々な角度から教えてくれました。

    それから本書での、○○ジ○○○フ○ン○の表現法や描き方には、とてもしっくりくるものがあり、感慨深いものがありました。
    興味のある方は、是非。

  • 友だちの心に踏み込むのは、怖い。
    その子のためにと思いながら、尊重しなきゃならない領域に踏み込むのは、していいことなのかどうか、いい年になった今もわからない。その子のためにと思いながら、それが本当にその子のためなのか、自分の自己満足にすぎないんじゃないか、自分自身にも判断がつけられないから。共感していると思っているこの気持ちが、本当に共感なのか、それとも自身の鏡像のようにその友だちを見てしまっているのか。
    幾つもの痛い思いを経て、その不安を手放すことは、もう私にはできない。だからこの物語の登場人物たちが、私には眩しい。

  • 誰にも見えない黒猫の友だちがいる小夜子と、触ると人の心がわかる明來のお話。
    小夜子に友だちを作るために、黒猫が離れていったのが切なかった。大事な友だちのために、自分がいなくなることを選ぶのは、つらいと思う。小夜子と黒猫が元に戻れてよかった。
    黒猫を探すために、明來が小夜子の心の中にもぐっていった場面が印象に残った。みんながんばった。でも、宇宙の果てのことを考えると眠くなるというのを試してみたけど、ぼくは、考えちゃって逆に眠れなかった。
    中心になっている3人以外にも、たくさんの人が出てきて、その人たちの気持ちがたくさん書いてあるのもよかった。
    たとえば、一見意地悪だけど、本当は小夜子と友だちになりたかった美咲のお兄ちゃんは、引きこもり。お兄ちゃんは、優しくて、他人のことを考えられる賢い人なのに、周りのせいでつらい生活を送っている。美咲も、本当はお兄ちゃんと仲良しなのに、周りのせいで堂々とできないのがかわいそう。小夜子のクラスでも、意地悪な人は意地悪だし、意地悪のまま変わらない人もいると思う。2人にも、もっといい所で幸せになってほしい。(小6)

  • 第2回フレーベル館ものがたり新人賞対象の受賞作。
    はあ、児童書はいいなあ。
    ヤングアダルトのくくりになるのだろうか。
    これは小学生にも中学生にもおすすめしたい1冊。


    テーマは「イマジナリーフレンド」。
    心のなかの黒猫を支えに生きる少女と
    人の心を読める少女が出会う。

    ふたりと1匹が「こころ」を巡って旅をします。
    心って、どこにあるんだろうね?


    人の心を読めてしまうがゆえに、道化を演じることが出来る少女と、
    黒猫がいれば1人で生きていける、と思っている少女。
    この2人と1匹がメインだけど、
    ほかのまわりのお友達もとてもいい味を出しています。
    ド天然の少女に、
    いわゆるクラスの「リーダー格」の少女に。
    この話でよかったのは悪者が1人もいなかったところ。
    それぞれ素敵な役割があって、心が暖かくなります。

    イマジナリーフレンドが題材の本で
    こんなに踏み込んだ作品を読んだのははじめて。
    ありきたりなクライマックス、ではありません。
    2人と1匹がどんな結論を出したのか、ぜひ読んで欲しいです。

  • 図書館の児童書コーナーにあったので、小中校生向けなのかも。人の心がみえる不思議な能力を持つ女の子が、殻に閉じこもって周囲を拒絶する同級生と出会い、その子が大切にしていた心の片割れを探して、結果的に自分も救われる系の話。それぞれが大事にしていたこと、それを傷つけられた痛み、何もできなかった後悔、人の心を想う気持ちが痛みに共感し、距離が近くなっていく過程に、たまに涙腺も緩みつつ、癒されます。若干SF要素と、明るいけど心に人知れず影をもつ主人公、ツンデレ、天然、姉御系?の友達。それぞれのキャラ構成をみてると、アニメの原作(か小説版)を読んでいる気にもなるけど、主題に対してタッチが軽くなり、素直にストーリーも入ってくる。面白かったです。

  • 誰もが、何かに、誰かに支えてもらって生きている。読んでいて心が震えた。まだ感動して、感想をうまく言えない。登場人物が、言い回しが、ファンタジーなのに、現実の自分に刺さる。宝物になるそんな本。

  • 1月7日にして、すでに今年のベストブックを読んだ気分。
    とてもよかった…!
    小夜子が他の子には見えない友だちを大切に思う気持ち、その友だち自身の気持ち、他人の心を読めてしまう明來の気持ちの深さを読ませてもらった。
    美咲と優歌も優しい子で嬉しい。

  • イマジナリーフレンド-空想上の友だち-が題材の一つとして出てくる児童書です。自分にしか見えない親友を持つ女の子と、触れると人の心が分かる女の子 。互いに秘密を抱えて人間関係を築いていく…。
    人を見た目だけで判断してはいけないね。明るそうな子が実は心に闇を抱えていたり、何も考えてなさそうなボケっとした子が実は芯が強かったり…心の中はわからない。
    高殿方子さんや石井睦美さんが選考委員を務める『第2回フレーベル館ものがたり新人賞大賞受賞作』です。

  • みえないおともだち、を共に生きたいと願ったら、それでいいんだよ、いなくならなくなんていいし、離れようとしなくてもいい。と安心の気持ちにさせてくれるおはなしで、あたたかいな、とおもった。(さよちゃんのご両親のような考え方が多い気がする。)
    まさかあくるちゃんも特殊能力があったとは…、とこのふたりのバランスと、ゆうかちゃんの真っ直ぐなやさしさ。ゆうかちゃん、あんなふうに言える子、すてきだな、とおもうところがいっぱいあった。
    あくるちゃんが思ったように、みさきちゃんには最初身構えてしまったけれど、気づかれなくてもいい。陰で支えるって、すごい大人な子だな…。お兄さんもやさしい。
    いい子たちだらけでびっくりです。(よかった!)

  • フレーベル館ものがたり新人賞第二回大賞受賞作。前半はオリジナリティあるストーリーで圧倒的に面白い。中盤には大人でも思わずはっとするフレーズの数々が存在感を放つ。そのフレーズを際立たせる展開があってこその重み。登場人物全員の振る舞いが大人顔負け。残念ながら後半が微妙。それでもこれがデビュー作、作家の力量を感じさせるには十分だった。あとがきを読むと、編集部と改稿を重ねタイトルも変わっている。当初の原稿も読んでみたかった。それにしても最近の児童書は親の離婚、シングルマザー、引きこもり、不登校などの設定が多い。

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著者プロフィール

1991年生まれ。鎌倉市に育つ。2011年より本格的に児童文学の創作を始める。第2回フレーベル館ものがたり新人賞大賞受賞作『あの子の秘密』 (「ハロー・マイ・フレンド」改題)にてデビュー。2020年、同作で第49回児童文芸新人賞を受賞。2022年、『りぼんちゃん』で第1回高校生が選ぶ掛川文学賞受賞。ほかの作品に『キャンドル』(すべてフレーベル館)。

「2023年 『きみの話を聞かせてくれよ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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