チェコSF短編小説集 (平凡社ライブラリー)

制作 : ヤロスラフ・オルシャ・jr.  平野 清美 
  • 平凡社
3.50
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582768725

作品紹介・あらすじ

『ロボット』『山椒魚戦争』を生んだ中欧の小国チェコ。戦間期から冷戦、社会主義崩壊まで激動の20世紀に育まれた本邦初訳の11編

感想・レビュー・書評

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  • 古くは戦前(20世紀前半)から、
    最も新しいものは2000年に発表された
    チェコのSF小説を精選したオムニバス短編集、
    但し、中編小説の抜粋版を含む、全11編。
    全体主義への批判・諷刺の色が濃いのも、
    歴史を振り返れば当然か。
    読み応えは充分だったが、
    意外に「おぉっ」とのけ反るような驚きは少なかった。

    以下、ネタバレしない範囲で、全作品について少々。

    ■ヤロスラフ・ハシェク
     「オーストリアの税関」(1912年)
     事故に遭って手当てを受けた男は何故、
     税関で足止めを食ったのか。
     四角四面なお役所対応に苦笑い。

    ■ヤン・バルダ
     「再教育された人々」(1931年)
     ファシズムに支配された未来社会で禁書を繙き、
     真実を知った男女が裁判にかけられる悲劇。
     抜粋された法廷でのシーンだからか、
     舞台劇のような印象。

    ■カレル・チャペック「大洪水」(1938年)
     大切なことに没頭していれば
     生命の危機も乗り越えられる(?)。

    ■ヨゼフ・ネスヴァドバ「裏目に出た発明」(1960年)
     オートメーション調査研究員シモン・バウエルは
     工業製品生産の自動化を実現し、特許を取得。
     我が世の春を謳歌するはすだったが……。

    ■ルドヴィーク・ソウチェク
     「デセプション・ベイの化け物」(1969年)
     NASAにスカウトされ、惑星探査船乗組員になるべく
     厳しい訓練に参加した語り手と仲間たちは、
     カナダ北東部のラブラドール・ツンドラを
     踏破せよと命じられた。
     ルートに仕掛けられたトラップをクリアすれば
     ボーナス増額と聞いて張り切る一行だったが……。
     酔っ払いの馬鹿話のような調子で始まり、
     段々恐ろしい物語になっていく展開が素晴らしい。

    ■ヤロスラフ・ヴァイス「オオカミ男」(1976年)
     ブルガーコフ「犬の心臓」を連想。
     共同研究者に嵌められた教授の悲劇と復讐、
     そして暴走。

    ■ラジスラフ・クビツ「来訪者」(1988年)
     不躾な訪問者の唐突な要求は……。

    ■エヴァ・ハウゼロヴァー
     「わがアゴニーにて」(1988年)
     女性が主体となって世帯を運営する
     排他的な団地の様子が、
     自分たちの生活こそが正しいと信じながらも
     外部からもたらされる情報に動揺せずにいられない
     女の目を通して描かれる。
     歪(いびつ)な村社会と
     女同士のマウンティング合戦。
     同質性を求められる集団に安らぎを覚えつつ、
     同時に苦痛を味わい続けるという皮肉。

    ■パヴェル・コサチーク
     「クレー射撃にみたてた月旅行」(1989年)
     J.F.ケネディの来歴・人物像が改変・捏造された
     奇ッ怪な物語。
     恋人となったジャクリーンの兄ダニーが
     天文マニアで、
     宇宙からの公文書をキャッチしたと告げ、
     月をゴールとする競争に参加しようと言い出す。
     ケネディは自分こそ月到達を達成すべき人間だと
     確信し、大統領に就任したが……。
     東西冷戦下の宇宙進出合戦を戯画化したものか。

    ■フランチシェク・ノヴォトニー
     「ブラッドベリの影」(1989年)
     火星探査チー厶を見舞ったアクシデント。
     スタニスワフ・レム『ソラリス』風SFであり、
     レイ・ブラッドベリ『火星年代記』への
     オマージュでもある。
     火星を探査→征服すべく乗り込んで行ったとしても、
     地球人の常識・価値観をそのまま持ち込み、
     適用することはできないのだった。
     『火星年代記』は高校生のときに読んだはずだが
     記録が残っていない、再読したい。

    ■オンドジェイ・ネフ
     「終わりよければすべてよし」(2000年)
     大賞を受賞したカメラマンがテレビ番組で
     女性キャスターのインタビューを受けたが……。

  • SF。短編集。
    チェコのSFといえば、チャペックの名前だけしか知らず、何の印象もないまま読む。
    ハードな作品と、ブラックでコミカルな作品のどちらか、という感じ。
    ハードめだと「デセプション・ベイの化け物」「オオカミ男」、軽めの作品だと「大洪水」「クレー射撃にみたてた月飛行」が好き。
    派手な作品はなかったが、どの作品もなかなかに楽しめた。

  • 2022/1/15購入

  • SFやっぱり好きだわ〜という気分になりました。
    「アゴニーにて」とか「終わりよければすべてよし」が楽しかった。

  • 20世紀チェコのSF短編が集められており、作者についての紹介もあって
    単純な読み物というだけでなくSFに関する資料でもある
    個人的に一番好きだったのは『オーストリアの税関』。
    ちょっとダークで、しかし現実離れした淡々とした語り口で印象に残る。

  • チェコといってもカフカしか知らなかったけど、東欧の中でも有数の工業国であったし、共産圏の抑圧やロシアの影響が反映されてちょっと暗いけど独特の雰囲気をもった作品が堪能できた
    ディストピアを描いていても、最近のSF映画にあるような退廃的な感じじゃなくて、論理的でしつこい感じだしそこからどうやっても抜け出せない絶望がひしひしと伝わる
    SFをエンターテイメントというより文学としてとらえてるのかなと感じる一冊だった
    裏を返すとカフカの発想の背景を垣間見れる本でもあると思う

  • 入り込めないと読むにも結構気が進まない作品集。この気難しさはSFとチェコの両方の要素にあるかも。

    合ったもの
    「オーストリアの税関」★4
    旅先でサイボーグになった主人公が、身体のパーツが一々関税対象品に当たって帰国できないという、軽妙な皮肉が利いた話。「どこの馬の骨かもわからぬ馬の骨」は訳者の機転なのか。

    「デセプション・ベイの化け物」★4
    NASAの軍曹たちが、地球外生命体との遭遇のシミュレーション中に本当に遭遇してしまう回顧譚。軽口まじりの語りが聴き心地良い。

    合わなかったもの
    「わがアゴニーにて」★2
    生物学、監視と村八分で構成員を抑圧する社会、家母長制、というモチーフを混ぜ合わせた作品。といっても、生物学的なモチーフが実のある形で話の筋と溶け合っていないのでは。

    「クレー射撃にみたてた月飛行」★1
    表面的には、J.F.ケネディが月への飛行を目指す話に、ケネディ暗殺の話が混じる。なんだか脈絡が取れず、つまらないコラージュを見せられてるよう。

  • タイトルの通り、チェコのSF作品11編を集めた短篇集。
    最も古い作品が1912年、最も新しい作品が2000年に発表されている。
    チェコスロバキアからチェコとスロバキアが分離したのが1993年なので、全11編中10編はチェコスロバキア時代の作品になっている。

    チェコの作家といえば、カレル・チャペックが最も有名なのだろうけれど、実は僕はこの人の短編集を全く面白いと思わなかった。
    色々な人が「絶賛」しているので、きっと僕の感性がおかしいのか、僕が読んだ短編集の翻訳がひどかったのか、あるいはその両方なのか、とにかくどこをどう面白がっていいいのかすら判らなかった、という経験がある。
    なにはともあれ、カレル・チャペックって「ロボット」という言葉を作った人と言われているし、「山椒魚戦争」はSFの古典的名作と言われているのだから、凄い人なのである。
    そんなカレルの作品も収録されているのだが、まぁあまり面白くなかったので僕とはトコトン相性が悪いのだろうなぁ、と思う。

    ちょっとよく判らなかった作品や、前出のようにあまり面白くない作品もあるのだけれど、全体的には結構面白く読み進めることが出来た。
    僕としては「再教育された人々…未来の小説」「裏目に出た発明」「デセプション・ベイの化け物」「オオカミ男」「ブラッドベリの影」(これが僕にとってのベスト)「終わりよければすべてよし」(反ナチ作品なのかな)といったところが面白かった。

    古い作品はやはりプラハの春とか、ソ連の侵攻とか、共産主義政権とか、警察国家とか、チェコ(スロバキア)が辿ってきたけっして平和ではない歴史や社会情勢が反映されている作品が多いのだろうな、と思える。
    上にあげた「再教育された人々…未来の小説」「裏目に出た発明」「デセプション・ベイの化け物」などはそんな印象を受けた。
    なので、単純に「SF」と言われてもちょっと異質なものを僕は感じた。
    まぁ、それが本書の楽しみを奪い去ることはなかったですが。

  • 難しかったな。正統派のSFといった作品。どれも目が滑る中、最後のインタビュー形式の「終わりよければすべてよし」オンドジェイ・ネフがわかりやすかった。あとはヤロスラフ・ヴァイスの「オオカミ男」くらいがなんとか印象に残った。特にチェコらしさというのははっけできず。全体的に息苦しい感じで、ユーモアがないとしんどいなあ、という感じでした。

  • チェコのSFを日本で読めるのは本当にありがたいのだけど、正直翻訳があまりうまくいってないものが多い。でももっと読みたいのでがんばってください。

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