洪水と治水の河川史 増補: 水害の制圧から受容へ (平凡社ライブラリー お 20-1)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582766110

作品紹介・あらすじ

川とは、人にとってどのような存在なのか。近代治水技術の発展と限界を歴史的・具体的に検証し、自然との共生をめざす治水のあり方、「溢れても安全な治水」とは何かを追究した画期的著作。脱ダム問題なども含め、近年の研究を踏まえた新論考「川の本質を考える」を増補した新版。

感想・レビュー・書評

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  • 日本の治水の歴史について、具体例をもとに説明がなされてゆく。利根川や信濃川、北上川の流路変更など、治水事業の「結果」しか知らなかった私にとって、そこにいたる経緯がわかった。
    左右岸、上流下流、港と農地、人口増による新たな要望の顕在化など、治水に関わる利害調整が印象的であった。技術がいくら進歩しても、利害調整が肝なのだと感じた。
    明治に入り強権のもと中央政府が調整しやすくなり、そこに技術力も加わって大規模な事業を行えるようになると、それはそれで素晴らしいのだが、一方で地域の住民の防災意識が薄まっていく事なども指摘されていて、確かに昔の人に比べて治水に対する意識はないなぁと思った。

  • 大変な名著。

    地域間対立の解消、としての近代治水。その前提の下での「一滴も水をあふれさせない」という思想の欠陥。そして、河川技術を住民から完全に奪い独占してしまっていることに伴うべき「責任」。
    それらがストレートに述べられている。

  • 高橋裕先生のお弟子さんである工学者による、洪水と治水の歴史を扱った本。「一生に1回ぐらいは洪水を経験すべき」だとの指摘は大変に意義深い。

  • 利根川東遷について興味があったので読み始めた。
    江戸時代までは水害よりも船運が重視されていたとのことは知らなかった。
    水害は必ず起きるものという前提で昔の人達は様々な工夫を凝らしてきた。
    読んでいて思うのは、歴史認識における江戸時代までの封権主義的なイメージと異なり、現代と同様に領主も役人も農民も一緒になって災害に対処してきたのだと認識を新たにした。
    それにしても、圧倒的な機械力の出現によってそれまでの水防の考えが根本から変わってしまった事が本書で述べられている。江戸時代までの人達が望んでも不可能であった巨大な堤防、排水路が設置され水害の危機が遠いものとなった現代において、人々の関心が河から離れていく危険も著者は警告している。水害は起こるものという備えが無くなり、洪水の余水帯であった地域にまで人家が建ち並ぶようになった現代において昔の地域の知恵が忘れ去られ人知を超える災害が起こった時の被害は計り知れない規模となってきている。
    かといえ、解決策は見つからず今後もテクノロジーによって対処するしかないのであろうか。
    本書は非常に示唆に富む内容であった。
    それにしても、大河津分水が明治時代に完成したとは信じがたい。

  • 2009/11/1図書館で借りる

    第一章:現代治水の勝利と破綻
    第二章:川の個性と水害
    第三章:自然の制約と技術の限界下で
    第四章:近代技術の登場と水害への対応の変化
    第五章:自然と共存する水害への対応

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著者プロフィール

新潟大学名誉教授。専門は河川工学、河川土木史。川を「社会的共通資本」ととらえ、自然と人の関係、川と人の関係から地域住民の立場を尊重しながら研究。「ダムは要らない!」国の方針に逆らっても学問的信念を貫いた市民河川工学者。NPO 法人新潟水辺の会顧問などを務める。

「2020年 『洪水と水害をとらえなおす』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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