- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582837599
感想・レビュー・書評
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3年前の著書『自殺』に続いて、2文字のシンプルなタイトルのエッセイ集である。
『自殺』は、少年時代に母親を自殺で喪った末井が、自殺をテーマに綴ったエッセイ集であった。それに対して本書は、末井の2度の結婚生活のことを中心にしている。
『自殺』も『結婚』も自伝的エッセイであり、重複する話も少なくない。また、末井の現在の伴侶である写真家・神蔵美子の自伝的写真集『たまもの』に出てくる話もある。
なので、末井の著書をずっと読んでいる読者にとってはやや既視感のある本だが、同じエピソードでも取り上げる角度は異なるので、十分楽しめる。
本書は、微温的な「結婚の心構え」などとはかけ離れた内容である。なにしろ、末井も神蔵美子も、世間の一般的常識にはあまり頓着しない破格の人物だから。
本書の元になったウェブ連載の執筆依頼を受けたとき、末井は「『読んだら絶対結婚したくなくなる本』だったら書きたい」と思ったのだという。
たしかに、エッセイの中で回想される著者の両親の結婚生活などは、すさまじいものだ。
《父親は食欲と性欲だけで生きている下等動物のような人間でした。》
とか、すごいインパクトのフレーズが頻出する。
また、末井の最初の結婚生活が破綻していくプロセスも、自らの古傷を刃物でえぐるように容赦なく書かれている。
《妻をしあわせにしようと思ってがむしゃらに働いたのですが、その結果、妻に嘘ばかり言うようになっていました。妻がしあわせを感じていたのは、ひょっとして僕が失業してアパートでゴロゴロしていたころだったかもしれません。お金はなかったけど、いつも一緒にいて、僕を疑うことは一切なかったはずですから。》
ダブル不倫の果てに再婚した神蔵美子との結婚生活も、いまは落ち着いているようだが、最初のころは精神的修羅場の連続である。
……と、そのような内容でありながら、読後には結婚の肯定的側面のほうに目が向く。「あとがき」に次のような一節があることは、象徴的だ。
《人は変わっていけること、結婚はそのチャンスだということを、この本を書いて改めて認識したように思います。》
巻末の高橋源一郎(結婚5回・離婚4回のベテラン!)との対談で、高橋は末井昭の文章を絶賛している。
たしかに、強烈なエピソードを淡々としたユーモアにくるんで綴る、末井ならではの文章である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
フリーの編集者であり、作家でもある著者の結婚にまつわるエッセイ。
なかなか複雑な生い立ちであることも関係していると思うが、私にはちょっと理解できない世界であった。
「パートナーに嘘をつかないこと」というのは理想論であると個人的には思う。
2人の関係を維持するために嘘が必要な時もある。
略奪婚のような形で今のパートナーと一緒になったようだけど、前の奥さんの方が良かったのでは?と勝手ながら思ってしまう。
「ぶつかり合うことでお互い成長できる」と言えば聞こえはいいけど、宗教や聖書にすがりつかないと維持できない夫婦関係というのは、もはや破綻しているのでは。
そして、何より、エッセイの内容があまり幸せそうに見えない。
まあ結局は、お互いが良ければそれでいいのだろうけど。 -
一言で言えばとても面白かった。それは筆者の言葉が赤裸々に思えるからだろう。
聖書について興味を覚えるきっかけになりそうな一冊だ。 -
2020/1/31購入
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読了。やっと読んだ。著者は酷い人間に思えた。でも生い立ちを考えると仕方ないのかなと思ったりする。「相手のしあわせをたえず祈れ」と書かれた箇所は、私の心に刺さった。
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「人はメリットを求めて結婚しているわけではないと思います。もしそうだとしたら、結婚は商取り引きと同じです。そういう物質的というか、外側のことではなく、僕が読みたいのは結婚の意味について書かれている本です(p.198)」
「結婚の意味は「変わる」ことにあるのではないかと思います。自分が変わる。相手が変わる。そして前より楽しくなる。それが結婚の本当の意味であり、結婚の醍醐味でもあるのではないでしょうか(p.199)」
前著と重複する部分も多いけれど、対談で高橋源一郎が言うように「結婚」というテーマで改めてまとめ直されることに意味がある。他人同士がともに生きるということを真正面から語る。嘘のない関係を築くこと、同じ指針を持つこと。
「高橋 「結婚」という事柄には、僕たちをあるきちっとした位置に戻す作用がある(p.210)」
「金持ちになりたいとか、有名になりたいとかではなく、「表現しないと死んじゃう人」が世の中には本当に存在するらしいということだ。それはすごく乱暴に言えば、普通の人間が無意識でやっているように、他者に対して自分の良い部分だけを「切り売り」したりできず、自分のすべてを他者の前に表したい気持ちが強い人たちであるように思う(p.158)」
「一般的には、人が大勢集まっているときは、多数のほうを優先させます。つまりこの場合、集会を進めます。しかし千石さんは、まず美子ちゃんの悩みを優先させました。そして美子ちゃんの悩みを、集会全体の悩みとして受け止めてくれました。そうすることが「相手のしあわせをたえず祈れ」ということだと、その行為を通じて教えてくれました(p.179)」
「愛されたい者同士が一緒にいてもうまくいきません。愛するということは、愛されているという意識を持つ者がいて成立します。(中略)極端なことを言えば、男であっても女であっても、愛する者と愛される者がいれば愛は成立するのではないかと思います(p.191)」 -
植本一子さんとの対談が入っているのに惹かれて読んだ一冊だけれど、なんというかすごい。結局神蔵美子さんの「たまもの」「たまきはる」にも手を出してしまった。
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著者の2度の結婚生活を振り返り(ちなみに2度目はまだ継続中)、男と女が一緒になるとはどういうことか、幸せとは何か、について考えた本。
既に現在の妻である、神蔵美子の「たまもの」を読んでいただので、これで夫婦のそれぞれのパートナー評に触れたわけだ。
好き放題に生きてきた著者が、「女は男を愛せない」とか「日常のなんでもないことが楽しくなること、それが『しあわせ』ということなのかもしれません」などかなり達観した感じになったのは、やっぱりトシのせいなのか、それとも今までの数々の修羅場を潜り抜けてきたからこその境地なのかは不明。
いずれにせよ、「たまもの」との併読は必須。
あと、本書とは関係ないが、著者の初著作「素敵なダイナマイトスキャンダル」が映画化されるらしい。こちらもぜひ見てみたい。 -
とても肯定できない結婚本。
前妻との終わりかたが特に非道すぎて大嫌いだ。
勝手すぎる。
29年一緒にいた夫に、とつぜん好きな人ができて、ろくに説明もなく家出されたら…
美子さんとの生活の話になってもそちらの気持ちに踏ん切りがつかず、上の空で読んでしまった。
美子さんもまた、素ん晴らしい旦那さんにお別れを告げて、末井さんと一緒になる。
いろんなことが、それでいいの?というまもなく過ぎていく。
これが恋愛のリアルなんだなあともおもう。
たしかにあんまりない結婚本です。
「たまゆら」「死の棘」が読みたくなる。
あいだに挟まっている植本一子さん、高橋源一郎さんとの対談がとてもよいです。