- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582744293
感想・レビュー・書評
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作家の手による歴史書、ということもあって、読みやすい本です。
ややイスラーム社会やその歴史に肩入れし過ぎている感はありますが、現状(イスラームが強い偏見にさらされている状態)を考えると、著者自身が言うように、「バランス」を取るためにはこのくらいのほうが良いのかもしれません。
主に科学や技術の歴史を、イスラームの影響という観点から見直した一冊。歴史観の変更を迫られるような箇所が多々あります。刺激的。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本の中で紹介されている歴史書や詩集を、この本の翻訳者、北沢方邦の訳で読みたい。
文語文の翻訳がとても美しくて、本を読んでいる最中だけど、そちらにすっかり魅了されてしまっている。 -
サイエンス
歴史 -
度を超した西欧中心史観の横行によって、「イスラームの科学・思想・芸術が近代文明をつくった」ことは、いまや忘れられている。「失われた歴史」とは、そのことの謂である。
かつて世界の先端を走っていたイスラーム文明。だが、その「中心地の若干は、貧困や経済的停滞、また政治的不安定性といった一連の諸問題すべてを背負う発展途上国の一部となってしまった」。
《数世紀にわたり多くの領域で世界を導き、西欧思想と科学興隆の基礎を提供したこれらの社会は、なぜ遅れをとるにいたったのか?
歴史家たちや学者たちは、時の終わりまで論争をづつけるだろう。》
これは「エピローグ」の一節だが、本書の眼目は、「なぜ遅れをとるにいたったのか?」の答えを出すことにはない。西欧中心史観によって不当に隅に追いやられたイスラーム文明の黄金期に、正当な歴史的評価をもたらすための啓蒙こそが眼目なのである。
ジョゼフ・ニーダムの『中国の科学と文明』(邦訳で全11巻に及ぶ)や、ディック・テレシの『失われた発見』(西洋のものとされてきた科学の大発見の多くが、じつははるか以前の非西洋世界で生まれていたことを網羅的に紹介して、科学史の常識を覆した本)などの先行諸作に、勝るとも劣らぬ労作。イスラームに対する見方が大きく変わること請け合いだ。 -
400Pちょっとなのにとても時間がかかった。人名と都市の名も馴染みがなくイメージしにくく、またパッと見、人名なのか地名なのかもよくわからない。無知な自分にはなかなか荷が重かった。
理解したとは言い難いが、なんとなくわかったのは古代ギリシャの叡知の次の担い手となったのがイスラームの人々だったということである。
今まで古代ギリシャの叡知を引き継いで発展させたのは西欧諸国というイメージがあった。これについて両者の時間的な開きが有りすぎるなとなんとなく思ってはいたが、それはキリスト教の教義が科学の発展を阻害していたためだと考えていた。
しかし、本書が提示したのは、イスラームの人々が古代ギリシャ以来の空白を埋めていたということだった。これは確かに、失われた歴史なのだと感じた。
ただ、そもそもイスラームとは何なのか?という根本を自分はまるで分かっていなかった。また、知っている前提で書かれている部分も多く、その前提すら自分は知らないという状態だった。
ただただ、勉強して参りますと思う。 -
テーマ史
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『「歴史」に登場しないすごい人』というのがいる。
私たちが学校で教わってきた or 教わっている世界史の教科書に、どれだけアラブ・イスラム世界の情報が入っているだろうか?思い出して欲しい。そのほとんどは、欧米世界視点の内容ではないだろうか?西欧で言うところの「ローマ帝国」「十字軍」「ルネッサンス」「産業革命」「世界大戦」あたりは何とも詳細な「歴史」が残っているが、それは世界史の中では一部の地域でしかないことを疑ってみたことはあるだろうか?教科書というのは、ためにもなるけど、メディアにもなるということに気付けている人はどのくらいいるだろう?
この本では、西欧のルネッサンス以前に栄華を誇ったアラブ・イスラム世界の学問の重鎮たちを紹介している。時代にしたら主に7〜12世紀。PCも電卓もなかった時代に、1年の長さや円周率や地球の面積などを、今とほぼ変わらない数値ではじき出したのも、外科手術を可能にし、今でも西洋医学の教科書とされる医学本を執筆したのも、西欧の文壇を虜にした文学や詩の数々も、この頃のアラブ・イスラム世界の技術者や科学者や文学者だった。
この本は、タイトルどおり、『失われた歴史』を補充してくれる最良の本だと思う。